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バトルオブ魔王軍 3


 内院だ。

 集まっているのは十名ほどの魔族と、かなり大きめのモンスターが一匹。

 猿の頭に虎の体をもつ獣である。


(ヌエ)だな。さすがホウライってとこか?」


 マリーシアが笑う。

『平家物語』とか『源平盛衰記』とかに登場する魔物だ。

 ようするに和風モンスターである。


 鳴き声はトラツグミみたいで、ものすごい不気味であるとされ、映画の『悪霊島』でも、「鵺の鳴く夜は怖ろしい」ってキャッチフレーズが使われた。

 この映画に鵺は登場しないけどね。

 金田一耕助(きんだいち こうすけ)は探偵だから、怪物退治は専門外なのだ。


「マリーシアの魔法でどんだけ減らせるかが勝負の分かれ目だね」

「でかいのを一発撃って突撃。毎度のパターンだな」


 二階のバルコニーにこそこそ隠れ、簡易作戦会議である。

 もっとも、マリーシアのいうとおり、僕たちにとれる作戦なんて相場が決まってたりする。


 どっかんと攻撃魔法を一発。

 敵が怯んだところで僕が突っ込み、その後ろにマリーシアが続く。

 ザンドルはここから弓矢で援護してラーハーが魔法で支援だ。


 ただ、マリーシアが魔法を使った瞬間、僕たちの存在は露見する。

 なにしろ敵は魔法の扱いに長けた魔族だもの。


 頭の悪いオーガーやオークを相手にするのとはわけが違うのだ。

 マリーシアの魔力が高まれば、すぐに感知されて対応されるだろう。


 もちろん先にラーハーが魔法を使うのはNG。先制攻撃の機会を逸するだけである。

 順番としては、マリーシアの詠唱が始まると同時にラーハーも詠唱をスタートさせる。

 ファイアボールとプロテクションだ。


 防御魔法の完成と同時に僕はバルコニーから飛び降りて、敵陣に斬り込む。

 ファイアボールを放ったら、マリーシアは自分のカタナとザンドルの矢にエンチャント。


 これが終わり次第、ザンドルは弓矢で援護射撃を開始して、マリーシアは前線に飛び込む。

 スケジュールとしては、ものすごくタイトだ。


「ようするにスピード勝負だな。任せな。こうみえても俺は早口言葉が得意なんだ」

「いや、それ詠唱に関係あるのかい?」


 べつに速く唱えたから発動も速くなるってもんではないと思うんだよね。魔法って。

 高速詠唱とか略式詠唱の正体は早口言葉でしたってのは、なんぼなんでも夢を壊しすぎだ。


「うっせ。細けえことは良いんだよ」


 バルコニーに寝そべったまま、げしげしとマリーシアが僕の太腿を蹴ってくる。

 けっこう痛い。


 身長差の関係で、頭の位置を揃えちゃうと足がここに当たるのだ。

 ひどい話である。





 急速に膨らんでゆく魔力に気付いて顔を上げる魔族たち。

 目にしたのは、両手をかざした美少女魔法剣士。


 リナ・インバースも真っ青って感じの。

 見た目だけね。


「遅いぜ! ぶっ飛びやがれ! ファイアボール!!」


 口は悪いし態度も悪い。

 なにしろ中身は中年のオッサンだから。


 対抗魔法は間に合わない。

 放たれた火焔球が敵陣の中央で大爆発する。


 同時に、僕たちの体を柔らかな光が包んだ。ラーハーのプロテクションだ。


「お先にね! 相棒!」

「武運をな! 相棒!」


 マリーシアと左の拳同士をぶつけ、僕はひらりとバルコニーから飛び降りる。

 二階の。


 普通だったら捻挫くらいしちゃいそうな高さだけど、戦士エイリアスにとっては余裕でクリアできてしまうミッションなのだ。


 ついでに、炸裂したファイアボールの爆風もある。

 若干は落下速度がおちるだろう。

 手入れもされていない芝生に着地し、一転して勢いを殺す。


 目の前には混乱する魔族たち。

 数は八といったところか。


 マリーシアのファイアボールは、二人くらいしか殺せなかったっぽい。

 こればかりは仕方ない。

 魔法防御力が高いからね。魔族は。


「うぉぉぉぉぉっ!!」


 間髪入れずに駆け出し、猛然と聖剣アイリスを振るう。

 混乱から立ち直るまでの間にどのくらい減らせるか。そこが勝負の分かれ目だ。


 一閃で一人、二閃で二人。


 ほぼ一瞬で片付けるが、横から迫った牙を避け、僕は大きく跳びさがった。

 鵺である。

 もうきたか。


 できれば、あと二人か三人くらいは潰しかたかった。

