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ロードオブ仲間探し 7


「誰がなんのためにこんなもん造ったんだべな」


 けっこう広い廊下を歩きながら、マリーシアが首をかしげる。

 三十階層である。


 下の階層に行くほど傷みは少なく、建造当初の美しさが伺える。

 あと、この階層から灯りが必要なくなった。

 壁や天井が、ぼんやりと発光しているためである。


「バベルの塔てきな何かとか」

「や、あれだって意味不明じゃねーか」


 僕の解答には満足いただけなかったようだ。

 超能力少年がいるかも、とかいわれるよりはマシである。


「実際、どういう目的で造られたかなんて、考えるだけ無駄だぜ。マリーシア。ここは地球じゃない上に、地球にある遺跡だってなんのためのものだったかなんて、想像でしかないんだからな」


 肩をすくめるのはザンドルだ。

 ピラミッドは王家のお墓だってのは有名な話だけど、本当にそうなのか他の目的があったのか、誰にも判らないのだ。


 なにしろ、見てきたヤツがいないから。

 ただ、その場にいなかった人間に判るわけがない、なんていいだしたら、考古学とか歴史学が存在する理由がなくなるんだけどね。


「迷宮全体から魔力を感じるせいで、うまく魔力感知ができないな。不意打ちに注意しないと」

「ラーハー。言葉言葉」

「オゥ! そうでシター!」


 思わず素に戻ってる聖女さまに、ザンドルがツッコミを入れてあげてる。

 付き合いいいなぁ。

 ほっとけばいいじゃん。

 こんなうざい言葉遣いなんて、わざわざさせなくてもいいって。


「いやいやエイリアス。キャラ付けは大事だぜ?」


 謎の理解を示すマリーシアであった。

 だったらお前さんも、せめて女言葉を使ったらいかがかな?

