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No.118 まるでアイドルのよう

「ほ、ほんもの?」


 目を輝かせるミズナに、ミナヅキはさも当たり前だという風に言う。


「ああ。皆には既に知られていると思うが俺はタクローだ。一応、日本を代表するとまで言われたeスポーツプレイヤーだからな、上位ランカーの知り合いは多い。彼もその一人だ。今回、力を貸してほしいと頼んだら快諾してくれた」


 まるで予め用意されていたかのようにすらすらとミナヅキは言うと、おお! という声が上がった。


 まるで超有名なアイドルと会ったかのような反応だ。騒ぎに気付いた他のメンバーもやってきて、ぼくを取り囲んでは「本物?」「マジで?」「スゲー、ランカーが二人もいる!」と騒いでいる。


 ミナヅキはこういう場面になれているのか平然としているが、こっちにそんな経験はない。少し気恥ずかしさに、現実の方では顔が赤くなるのが分かる。


 ミズナはより目を輝かせ、ドラさんは珍しいものを見たかのような奇異の目を向けてくる。


 そして、コーマは、


「俺は夢を見ているのか、まさか本当に会えるとは……。ぜひ握手を! ってこれはゲームだからできないか。くそっ、こんなチャンスは滅多にないなに! そ、そうだカメラだ! せめて一緒に写っている画像を残したい!」


「……お前、意外とミーハーなんだな」


 ドラさんに突っ込まれるほどに興奮していた。


 この状況についていけてないのか、ルフェンは困惑した表情で、


「なに? アンタ実は有名人なの?」


 そう訊いてきた。


「ルフェンはさ、アルトラって格ゲー、知らない?」


「なんか聞いたことあるような。……ああ、確かSTOと同じ会社が作ってるゲームだっけ?」


「そう。ぼく、そのゲームのランキング三位なんだよ」


「あーなるほどな。そのゲームのプレイヤーから見ればアンタは雲の上の人ってわけだ」


 少し言い過ぎのような気もするが、間違いでもないように思う。それほどに普通のプレイヤーにとって上位ランカーは遠い存在なんだ。


「あーもう。せっかくExbietさんが居るのにカイキは何やってんだろ」


 ミズナの声に、気がつく。そう言えばぼくがカイキだと、まだ言ってなかった。


「あのさ、ミズナ――」


「まて」


 言い終わる前に途中でミナヅキに止められた。


「カイキはここには来ない。彼には別の作業をやってもらっている」


 急に何を言い出すのか。そう思っていると、またミナヅキからメッセージが飛んできた。


『キミがカイキであることは黙っていてくれ』


 それに短く返信する。


『なんでですか?』


 そう返信が来ると予想していたように、長い文章がすぐに返ってきた。


『少しの疑いも持たせたくないからだ。画面の向こうだけであった存在が、実は身近な人物だと聞けば疑うのが人間だ。本当に本物なのか、とな。キミがExbiet本人であるということはタクローがそう言っているからという、あやふやな信頼の上に成り立っている。それは少しの揺らぎで簡単に瓦解する。そうなっては困る』


『なんとなく分かりますけど、そもそもなんで疑われちゃいけないのか、それが分からないんですけど』


『キミ目当てにこの作戦に参加している者を離さないためだ』


 ん? それってつまり、


『ぼくは客寄せパンダってこと!?』


『キミがそんな言葉を知っているとは驚きだ』


 否定はしないのか……。


 つまり、上位ランカーというエサで野次馬的に人を集めたと、そういうことだ。


『多くの人数が必要だったんだ。それは分かるだろう。この作戦が終わったら好きに話すといい』


 仕方がない。いま優先するべきはタツ兄を助けることだ。


「あの、Exbietさん」


 ミズナだ。声でぼくだとバレないように少し低くする。


「はい、なんでしょう」


「さっきあたしの名前呼びましたよね。どうしてあたしを?」


「え」


 ……ヤバイ。


 視線でミナヅキに助けを求める。返ってきたのは短いメッセージ『なんとかごまかせ』だった。


 相変わらずキラキラとした目のミズナを前にどうすればと頭を抱える。


「えっと、その、そう。もしかしてアルトラやってました? 同じ名前のプレイヤーと当たったことがあったからもしかして同じ人かなーって」


「え?」


 ミズナはパチパチと数度まばたきしたあと、


「覚えててくれたんですか!? たった一度しか対戦してないのに! すっごーい!」


 感激して、すごいすごい、と連呼していた。


 どうやら何とかなったようだ。ミナヅキがため息を吐くのが見える。事前に教えておいてくれという思いを視線に込めたが、そんな思いを汲み取るような人ではないな……。


 そうこうしているうち作戦開始の時刻が迫る。


 最後の認識合わせとして、改めて今回の作戦について説明される。内容はこうだった。


 まず、ルフェンの案内によって黒いコートのⅢDRAGON――ノワールが居る場所へと向かい発見したのち戦闘を開始する。


 『光夜館』の人達は周りに居るはずの乗っ取られたプレイヤーを足止めし、ノワールへと近づかせないようにする。その隙にExbietことぼくがノワールと接触し戦闘を行う。それを確認したのちミナヅキは別の作業のため戦線を離れる。残った人はノワールの終了処理が完了するまでの間、戦闘を継続する。


 と、そんな感じのことだった。


 作戦の開始時間が来る。ルフェンを先頭にして移動を開始する。待ち合わせの場所自体がノワールからそう遠くない場所にしていたので、そう時間もかからず目的の場所へと到着する。


 そこは森の中だった。マップによれば<ジュレックの森>とある。巨大な森でただ横切るだけでも数分は必要そうだ。うっそうとした木々の間、空すらも隠すほどの緑の中にそいつはいた。


 ノワール。気づかれないように距離をとり観察する。


 相変わらず乗っ取ったプレイヤーが周りにいるが、前回のように他のプレイヤーは見当たらない。なんでも以前のように誰彼構わず対戦を吹っかけるようなことは、もうしていないらしい。理由は分からない。


 乗っ取られたプレイヤーのなかにぼくのキャラ、カイキを探したけど見つからなかった。というか前よりも乗っ取られたプレイヤーが増えているように思う。


「準備はいいな?」


 ミナヅキが訊いてくる。念のため部長にも確認して返事をする。


「いつでも」


 頷いて、ミナヅキは声を張り上げる。


「突撃っ!」


 号令をもとに、ぼくも『光夜館』の人達も走り出す。ノワールのほうもこちらに気がついて、乗っ取られたプレイヤー達が向かってくる。


 戦いが始まる。これに勝てばタツ兄を助けることが出来る。無意識にコントローラを握る手に力がこもる。


 この場はあっという間に戦場になった。

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