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スタートオブ異世界生活 7


 いきなりの闖入者(ちんにゅうしゃ)に驚くゴブリンの群れ。

 おそらくそれは一瞬のことでしかない。

 しかし、僕とマリーシアには充分すぎる時間だ。


 バスタードソードが唸りをあげてホブゴブリンの首を刎ね飛ばす。

 OK。

 しっかり手に馴染んでる。


「ヴォォォォォっ!!」


 雄叫びは、注意を僕にひきつけるため。


 その隙に、マリーシアのカタナが、次々にゴブリンを屠ってゆく。

 一閃で一匹、二閃で二匹。

 ごくわずかな遅滞もない、流れるような剣さばきだ。


 思わぬ援軍の出現に、門兵たちの志気が上がる。

 押されていた前線が息を吹き返す。


「押し返せ! 押し返せ! 押し返せ!!」


 指揮官が叫んでいる。

 ゴブリンどもが戸惑った。


 僕と戦うか、マリーシアを押し包んでしまうか、それとも街への突入を最優先にするか。

 判断に迷ってしまった。


「それが弱敵の弱敵たるゆえんだよ!」


 さらに踏み込んだ僕が、渾身の力でバスタードソードを突き出す。


 勢いをつけた剣先が、一匹を狙って三匹ほどの胸板を貫いた。

 串刺しである。


 こんなことをしたら普通は剣の方が保たないが、今は魔力付与されている。


「どおぅっりゃあっ!!」


 そのまま持ち上げる。

 むちゃくちゃ重いけど、いまは視覚的効果を狙わないといけない場面だ。


 びくびくと痙攣する小鬼ども。

 周囲は固唾を呑む。


 本当は、この隙にこそ攻撃すべきなんだけど、ここまで異常な光景を見たら、人間だろうと小鬼だろうと驚いて硬直してしまう。


「だぁっらしゃぁぁぁっ!!」


 そして、勢いをつけて振りおろした。

 慣性の法則にしたがって吹き飛んだ三つの死体が、最前線のゴブリンに命中する。


「ヴォォォォォっ!!!」


 ふたたびの雄叫び。

 たじろぐ小鬼。


 よし。

 狂戦士(バーサーカー)プレイ成功だ。


 一方が退けば、他方は押すのが道理である。

 僕の豪勇に勇気づけられた門兵たちが、ぐいぐいと前進を開始した。


 残虐極まる戦い方は、たとえば現代日本なら非難を浴びるだろうけど、ここはそんなお上品な世界じゃない。

 力こそ正義、とまではいわないけど、強さというのはひとつのステータスなのだ。


 逆に、弱いということが罪。

 中世的な世界観というのは、あんまり優しくないのである。


 ぶっちゃけ、現代の日本人のような倫理観を保持していたら、三日と生きていられない。


「だからってゴブリン団子三兄弟はやりすぎ。俺氏(おれし)ドン引き」


 笑いながら、マリーシアがゴブリンを斬り捨てまくる。

 お前さんもそうとうなもんだけどね。

 どうやったら効率的に一撃で殺せるか、さっきから実験しまくってるでしょ。


「そりゃあ、無用の苦しみを与えないためさ。慈悲ってもんだぜ」

「本音は?」

手数(てかず)をかけるのがめんどくせえ」

「だよね」


 まだまだ敵はいっぱいいるのだ。

 一山いくらで売れるほどね。






 門兵たちの前進に押し込まれ、じわりじわりとゴブリンどもが後退する。

 乱戦状態から、一度退いて隊列を組み直そうって腹だろう。


 それは、まったく間違った考えではない。

 このままずるずると消耗戦になったら、勢いで劣るゴブリンたちが不利なのは火を見るより明らかだもの。

 最終的に数で勝てるとしても、それまでにどれだけ犠牲が出るか知れたものじゃないのだ。


「正しい判断だぜ。俺がいなけりゃな」


 唇を歪めたマリーシア。

 一度カタナを鞘に収め、もごもごと口を動かす。


 詠唱だ。

 何を呟いているか、僕には判らない。

 もちろん門兵にも。


 魔法というのは、きっとそういうものなのだろう。

 行使できる者にしか理解できないのだ。


 が、発現したチカラは、僕たちにも見える。


()っちまいな! ファイアボール!!」


 少女の両手から放たれた光が、隊列を組んだゴブリンどもの中心部で炸裂し、炎の舌を四方八方にのばす。

 轟音とともに。


 ものすごい威力だ。