 けど、僕は悔しそうな表情のひとつも浮かべない。


 それが戦士というものである。

 やべーと思っていても、無茶苦茶いてぇって思っていても、絶対に顔に出してはいけないのだ。


 弱みを見せたら、そこにつけ込まれるから。

 わざと弱点を見せて誘うって心理戦もあるけど、あれ敵が乗ってこなかったら、ものすごくお寒いことになってしまう。


 非音楽的な音を奏でながら聖剣と鵺の爪がぶつかり、青白い火花が散る。

 雷光をまとって。


 鵺の別称は雷獣。

 ようするに電撃を操るのだ。これだけでも充分に厄介だ。


 僕は鵺の相手に手一杯になる。

 隙を突いて、魔族たちが背後を取ろうと動く。


 健常な判断だし効果的だ。

 基本、これがあるから多勢に無勢の戦いってのは後者が不利なのである。


 しかし、彼らの優勢は極短命の寿命しか持たなかった。

 ひゅんと風を切って飛来した矢が、魔族のこめかみに突き立つ。


 何が起きたのか、たぶん理解すらできないままに表情が漂白され、倒れる。

 二人。


 もちろんザンドルの仕業である。

 二本同時発射で二人同時にヘッドショットの神業だ。


「待たせたな! エイリアス!」


 バルコニーの手すりに片足をかけ、ものすげー格好いいポーズを決めている。

 つーか格好付けすぎ。


 意外な伏兵に動揺する魔族たち。

 魔法使いが一人と戦士が一人。そう思ってたのかな。


「ざーんねんだったなぁ!」


 大の字になって二階からダイブするマリーシア。

 そのポーズと台詞に意味は?


 ものすごい勢いで突っ込みたかったけど、そんな余裕はない。

 雷獣鵺は強敵で、僕の全力をあげても勝利は確定されないほどなのだ。


 余計なことをしてる場合じゃないんだから、言動には気をつけて欲しいと切に願うよ。

 我が相棒よ。


 マリーシアの奇行に驚き、魔族たちがザンドルから目をそらしてしまう。

 それは、砂時計からこぼれる砂粒が数えられるくらいの短時間だけど、熟練のアーチャーにとっても、空飛ぶ美少女魔法剣士にとっても、充分すぎる時間だった。


 さらに放たれた二本の矢が、魔族をひとり倒す。


 さすがに不意打ちではなかったため、一本は切り払われてしまったのだ。

 しかしそれは、コンマ何秒か延命したに過ぎない。


 矢を払ったところに落ちてきたマリーシアが、一刀のもとに切り伏せてしまったから。

 あきらかに落下軌道がおかしい。


 奇術の種は、錫杖(ビショップスタッフ)を掲げ、まるで天に祈るようなポーズを取っているラーハーである。

 浮遊魔法(レビテーション)を使っているのだ。


 だからマリーシアは、『魔界転生』で天草四郎(あまくさしろう)役を演じた沢田研二(ジュリー)ばりの空中アクションができたわけだ。


「うわははははー!」


 いや。

 その高笑いはいらない。


 ともあれ、僕が鵺の相手をしている間に、ザンドルとマリーシアが連携しながら魔族たちを倒してゆく。

 これが僕たちの作戦である。


 数の多い方に、きちんとした連携なんか取られたらたまったもんじゃない。

 各個撃破できる、と、思わせること。

 そのために僕が単独で飛び出した。


 彼らは僕に最も強い駒である鵺をぶつけてしまった。それで安心してしまった。

 だが、僕の存在こそが囮なのだ。


 本命はザンドルの矢と、マリーシアのカタナだ。

 だからこそ、二人の武器にも魔力付与(エンチャント)が必要だったのである。

 援護だけなら、そんなもんは必要ない。


 その狙いに気付き、鵺が周囲を見まわしたときには、もう味方は一人も残っていなかった。

 猿の顔に浮かぶ驚愕と絶望の表情。


 中心部に、聖剣アイリスが突き刺さる。


「戦いなんて相対的なもんだよ。圧倒的に強い必要なんかなくて、相手より一枚だけ上回れば良いだけなんだ」


 僕の言葉とともに。


「うへへへー かっこつけてやがるぜー」


 空中で変なポーズを取りながら、マリーシアがからかってくる。


 ……斬り捨ててやろうかしら。



※参考資料


映画:悪霊島


原作:横溝正史

制作:角川春樹事務所

公開:1981年





映画:魔界転生


原作:山田風太郎

制作:角川春樹事務所

公開:1981年


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