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バトルオブ魔王軍 5


 もちろん魔王と戦うと決めたところで、すぐに出発できるわけじゃない。

 マリーシアのカタナだって、できれば新調したいところだし。


「これはこれで気にいってんだけどな。ただマジックアイテム的な何かがほしいのはたしかだぜ」


 わがまま美少女魔法剣士の台詞である。

 火力で考えれば、パーティー随一のくせに。


 とはいえ、戦力の増強は絶対に必要だし、焦っても仕方がないっていうのも事実だったりする。

 一回戦って負けたら、そこでおしまいなのだ。


 必勝の態勢とまではいかなくても、できるだけ戦力を整えたい。

 ゲームみたいにレベルアップとかするなら、わりと話は簡単なんだけどね。

 とにかくレベルを上げて、できればカンストさせてから挑むとか。


 けど残念ながら、この世界にレベルアップはない。

 ていうか普通はないかー。

 ファンファーレが鳴って、レベルアップおめでとうーってわけにはいかないさ。

 身体能力が劇的にあがらない以上、装備を強化するしかない。


「もしかしたら、オレの弓とかも手に入るかもだしな。ホウライだし。よ○ちの弓とかねーかな」

「仮にそれがあったとして、きみの短弓と和弓じゃあ扱い方がまったく違うと思うよ」


 ザンドルのタワゴトは流しておく。

 いやまあ、あれが洋弓なのか和弓なのか、僕は知らないんだけどね。


「そんなわけだ。よさげな武器を安く(・・)譲ってくれねーかな? ゾダンさんよ」

「ひぃぃぃっ!」


 ちょっと首を傾けて、にやぁってマリーシアが笑う。

 ゾダンの屋敷である。


 僕たちをハメようとした交易商人だが、それはまあ魔王軍に利用されてのことだ。

 根に持つような話ではない。

 富裕な商人だからちょっと武器とかを融通してもらおうと思っただけである。


 要塞から街に戻り、ちゃんと汚れを落とし、翌日のことだ。


「おどしちゃダメなのデース」


 ぽこっとラーハーがマリーシアの頭にチョップを決める。


「まあ、こいつらの寸劇は置いておくとして、僕たちが武器を求めているのは事実です」


 僕はにこっと笑ってみせるよ。

 コワクナイヨー ボクタチ イイヒトダヨー


 壊れた自動人形みたいに、かっくんかっくんとゾダンが頷く。


「具体的には、マリーシアが使うカタナとザンドルが使う短弓なんですが、用意できますかね?」


 できればマジックアイテムが良いと付け加える。


「ハイ! ヨロコンデ!!」


 居酒屋みたいな返事をして、ものすごい勢いでどっかに行っちゃった。

 僕たちを客間に残したまま。


「罪もない商人を脅すんじゃねえよ」


 そして僕の頭には、ザンドルが裏拳ツッコミを入れたのだった。






 しばらくして戻ってきたゾダンは、ものすげー高価そうな箱を抱えていた。

 あったみたいだね。


「こ、これは魔王軍から授かったものでございます……」


 そして正直に告白してるし。

 僕たちをハメる報酬として授かった弓だそうだ。

 そりゃ期待も高まるってもんでしょう


「ザンドル」

「あいよ」


 ゾダンの手から箱を受け取り、慎重に蓋を開く伊達男。

 まあ、ここで落として折っちゃいました、というどじっこは、誰も求めていないのである。


 布に包まれて鎮座(ちんざ)ましましていたのは、注文通りの短弓だった。

 マリーシアが覗き込む。


「かなりの魔力を感じるな」

「鑑定シマース。フムフムー?」


 ラーハーが手をかざし、なにやらむにゃむにゃと呪文を唱える。

 そんなんでホントに判るのかよって感じだが、僕の聖剣アイリスは彼女が解呪して鑑定してくれたのである。


 そして、聖女さまがおもむろに弓を掴み、両手で捧げ持った。

 あー またやるんすね。

 その授受イベント。


弓士(アーチャー)ザンドルに、霊弓イチイバルを授けマース」


 肩書きが変わってるけど、そこは突っ込んではいけない。

 さすがに盗賊じゃ外聞が良くないからね。


 すっと跪いたザンドル。

 うやうやしく霊弓をおしいただく。


「我が命と、我が忠誠を、聖女ラーハーに」


 むっちゃ格好いい宣言とともにラーハーの右手をとり、そっと口づけする。

 絵になるシーンである。