 そんな蓮っ葉な口調じゃなくて。


「おめーが気持ち悪いっていったんだぜ?」

「事実として気持ち悪いからなあ。マリーシアの女言葉なんて」

「俺も同意見だ」


 気むずかしげに美少女が腕を組む。

 まあ僕だって、仮に女の子の体になったとしても、言葉遣いは変えないだろうからね。


 ちゃんとキャラを作ってるラーハーは、たいしたもんなんだろう。

 きっと。

 たぶん。


「それに、魔力感知ができねーのは事実だ。気配読みだけで対応するしかねえ」

「オレが前衛にでるか?」


 ザンドルの提案である。

 たしかに彼は、僕たちの中で最も気配探知に優れている。


「いや。ザンドルは後ろの警戒を頼むぜ」


 マリーシアが首を振った。

 前方よりも後方の警戒を厳重に、ということだ。


 なにしろ前は僕にだって見えている。

 敵が近づいてきたら判るのだ。だが、後ろはそういうわけにはいかない。

 こっそり尾行されたら気付かないし、バックアタックなんかされちゃったら、下手したら全滅である。


 コンピューターRPGならともかく、現実の戦闘では隊列の変更だって簡単じゃないのだ。

 前衛の僕とマリーシアが後列と入れ替わるまで、ザンドルとラーハーが戦線を支えないといけない。

 もちろん二人とも弱くなんかないけど、近接戦闘が得意なわけでは、それ以上にないのである。





 慎重に進んでゆく。

 やがて、僕たちの前に大きな扉が姿を見せた。


「構造から考えて、この先が迷宮の真ん中あたりってことになるかな」


 紙束を眺めながらザンドルが呟く。

 彼が地図係(マッパー)だ。

 迷宮の構造なんかも立体的に把握してくれるので、どこぞのパス○ルさんより、七百倍くらい優秀である。


「方向音痴なマッパーと比べられるのは釈然としないけど、アテにしてくれてかまわないぜ」


 なんか静かな自信をたたえてる。

 まあ、じつは空間把握というのはものすげー重要で、これができないと迷宮探索は詰みみたいなもんなのだ。

 地図を描くのだけがマッパーの仕事じゃない。


「で、アテになるマッパーさんは、この先に何があると読む?」

「ホールじゃないかな。扉の大きさから考えても」


 マリーシアの質問にも、よどみない応えが返ってくる。

 ホールということであれば、敵が待ちかまえている可能性がけっこう高い。


 となれば、ここはきちんと備えるべきだろう。

 僕はラーハーとマリーシアに視線を向ける。


「ラーハー。防御魔法(プロテクション)を」

「任せてくだサーイ」


 聖女の詠唱とともに僕たち四人の体を光が包んで、すぐに消える。


「マリーシア。魔力付与(エンチャント)を」

「任しな」


 美少女の詠唱で光に包まれるのは、僕のバスタードソード、マリーシアのカタナ、ザンドルの弓矢、ラーハーのメイスだ。


 あくまでも可能性であり、この先に敵はいないかもしれない。

 しかし、備えていて何もなかったときは笑い話で済むが、準備もしないで何かあったときは笑えないのだ。


「鍵はかかってないぜ」

「OK。じゃあ開けるよ」


 僕はゆっくりと扉を開いてゆく。


 いた。

 かなり広いホールの中央部、巨大な影がこちらに視線を向けている。


 獅子の頭とヤギの頭をもち、尾は毒蛇、背中には竜の翼。

 ファンタジーの定番モンスター、キマイラだ。


「判ってると思うけど、強敵だぞ」


 いつの間にか横に並んだマリーシアが告げる。

 やや緊張を含んだ声で。

 かるく頷く僕も、少しだけ緊張していた。


 状況的に、これはけっこうしんどい。

 周辺に散らばる人骨をみても、このキマイラは中ボス的な立ち位置と考えるべきだろう。

 RPG的にいうなら、シンボルエンカウントというところか。


 そして、この敵を倒した宝探し屋(トレジャーハンター)なり冒険者(アドベンチャラー)なりは存在しない。

 勝手にモンスターが生成されるシステムではないことは、いままで倒した敵の死骸が消滅したりしないことからも推測可能である。

 人骨が消滅していないのも傍証になるだろうか。


 つまり、誰かがキマイラを倒したなら、この三十階層のボスは存在しなくなるということ。

 ここから先は人跡未踏だってことだ。


「いくぞ!」


 自分を鼓舞するようにあげた僕の大声と、キマイラの獅子首が発した吠え声が重なった。


 僕とマリーシアが駈ける。

 一直線に。


 待ちかまえるキマイラ。

 後ろ脚に力を込め、一気に飛びかかろうと。


 まさにその一瞬を狙い、僕が右へ、マリーシアが左へと跳ぶ。

 べつに複雑な話じゃない。

 互いの場所を入れ替えただけ。


 が、キマイラの動きがわずかに鈍る。どちらを先に狙うか、迷ったのだ。

 それが僕たちの狙い、ではない。


 響き渡るキマイラの絶叫。

 獅子の両目を矢に貫かれて。


 絶倫の技量は、もちろんザンドルの仕業である。

 僕たちに注意を向けさせるのと同時に、ザンドルが死角(ブラインド)になる一瞬を作り出す。

 これこそが狙いだ。


 ぐんと加速したマリーシアが鋭い踏み込みからカタナを一閃させた。

 横薙ぎに。


 一文字に深手を与えるが、まだ致命傷ではない。

 滅茶苦茶に暴れるキマイラ。


 避けきれず、前脚の一撃をもらってしまい、マリーシアが吹き飛ぶ。

 投げ捨てられた人形みたいに、二度三度と床と接吻しながら。

 骨の折れる嫌な音がホール内に響いた。


 防御魔法を纏っていてもこのダメージである。

 かはっ、と、吐血する。


 すかさず落下点へと走り込んだラーハーが血で汚れるのもかまわずに回復魔法を使う。

 柔らかな癒しの光に包まれるマリーシアの体。


「た、たすかるぜぇ……」

「完全回復は無理デースよ」

「痛み止めで良いんだよ。がっつり飛べる(・・・)やつをたのむぜ」

「それは痛み止めではナーク、アブない薬デース」


 苦笑する聖女。

 いつも通りのマリーシアに安心した、というところだろうか。

 その様子を視界の隅にとらえながら、僕は小さく息を吐いた。


 こちらの状況は、安心からはほど遠い。

 マリーシアが斬りつけた傷も、ザンドルの矢が貫いた獅子の目も、完全に元通りになっていた。

 自己回復してしまったのだ。


「まったく……どういう構造してんだか」


 ザンドルが肩をすくめるが、僕はすでに似たような光景を目にしている。

 オーガーが、切断された腕を自分でくっつけちゃったシーンだ。


「DPSが足りてないってやつだね」

「放射能?」


 ではない。


 僕のいっているのはdisintegrations per secondではなく、damage per secondのこと。

 ゲーム用語の方だ。


 ようするに、常に一定以上のダメージを与え続けていないと倒せないって意味に捉えてくれると判りやすいだろう。


「その解説必要だったか? より絶望しただけじゃないか」


 憤慨するザンドル。

 うん。

 僕もまったく同意見だよ。



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