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ロードオブ仲間探し 6


 ラーハーは、太陽神ラーファと名前が似ていたこともあって、聖女として崇め奉られたらしい。


「送られた場所も運が良かったのデース。教会の中でしたカーラー」


 まあ、たしかに幸運に恵まれてはいるだろう。

 大都市の教会なら、周囲には権力のある人も多かったろうし。これが街角に出ちゃったりしたら、大変な苦労を強いられることになる。


 ましてラーハーには、僕ほどの戦闘力はない。

 メイジなんかに比較すれば、いちおうは前衛にも立つこともできるが、やはり本業は回復魔法や支援魔法なのだ。

 女の身で、街角からのし上がるというのは簡単ではない。


 で、聖女になったラーハーは、人々にインチキ臭い説法をしながら、僕たちが来るのを待っていた。


「マザー・テレサの名言日めくりカレンダーが役に立ったのデース」


 説明するのも馬鹿馬鹿しいけど、こいつはもちろん本物の宗教家なんかじゃない。

 説法なんぞできるわけがないのだ。


 カレンダーに書いてる名言なんぞをもじったとしても、人々が心を動かすとも思えない。

 聖女というネームバリューと、輝くような美貌。このふたつが非常に有効な武器だったことは疑いないだろう。


 容姿は、いつだってアドバンテージだから。

 それは残念ながら、中世的価値観に限らない。


「イエイエ。けっこう良い言葉が載っていたのデースよ」

「たとえば?」

「あなたは、あなたであれば良いのデース」

「語尾のせいで台無しだな」


 じゃれ合うラーハーとザンドル。

 美形どうしだから、絵になること絵になること。

 中身が中年のオッサンだなんて、とてもこの世界の人々には言えないよ。


「お前もな。エイリアス」

「それをいっちゃおしまいだよ。マリーシア」


 ともあれ、ラーハーは僕たちと一緒にくることになった。

 まあ、トリアーニの街で宗教活動していても、日本に帰れるわけではないので当然だ。

 こいつにだって、待っている人がいるのである。


 ただ、出発までが大変だった。

 なにしろ聖女さまだから。

 ちょっとそこまでいってきまーす、てわけにはいかない。


 僕たちが魔王を倒すための集まった光の戦士であることを教会のえらい人に伝え、ともに旅に出ることを納得させなくてはいけなかった。

 もちろん非常に渋られたよ。


 魔王復活によって各地でモンスター被害が増えていても、えらい人にしてみれば脅威が至近に迫っているわけでもないしね。

 ラーハーが去っちゃうと寄進の額だって減っちゃうだろうし。

 でもまあ、最終的には頷いてくれた。


 たぶんこれは、江戸時代、お伊勢参りにいきたいって人を止めちゃいけないっていう不文律があったんだよってのに近いものがあるだろう。


 お(かげ)参りとも呼ばれていたらしい。

 住民の移動が厳しく制限されていた時代だけど、伊勢神宮への参拝って名目があれば、ほとんどは許されたんだってさ。

 だから、奉公人とか子供とか、非常に弱い立場の人が主人や親に無断で行ったりもしていたんだそうだ。


 ラーハーの場合も同じ。

 魔王討伐がお題目だもの。

 まさか行くなっていうわけにもいかない。

 神官長みたいなひとに、くれぐれもラーハーを守るように頼まれたけどね。僕は。


 こうして、五人の仲間のうち四名が揃ったわけだ。

 最初の目的地は、フリットン迷宮である。






 石造りの立派な廊下を進む。

 前列は僕とマリーシア。後列はザンドルとラーハーだ。


 ランタンは僕が左手に持ち、いつものバスタードソードは腰に提げて予備武器のロングソードを右手で構えている。

 迷宮内での取り回しを考えて。


「ま、バスタードなんぞぶん回されて、俺にまで当たったら洒落にならないしな」


 憎まれ口を叩くマリーシアの頭の上には、灯り(ライト)の魔法が灯っている。

 けっしてハゲだから光ってるわけではない。


「よしエイリアス、ファイアボールが間違っててめーに当たっても自業自得な」

「たいへんもうしわけありませんでした」


 すかさず謝罪する僕であった。


「なんでエイリアスは、わざわざ虎の尾を踏むんだろうね? バカなのか?」

「愛ゆえにデース」


 後ろの二人が適当なことを言っている。

 少なくとも愛はないな。うん。

 バカなのは否定しないけど。


 だってほら、押すなって書いてあったら押したくなるだろ?

