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No.011 やっぱり格ゲーは楽しすぎる

「いよっしゃー! ぼくの勝ちだ!」


 勝利の雄叫びを上げる。勝つたびに言っているからもはや条件反射だ。


「強すぎるよー。攻撃が全然当たらないってどうゆうわけー?」


 対戦が終わりミズナはへたり込むと開口一番にそれが出てきた。


「いったいどんな反射神経してるの。もう完全にチート級の強さだよ」


「チートなんて使うわけないだろ。ぼくはチートが大嫌いなんだ」


「え、あ、ごめん。そんなつもりじゃなかったんだけど」


 強さをチート扱いされてぼくが怒ったと思ったのか、ミズナはすこしバツが悪そうにする。けれど、いくらなんでもそんなことぐらいで怒るぼくじゃない。


 別に怒ってないよと伝えるため、別の話題を口にする。


「ミズナさんの戦い方はさ、直情的すぎるんだ」


「直情的?」


「そう」


「……って、どうゆう意味?」


「は? えっと、つまりはその……」


 直情的はどういう意味か?


 たしかまっすぐと言うか、思ったままに動くとかそんな感じのことだと思うけど……。やばい、ぼくもよく分かってない。


「――ともかく。ミズナさんの戦い方はまっすぐ突っ込みすぎてるってこと!」


「えー? 横に動いたりもしてるよ?」


「そうゆうことじゃなくて、攻撃を当てられるように見えたらすぐに突っ込んでいくことが多いいってこと。たまにけん制を使ってくるときもあるけど、それは本当にたまにだった。ときには相手との距離を取ったり、攻撃をすると見せかけて相手の回避を誘ったりした方がいい」


「ほー。そうすればあたしも強くなれる?」


「それだけじゃだめだね。もっと研究しないと。まずは自分が使っているキャラの性能を知らないとダメ。各攻撃の速度はどれぐらいで硬直がどれぐらいあって、とか。あと相手のキャラについてもね。この攻撃にはどう合わせればいいかとか。ネットに転がってる情報だけじゃなくて実際に自分で戦ってみるんだ。なんども、なんどもね。何フレーム目でコマンドを入力すれば対応できるかを体に覚え込ませる。あ、フレームってわかる? 大体6フレームが約0.1秒くらいで――」


 そこまで言って、ようやく気付いた。


 ミズナの視線に。


 これは決して羨望の眼差しなんかじゃない。相手の言っていることについていけなくて、思考がどこかに行っているときの目だ。そして、その視線はやがて別の物へと変わるのだ。


 呆れを表したものに。


 ぼくも覚えがある。


 部長が専門的な単語を並べて、ぼくのちょっとした疑問答えてくれたときがそうだ。まさか「AIってどうゆう意味なんですか?」から三十分に届きそうな説明が返ってくるとは思わなかった。


 それはありがたいことなんだけど、どうしても、それより思ってしまうんだ。


 これ、いつ終わるんだろう、と。


「ああっ、えっと違くて。その、ぼく格ゲーのことになると熱くなりやすくて、こうぺらぺらと……」


 あわてて取り繕うとする。もしかして気持ち悪いヤツなんて思われただろうか。


 そんなぼくの思いを感じ取ったかのように、


「うんうん。カイキさんの強さの秘密がすこしわかったような気がする。やっぱりそこまで強くなるには練習と研究が必要ってことなんだね」


 そう言ってミズナは笑顔を向けてくれた。


「あたしもカイキさんのように頑張ればもっと強くなれるかな?」


 思いもよらない好意的な反応にぼくは嬉しくなる。


 だってしかたが無いだろ? いままで周りに格ゲーをやる人はいなかったし、ぼくの話しをまともに聞いてくれる人なんてもっといかったんだから。


「なれるよきっと。練習相手だったらぼく何度だってやるし」


「ほんと? やった、ありがとう! カイキさんって強いだけじゃなくて優しいんだね」


「優しいだなんてそんな。ぼくよりもミズナさんのほうが優しいですよ」


「へ? あたし?」


「だって、対戦を始める前にいろいろ教えてくれたじゃないですか。スキルのこととか。いきなり対戦を申し込むこともできたのにそれをしなかったのは、ぼくがシステムを理解してないのは不公平だと思ったからですよね」


