ゴーレム転生
深夜のコンビニエンスストアのガラスに写り込んだ自分の姿は、見るに堪えない。
目元にはくっきりクマができているし、寝ぐせもそのままだ。
着ているパーカーを洗濯したのはいつだったか。
「死にたい・・・」
誰にも気づかれないよう注意しながら呟く。
職歴もない、彼女もいない、若さもない。
30歳を過ぎた一般的男性が持つべきアイテムと経験値が圧倒的に足りない。
どこで人生を間違えたのだろうか。
「最初からかな・・・はは。」
といつもと同じ自嘲。
「・・・うっ!?」
突然胸に強い痛みを感じる。
何だこれ。待って、めちゃくちゃ痛いんだけど。
ヤバい、ヤバいって。これ死ぬの?
3食コンビニ弁当がマズかったの?
健康に気をつかっておくべきだった?
でも仕方ないじゃん、
料理する気力もないんだからさ・・・
って最後のセリフも惨・・・め・・・・・・。
・・・・・・・
遠くから声が聞こえる。
「おーい、おーい!」
うるさいな、なんなんだ。
「おーい、おーい!」
諦めるつもりはないようだ。
仕方なく「ううっ」と抗議の意も込めて呻いてみた。
「・・・!やった!やった!成功じゃん!」
さっきとは違った方向から声が聞こえた。
どうやら2人いるらしい。そして抗議は敢え無く無視されたどころか
逆に喜ばせてしまったようだ。
「ほらほら、早く起きて!」
最初の声の主が再び声をかけてくる。頬をつついてくる。
目をやってみるとそこにいたのは
妖精!?
と表現すべき物体だった。
中性的な小さな体についた4枚の羽を使って宙に浮いている。
天国にでも来たのか?しかしこの体の怠さ、決して俺の思う天国ではないはずだ。
知らないけども。
体・・・そうだ、体だよ、痛みは止まっているようだ、良かった。
胸に手を当てて確認しようとしたところで違和感を持った。
アレ・・・異様に重たいぞ。指先が震えているのがわかる。
いくら不摂生でも流石に腕くらいは上がるはずだ。何が起きている???
「あーあー、生まれたてなんだから無理したら駄目よ。まだ意識と体のリンクが円滑じゃないの」
赤い紙の少女が妖精を窘める。
・・・生まれたて?リンク?なんだ、なんのことだ?
「意識はあるみたいだから、自己紹介しておくね、私はイーシャ。そして、このちっこいのがラクナル」
「なりはちっこいけど、器はおっきぃラクナルとは俺のこと!よろしくな!」
???分からない、分からないがこういうときの処世術は決まっている、とりあえずの笑顔だ。
「やったー笑ってるぜ、本当に成功したんだな~。イーシャ、ついにやったなぁ。」はしゃぐ妖精。
「そうね、ついにね」感極まった少女。
「「これで楽に暮らせる!!」」
・・・は?こいつらは何を言ってるんだ?
「ゴーレムは役に立つからなぁ。それも人の魂をキャッチしているんだから性能は折り紙つきだぜ!」
役に立つ?この俺が?・・・無能と言われることばかりの人生だったからちょぴっと嬉しく感じないでもないが、このニュアンスはヤバいんじゃないか?ゴーレム・・・ってあのゴーレム?
俺は奴隷になってしまうのか??
何が何だか分からなくなってきた。
「おい、何か調子悪そうだぞ、大丈夫か?」
言葉が出ない・・・。
「少し休ませましょう。生まれたててで混乱してるみたいだから」
そうだ、そうさせてくれ。考える時間が必要だ。
ブチッ。
首元から管を抜いたらしい音がすると同時に意識が遠のいていく。
なんてことするんだ、これがゴーレム(俺)の寝かせかたなのか・・・。
俺はどうなってしまったんだ、これからどうなっていくんだ。