 そこにボタンとかあったら。

 絶対に罠だって判っていても。


「ゲーム中は良いけど、現実(ここ)ではやめとけよ。さすがに洒落ならんぞ」


 半眼を向けるマリーシアだが、迫力はゼロだ。

 想像してみてほしい。


 美少女が腕を組んで、首をかしげて睨んできても、頭のてっぺんに灯りが乗っかってたら、と。

 笑っちゃうから。


「ま、扉とか宝箱はオレの出番だろ」


 ザンドルの台詞である。

 ゲーム内での役割は盗賊(シーフ)だ。


 なんか語感が悪いので、スカウトと呼ばれることもあるが、鍵を開けたり罠を解除したり、迷宮探索型のゲームではなくてはならないクラスである。

 ちなみにプレイの難易度は最も高く、玄人好みの役どころだったりもする。


 というのも、マスターの出すちょっとしたヒントや、仕掛けられた謎かけ(リドル)を敏感に察知して解いていかなくてはいけないからだ。


 もちろん解けないからって全滅させちゃうようなマスターはヘボすぎるけど、プレイの緊張感を保つ一助となるのが盗賊職なのは事実である。

 ここがしっかりしてないと、マスターとしては「難しい謎解きはやめておくか……」と、なってしまうわけだ。


 反対に、僕がやっている戦士はけっこう簡単だ。

 基本的に、戦ってれば良いだけだからね。


 敵を倒し味方を守り、いわゆるヒーロー的な行動を心がけること。

 これが推奨されるプレイスタイルとなる。


 ちょっとニヒルなダークヒーローがやりたいんだよって場合は、パーティーに戦士が二人以上いるときにした方が良い。

 唯一の戦士がダーク寄りだと、パーティーの指針がすごく微妙になってしまうのだ。

 村人が困っていても、素通りしちゃったりね。


 これはこれで、マスターは話が作りにくい。

 戦士は、困ってる人がいたらほっとけない、ってくらいのお人好しの方が、ゲームの進行はスムーズになる。


「お。敵だぞ」


 マリーシアが警告を放つ。

 最も気配探知に優れた彼女だ。

 僕たちは足を止め、それぞれの得物を構える。


 待つことしばし。

 暗がりの向こう側から現れたのはゴブリンだった。


「ざっと十ってとこだ。気配は」

「防御魔法は、いりマースか?」


 後方から聞こえるラーハーに否と応え、僕とマリーシアは腰を屈めた。

 遊んでいるわけじゃない。

 間髪入れず、僕たちの頭上を通過して飛んでゆく銀の光。


 ザンドルの射撃だ。

 二本同時発射を三回。


 放たれた矢と同じ数の小鬼が倒れるが、彼我の距離が縮まり弓矢を役立たずの武器に変える。

 ここからは僕たちの出番だ。


 ちらりと視線を交わし、僕とマリーシアが同時に飛び出す。

 突き出されるカタナと長剣。

 喉を貫かれて笛みたいな音を立てるゴブリンと、頭の上半分を吹き飛ばされたゴブリンが倒れ込む。


 もちろん僕もマリーシアも、そんな哀れな小鬼なんか見てもいない。

 次の相手に斬りかかっている。

 一匹はきれいに首を刎ね飛ばされ、最後の一匹は脳天から股下までを一刀両断された。

 ほぼ一瞬の間に戦闘は終わる。


「ほいほい。回収回収、と」


 ザンドルが死体から矢を引き抜いてゆく。

 再利用しないと、あっという間に矢筒が空になってしまうからだ。


「手伝うのデース」

「気をつけてくれよ。折るなよ?」

「任せてくだサーイ」


 (やじり)は返しがついているので、上手く抜かないと引っかかって矢が折れてしまうのである。

 もちろんそうなったら、もう使い物にならない。


 ザンドルとラーハーが作業をしている間、僕たちは周辺の警戒である。

 物色中に襲われるというのは、控えめにいっても、かなり間抜けな構図だから。


「浅いところに宝物があるとも思えねえし。なるべく戦闘は避けたいとこだな」

「だね」


 現在は第四層。

 探索は始まったばかりだ。



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