 そして、


『オエーッ!』


 キスした方とされた方、両方がひっどい表情で嘔吐する真似をした。

 まったく絵にならないシーンである。


 つーか、こうなるって判っていたよね。

 美女とイケメンだけど、中身オッサンだからな。お互いに。


 よく素面(シラフ)で、そんな馬鹿なことができたもんだよ。

 どんだけ演出に命を賭けてんだよ。

 ゾダンも目を点にしてるじゃないか。


「と、とにかく、その弓は十本の矢を同時発射できマース。一本を射るちからデー」

「そいつはすごいな」


 しげしげとイチイバルを見つめるザンドル。

 彼は二本の矢を同時に撃つという離れ技をつかう。最大で四本撃てるらしいけど、そうすると命中率が落ちちゃうらしい。


「これはマルチロックで自動追尾しマース。スグレモノなのデース」


 すごい高性能だけど、説明の仕方がSFである。

 どうやってロックオンするんだか。


 そのへんは、弓士なら判るということでいいんだろう。

 きっと。


「全力射撃二回で矢筒がカラになっちまうな。なんか考えねえと」


 補給が大変だ、などと文句を言いつつもザンドルの顔は緩んでいる。

 念願のマジックボウを手に入れたぞ! ってところだからね。


「で、これをいくらで譲ってくれるんだ? ゾダン」


 ふうと息を吐いて商人に向き直った。

 ラーハーのお遊びはともかくとして、じつはこれ、所有権はゾダンのままである。

 当たり前だ。


 譲渡されてもいないし、買ってもいないのだから。

 ぶっちゃけ、ただ見せてもらってるだけなのだ。


「……差し上げます。どうか、これで許してはいただけないでしょうか」


 すっかり萎縮しちゃってるゾダンである。

 ザンドルとラーハーが、棘だらけの視線を僕とマリーシアに向けてきた。


 うん。

 ごめんなさい。

 調子にのって脅しすぎました。


 殺されるとか、一族郎党皆殺しとか、そういうのを疑っちゃってる。

 もちろん彼は僕たちをハメようとしたわけだけど、その復讐をされると思っているわけだ。

 マリーシアと僕がふざけ半分に脅したから。


「ゾダンさん。さっきのは冗談ですよ。僕たちは根に持ったりしていません」


 わだかまりを解く笑顔を見せる。

 好漢エイリアスは、過ぎたことをいつまでもぐちぐち言ったりしないのだ。


「魔王軍の幹部クラスに迫られれば、内心はどうあれ頷かざるをえません。普通の人はね。それを咎めるのは傲慢だと僕は思っています」


 戦える僕たちだって、命がけである。

 自らを守る術を持たない人は、脅迫に屈してしまうだろう。

 誰だって命は惜しいのだから。


「エイリアスさま……」

「できれは正札で買わせてもらいたいと思いますよ。もちろん僕たちに手が届く金額であれば、という前提ですけどね」


 片目をつむってみせた。


「それでは、金貨百枚」

「おうふ……」


 僕の大雑把な計算では、ざっと五千万円くらいである。

 家が建っちゃう。二軒か三軒。


「と、言いたいところなのですが、私がご迷惑をかけたのは事実。金貨十枚でいかがでしょう」


 一気に九割引だ。

 それでも五百万円ほどである。


「買った!」


 勢いよくザンドルが右手を挙げる。

 マジックアイテムって考えてもけっこう高いけど、それでもチームの戦力増強には必要なものだ。


 僕もラーハーも、大きく頷いた。

 ただ一人、マリーシアだけが仏頂面である。


「俺のカタナは?」


 残念ながら、ゾダンが持ってきたのは霊弓イチイバルのみ。

 刀剣の類は持参していない。


「あいにくと……マジックアイテムのカタナは……」

「ぬうぅぅ……」

「ですがご安心を。マリーシアさま。腕の良い刀鍛冶を存じております」


 ゾダンの言い分は、格安で銘刀を譲ってくれるよう紹介状を書くので、そちらを訪ねてくれないか、というものだった。


 なんというか、体良く追い払おうとしてんじゃね? って思わなくもないけど、職人と直接話せるならそれにこしたことはない。

 中間マージンが発生しないからね。


刀匠(ブラックスミス)だってよ。会ってみてぇな」

「だね」


 それ以上に、マリーシアも僕も興味津々なのである。


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