「それはまぁ、そうだけど」


「だからお礼をいうのはこっちの方ですよ。ほんとにありがとうございます」


「えっと、いや、なんかこう。そんな改まってお礼を言われると照れちゃうなー」


 少し顔を赤くして照れているミズナを見て、第一に思ったのは、


 かわいいな、だった。


 そして第二に思ったのは、


 本当は男かもしれない、ということだった。


 そう。見た目に騙されてはいけないのだ。画面の向こう側でコントローラを握って照れているのはおっさんかもしれないのだ。


 今ぼくはそんなおっさんに向かって、かわいいな、と思っているのかもしれない。


 いや、これは想像に過ぎないのだけど、それでもなんとも嫌な状況であることには違いない。


「あ、そうだ。引き留めてごめん。ストーリーを進めるところだったね。それじゃあ行こうか」


 言ってミズナは歩き出そうとする。


「え? もしかして一緒に来るの?」


「うん。あ、もしかして迷惑だった?」


「いや、そんなことはないけど、いいんですか? ギルドの勧誘をしていたんじゃあ」


「ああ、いいのいいの。別に強制でもなければ、ノルマがあるわけでもないし。それに困っている初心者を助けるのも先輩プレイヤーの仕事だよ」


「先輩って、レベルは5しか違わないのに?」


「ちょっと! それは言わないでよー」


 けれど、一緒に来てくれるのはありがたい。まだまだ聞きたいこともあるし、変に迷って時間が掛かってしまうのも困る。


 ぼくはこの親切を素直に受けることにした。


 ちなみに、あとで確認したらぼくとミズナのレベル差は5ではなくなっていた。


 さっきの対戦によって、経験値を奪いぼくのレベルは11になっていたのだ。かわりにミズナは14に下がっていた。


「いいよ、気にしないで。そうゆうシステムなんだから」


 ミズナはそう言うけれど。


 なるほど、確かにこれは鬼畜なシステムだ。仲の良い知り合い同士の対戦でも経験値の奪い合いでケンカになるかも知れない。


 レベルはその数字が大きくなればなるほどに必要な経験値が多くなる。当然、時間もかかる。それを一度の敗北でごっそり持っていかれたら怒りたくなる気持ちも分かる。


 そうゆうシステムなんだからと納得できない時も今後出てくるかもしれない。


 ぼくたちは王国へと進みながら色々なことを話した。そうこうしているうちにぼくとミズナの距離は縮まっていった。


 話しているときの感じからなんとなく年が近いような気がしたからかもしれない。自然と敬語は使わなくなり、互いに呼び捨てで呼ぶようになっていた。もっとも、ミズナは初めから敬語ではなかったけど。


 どうやらSTOにはプレイヤーの検索機能があるとミズナから教わった。


 これを使えば案外簡単にタツ兄を見つけられるかもしれないと、ぼくこっそり喜ぶ。けれどそうはうまくいかない。その機能もフレンド画面にあるから結局はストーリーを進める必要があるのだ。


 さっきの対戦が打ち解けるきっかけになったのかもしれないが、それよりも一番の要因は、ミズナもアルトラのプレイヤーだったことだ。


 ぼくはかなり嬉しかった。アルトラのプレイヤー自体はたくさんいるはずなのに、なぜかぼくの周りにはいない。ぼく自身はランキング三位に入るほどやり込んでいるのに、話ができる相手がいないことが少しだけ寂しかった。


 ミズナ自身はランキングの下の方にいたらしく、上位プレイヤーを憧れていると話してくれた。


「やっぱ上位プレイヤーは凄いよね。他の人が対戦している所の動画を見たけど、動きが別次元だったよ。とくに一位の『ⅢDRAGON(スリードラゴン)』は本当に人間が操作しているのかって思ったね」


「わかる。あれはほんとにヤバい。反撃する隙がないんだもんな」


「もしかしてカイキ、戦ったことあるの?」


「うん、あるよ」


「結果は?」


「はは、負けたよ。あとちょっと所までいったことはあるんだけど


 ぼくが『ⅢDRAGON』と対戦したのは一度や二度じゃない。だけど勝ったことは一度もない。全戦全敗だった。やっぱりランキング一位は伊達じゃなかったのだ。


「あたしもね、一回だけだけど上位プレイヤーと対戦したことがあるんだよ」


「へー、誰と?」


「ランキング三位の『Exbiet(エクスビート)』と」



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