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バトルオブ魔王軍 2


 そもそも、僕たちをおびき寄せる必要なんてないのである。

 仲間五人が揃わなければ魔王に挑むことはないのだから、すくなくともそれまでの間は、魔王軍の脅威にはなりえない。


 というとちょっと語弊があるけどね。

 末端の魔物たちは倒されていくわけだから、損害なしってわけにはいかないのだ。

 放置しておくってのはない話だけど、現時点で搦め手を使う理由ってのは、もっとないだろう。


「それだったら、合流させないように動くって方がリアリティがあると思うんだよね」


 ゾダンを締めあげて聞きだしたアジトへと向かう道すがら、僕は自説を開陳した。


「つまり、ホウライにルーファスがいるってのは偽情報なのか?」


 首をかしげるザンドル。

 僕は軽く首を振った。


 偽情報にしても漠然としすぎている。

 むしろ魔王軍は、ルーファスの居所についてまったく判っていないのではないだろうか。


 だからこそ、本拠地からなるべく遠い場所にいることにした。

 もちろん僕たちを遠ざけるために。


「けど、ルーファスはホウライを目指したと思うぜ。俺としては」


 マリーシアか口を挟む。


「それはどうしてデースカ?」


 可愛らしく下唇に人差し指をあてるラーハーだった。

 ヒロインポジションでも狙っているのか、なんかあざとい仕草である。


 中身がオッサンだと知らなければ、たいていの男は騙されちゃうかもしれない。


「たいした理由はねーけどよ。ファンタジー世界に日本みてーなところがあった、とりあえずいってみようとしねえか?」


 ひっどい理屈だが、僕は苦笑とともに頷いた。


 国民的コンピュータRPGの第三弾あたりかな。

 世界地図みたいなフィールドマップだったんだけど、船を手に入れたらとりあえず日本を目指したプレイヤーは少なくないだろう。


 僕だってそうだ。

 すべてのヒントを無視して黄金の国ジパングへと針路を取り、あきらかに自分のレベルにあっていない敵にあっさりと全滅させられたものである。


 この世界にきて、カタナを目にした僕たちは日本っぽい国があるのだと知った。正直、行ってみたいと思った。

 ルーファスだって似たように考えた可能性は、けっして低くはないだろう。


「僕もマリーシアの意見に賛成だよ。付け加えるなら、魔王もそう考えたから、こっち方面に罠を張ったんじゃないかな」


 根拠はないけど、魔王は僕たちのことを知ってるんじゃないかと思うんだ。

 こうするんじゃないかなって発想が似ているっていうか。


 それは、僕たちの体を供物にして復活したからか。


 あるいは……。


「エイリアス? どうした? 変な顔をして」

「そりゃあイケメンの君からみたら変な顔だろうさ。ザンドル」


 顔色を読んだのか心配する仲間に僕は冗談をとばした。

 苦虫を噛み潰したような表情をするザンドルだったが、ぽんと肩を叩いて引き下がってくれる。


「言えるようになったら言えよ」


 という言葉とともに。

 気心の知れた仲間ってのは、ありがたいもんである。





 アジトは、放棄された城というか要塞だった。

 僕はこの世界の歴史を知らないけど、過去にあった戦争などに使われていたのだろう。

 場所は森の中。


「べったべただな」


 にやりとマリーシアが唇を歪める。

 まあね。

 絵に描いたような秘密基地だ。


「街には住めないんだからしかたないよ。野宿ってわけにもいかないんだし」


 肩をすくめてみせる。

 利用できるような空き家があれば利用するだろうし、頑丈であればあるほど望ましいだろう。


「で、入ったら中はトラップだらけなんだろうな」


 そんなことを言いながらザンドルが前に出た。

 罠の発見と解除は、まさに彼の本領だから。


 かわってマリーシアが後列にさがる。

 後方警戒をおこなうために。


 このあたりは誰が何を言わなくともできる無言の連携だ。

 探知能力に長けた二人が横並びになっても意味がないのである。


 つまり、前衛は僕とザンドルで、通常時には後者がやや前。

 戦闘になったら僕がぐっと前進してザンドルはフォローに回る。


 後衛はマリーシアとラーハーで、前者が回復役を守りながら後方全体を監視し警戒する。

 まず安定した布陣だ。


「気をつけて」

「判ってるさ」


 するすると勝手口らしき扉に近づき、ザンドルが右手でくいくいと僕を手招きする。

 左手の人差し指を唇にあてながら。


 足音を殺して僕は歩み寄った。

 軽く頷いたザンドル。

 僕を呼び寄せた右手が、まるでハンドサインのように動く。


 立てた人差し指は、この扉の向こうに見張りが一人いる、ということなのだろう。


 木の扉を指さすのは、ここを僕の剣で貫けという意味だ。


 そして描いた円は、そこが見張りの心臓ってことかな。


 まじかー!