 最近のファンタジーでは、今ひとつ扱いが悪いファイアボールだけど、古典的TRPGなんかだと、かなりの威力を誇る攻撃魔法として描かれる。


 たとえば(ダンジョンズ)(ドラゴンズ)では、これを使えるようになったら、かなり強い魔法使い(マジックユーザー)だ。

 つーか、いっきにゲームバランスが変わるくらいの勢いなのである。


「しゃっ!」


 ガッツポーズを決めるマリーシア。

 まとまっているところに撃ち込んだから、大戦果である。

 少なく見積もっても、二十匹近くはやっつけただろう。


「よーしてめえら! 鬼退治の時間だぜ!!」


 抜刀し、門兵たちを扇動する。

 湧き上がる鬨の声。


 戦力差がひっくり返った瞬間である。

 士気で勝り、数で勝り、大勢で勝った。


 ゴブリンどもはファイアボールの影響で、すっかり算を乱している。

 ここにつけ込まないような人間は、少なくとも兵隊には向いていない。


「いくぞ!」


 叫んだ僕を先頭に、すっかり及び腰のゴブリン軍団に襲いかかった。

 戦闘衝動にギラギラと目を輝かせて。


「一匹も逃がすな!」


 なるべく大物を引き受けながら叫ぶ。

 たぶん、という域を出ないけど、こいつらは昼間ライカルを襲ったゴブリンの残党だ。

 あるいはこっちこそ本隊なのかもしれない。


 いずれにしても、一匹でも二匹でも逃がしてしまったら、また数を増やして再起するだろう。

 追い払えばOK、というわけにはいかない。


 確実に全滅させなくてはいけないのだ。

 奇声を上げて逃げまどう小鬼を、門兵たちが次々と屠ってゆく。


「油断すんなよー 勝ち戦のときこそ、落とし穴があっからなー」


 警句めいたことを言って、マリーシアが倒れているゴブリンにとどめを刺して回る。

 死んだふりをして後ろからブスリ、というのを避けるためだ。


 なにしろ不意打ち騙し討ちは、モンスターどもの十八番(おはこ)である。

 何度それにやられたことか。

 死んだことを確認していないと、じつは生きてたんだよーんとマスターがいっても、反論できないのである。


 大勢は決したけど、まだ散発的な抵抗はあるし、油断して良い場面じゃない。

 僕も周囲に目を配り、劣勢になっている門兵のもとに駆けつけては、バスタードソードを振るって援護する。


 掃討戦だ。

 こういう局面で命を落とすのはバカバカしいというものだろう。

 慎重に、かつ容赦なく。


「数的優位を崩すな! 必ず何人かで囲んで殺せ!」


 大声でアドバイスする。

 僕には門兵たちを指揮する権限はないけど、このていどは許されるだろう。

 あちこちで鬨の声があがった。


 結局、ゴブリン軍団は六十匹くらいいたっぽい。


 逃亡に成功したのはいないはずだけど、なにしろ夜なので見落とした可能性はある。

 僕とマリーシアは暗視の魔法で見えてはいるけど、すべての戦域に目が届くわけじゃないからね。


「伝説の英雄もかくやという豪勇、感服いたしました」


 すこし年かさの門兵が近づいてくる。

 隊長さんとか、そんな感じかな。


「お役に立てたのなら」


 僕はにこりと笑って見せた。

 返り血でどろっどろだから、かなり怖いだろうけどね。

 酒宴の前に風呂に入って着替えもしたのに。


「来援に百万の感謝を」


 びしっと踵をそろえ、目前に槍を立ててみせる。

 たぶん敬礼なのだろう。

 僕はこの国の風習を知らないので、軽く頭を下げたのみだ。


「ぜひ謝礼をしたく思います。お名前と逗留先をお教えいただけますか」


 そういった門兵が自らも名乗る。

 やはり隊長で、ジグマというらしい。


「僕はエイリアス。こちらは相棒のマリーシア。旅の傭兵です。いまはライカルさんのお宅にお世話になっていますよ」


 謝礼なんかいりませんよ、なんて言うつもりはない。

 事実として僕たちは文無しなのだ。

 泊まるところはあるけど、さすがに何日も世話になるわけにはいかないだろう。


「さすがに今日は疲れたからよ。謝礼は明日にしてくれ。じつは多いほど嬉しいぜ」


 血で汚れた顔で美少女が笑い、ジグマの腰をぱんぱんと叩いた。

 馴れ馴れしい。

 やたらボディタッチしてくるおばちゃんみたいである。



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