 すげーこと要求されたぞ!


 僕は、扉の向こう側にいる敵を、目視できない状態で、一撃で刺し殺さないといけないってことか。

 ザンドルの唇が音を立てずに動く、できるか? と。


 できないなら別の手を考えるということである。

 他の入口を探すとか、騒がれるのを承知でばーんと開けちゃうとか。


 僕はひとつ頷いて、聖剣アイリスを引き抜いた。

 どこを貫けば良いかは、ザンドルが教えてくれてるからね。


 扉を突き通す力で、正確な刺突をすれば良いだけ。

 練達の戦士エイリアスには容易いことだ。

 確認するように、ザンドルの指がもう一度扉をなぞる。


 OK。

 位置は把握した。


 弓弦(ゆんづる)を引き絞るように右腕を引く。

 狙いをさだめて。


「牙○っ!」


 謎の技名を、さすがに口の中だけ唱えながら突いた。

 まずはかたい感触、そして肉を貫く感触が指先に伝わる。


「お見事」


 にやりと笑ったザンドルが素早く扉を押し開き、意味も判らず突然殺された哀れな魔族の体を支える。

 ひとつ頷き、僕は長剣を引き抜いた。


 こうしないと倒れた死体が大きな音を立てるかもしれないのである。

 まあ、穴の空いた扉と死体があるんだから、すぐに侵入には気付かれるだろうけど、発覚は遅ければ遅いほど良い。


「ひゅーひゅー かっちょいいねぇ」

「惚れてしまうやろ、なのデース」


 囃したてながらマリーシアとラーハーが要塞に入ってくる。

 こいつらをセットにしたの誰だよ。

 ろくなことにならないって実証されたばっかりなのに。


「ぼやくなぼやくな。他に選択肢がないんだから」


 鋭く周囲を確認しながらザンドルが慰めてくれた。

 パーティーの良心である。


「ふーむ。戦力を集めてるみてぇだな」

「ああ。クレバーな選択だ」


 気配の探知能力に優れたマリーシアとザンドルが頷きあった。


「どういうことデースか?」

「ラミアが戻らなかったからね。もう次の手に移行してるってことさ」


 首をかしげるラーハーに僕が答える。

 アジトの場所をラミアまたはゾダンが吐いちゃった可能性、そしてそこが襲撃される可能性を考えて、戦力の集中を計るのは、じつに手堅い戦術判断だ。

 扉を守っていたのは、戦力とは考えてもらえないような小者ってことである。


「てことは、僕たちの侵入には気付かれてる?」

「微妙だな。まだ戦氣(せんき)は高まってきてねえし」


 判断を避けて腕を組むマリーシア。


「どうするよ? エイリアス」


 視線を向けてくる。


「いこう。先手必勝で」 


 臨戦態勢になっていないなら、ここは素早く仕掛けるべきだろう。

 どのみち、こっそり要塞の中を探索するには、お邪魔しますがダイナミックすぎる。

 巡回があれば、一発で侵入がばれちゃうんだから。


「なら、最短ルートで案内(ナビ)するぜ」


 頼もしいことを言って胸を叩くイケメンである。

 じっさい彼は頼れる男だしね。

 戦闘がメインの僕とは大違いなのです。


 その頼れる男が先導し、僕たちは要塞の深部へと進んでゆく。


「どこにいますかネー」

「広い場所だね」


 ラーハーの問いに答える。

 敵はどのくらいの数がいるか判らないが、戦力ってのは集中してこそ活きるものだ。

 となれば、その集中した戦力が動き回れる程度の広さがある場所、というのが集結地点だろう。


 たとえば屋内の謁兵所とか訓練所とか、そういう場所である。

 あるいは内院(なかにわ)とかも良いかもしれない。


「決戦デスネー ワタシは一匹ずつ暗がりに引きずりこんで始末していくのが好みデスヨー」


 たしかにその方が確実だけどさ。

 大丈夫か?

 あんた一応、聖女さまとか呼ばれてんだぞ?



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