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ロードオブ仲間探し 3


 一合で僕らは飛び離れる。

 油断できるような相手ではないと悟ったからだ。

 お互いに。


 オーガーの身長は、僕より頭四つくらい大きく二メートルを軽く超えているだろう。ボリュームでは倍くらいありそうだ。

 にもかかわらず、膂力が同程度だった。


 僕がオーガーだって警戒するだろう。

 この人間、かなり強いぞ、とね。


「ガァァァァァッ!」


 自分を鼓舞するようにオーガーが吠える。

 対する僕は無言のまま。


 気圧されたわけじゃない。もう威嚇の必要はないからだ。

 ぐっと踏みだし、縦横にバスタードソードを振るう。


 たちまちのうちに防戦一方に追い込まれる人食い鬼。

 膂力が同じなら勝敗を分けるのは技量である。そしてそれは、圧倒的に僕の方に軍配が上がる。

 細かい傷が、いくつも巨体に刻まれてゆく。


「ガァァァァァッ!!」


 ふたたびの雄叫びとともに、棍棒を大きく振り回した。

 一発逆転を狙ったか。


「けど、それは悪手だよ」


 狙いすましたバスタードソードが一閃し、棍棒を持ったままの右腕を斬り飛ばした。


「ガッ!?」


 返す刀で首を斬る、まえに、僕は大きく飛びさがる。


 一瞬前まで僕のいた場所に、次々と粗末な矢が突き立った。


 十数匹の小鬼(ゴブリン)が奇声をあげながら接近してくる。

 オーガーの手下どもか。


 ぎゃいぎゃいと騒ぎつつ右腕を拾い、捧げ渡している。

 ぐるるる、と、憎々しげにこちらを眺めながら、それをくっつけたりして。


「ていうかくっついちゃうんだ……さすがファンタジー世界だね」


 呆れたような声を僕は出した。

 一般的に、オーガーってのは回復力にも優れているモンスターとされてるけど、斬れた腕を接着できるほどだとは、さすがに想像の外側である。


 状況は良くない。

 一対一(タイマン)なら、僕はオーガーなんぞに負けないけど、問題はゴブリンどもだ。

 こいつらが射かけてくる矢が鬱陶しい。


 刺さったら当然のように大ダメージだし、毒が塗ってあるかもしれないのだ。

 かわしたり打ち払ったりしていては、とてもではないけど踏み込めない。


「どうしたものか……」


 呟く。


 ゴブリンどもの矢が尽きるまで回避に専念する、というのも選択肢のひとつだが、その程度のことは敵だって判るだろう。

 そもそも、長期戦になったら数が少ない僕の方が不利だ。

 こういうときこそマリーシアの魔法が頼りになるんだけど、いないものは仕方がない。


「せめて僕に飛び道具があればなぁ」


 はなはだ現実性を欠く愚痴がこぼれてしまう。

 ナイフでも投げ矢(ダーツ)でもなんでも良い。中距離で使える武器があれば、だいぶ戦術の組み立て方の幅が広がる。


 バスタードソードで接近戦のみってのは、いかにも頭悪すぎだ。

 いつもマリーシアが一緒だったから、中・遠距離の部分をまるっと任せきりにしてしまっていた。


「お前さんの詰めの甘さは、べつに今に始まったことじゃないけどな」


 突然、声が響いた。


 同時に飛来した矢が二本、正確にゴブリン二匹の頭を射抜く。


 慌てて視界を転じた僕の目に映ったのは、まさにおしゃれな若者だった。

 頭には粋に決めた帽子。同じ若草色のチョッキを着て手には短弓。

 茶色の長髪を風になびかせ、鷹のように鋭い目でこちらを見ている。


 盗賊(シーフ)というには格好良すぎのイケメン野郎だ。

 僕はこのイメージイラストを見たことがある。


「……丹沢(たんざわ)……なのか?」

「いまはザンドルだぜ。エイリアス」


 言うが早いかふたたび矢をつがえる。

 二本。


 同時に放たれた。

 こんな射ち方をして当たるわけがないのに、矢は不規則な軌道を描いて飛び、ゴブリンどもの胸を貫く。


「君は君で無茶苦茶だなあ……」

「二本撃ちのスキルが、そのまま使えるんだよ。格好いいだろ?」


 にやりと笑うザンドル。


「ゴブリンは任せとけ。エイリアスはオーガーを」


 付け加える。


「判った!」


 鬱陶しいゴブリンどもの弓矢攻撃さえなければ、もうこっちのものだ。

 僕はオーガーの方へと駈けだした。





 

 ザンドルの正確無比な射撃で、戦況は一気にひっくり返った。


 マリーシアの魔法のような派手さはないけど、とにかく手数が多くて小回りがきく。

 これが大きい。


 射撃直前で狙いを変えたりもできるのだ。

 僕の後ろに回り込もうとしているゴブリンとかを、良いタイミングで倒してくれる。


 援護ってのはこうやるんだよって、見本みたいな戦い方だ。

 おかげで僕は前だけ向いて戦うことができた。そして一対一なら、オーガーごときに負けたりしない。

 五、六合のうちに人食い鬼の頭をたたき割り、僕はふうと息を吐いた。


 そのころには、ゴブリンたちもすっかり全滅している。

 転がっている小鬼の衣服で剣についた血を拭い、鞘に戻した。


「ありがとう。助かったよ。ザンドル」

「礼には及ばない。オレもたぶんエイリアスと同じ仕事を受けただけだからな」


 そういって、おしゃれボーイが親指で指したのは街道の先だ。

 僕がやってきた方とは反対の。


「なるほど」


 街道をふさがれて困っていたのは、僕のいた宿場町だけではない、ということである。

 向こうの宿場でも事態を憂慮して、解決をザンドルに依頼したのだろう。


「けど、こんな偶然ってあるんだね」


 たまたま同じ依頼を受けていたのが、僕の探している仲間だったなんて。


「偶然ってほどじゃないさ。オレもお前らを探していたわけだしな」


 そういってザンドルが語った事情は、僕とマリーシアが白い人からきいたものとほとんど変わらなかった。


 彼もまた、日本に帰るため仲間を集めて魔王を倒そうとしていたのである。

 で、さしあたり、このあたりで一番大きな街に行ってみようとエゼルを目指していた。


「僕たちはエゼルから王都トリアーニに向かっていたんだ」

「すれ違っていたら、いつまでも会えない一人目と二人目みたいだな」


 国民的コンピュータRPGの第二弾、その序盤の話をして笑い合う。

 一人目の王子様は、二人目の王子様になかなか会えないのである。

 情報を得て行った先では、すでに出立していたりして。


「ところで、たちって言ったか?」


 ザンドルが首をかしげる。

 すでに仲間と出会っているなら、どうして一人で戦っていたのか、普通は疑問に思うだろうさ。

 まさか生理で寝込んでいるとか、想像できるやつがいたら変態紳士の称号をあげたいくらいだよ。


「マリーシアと一緒なんだけど、ちょっと体調不良でね。宿でやすんでいるんだよ」

「マリーシア……?」

「NPCの」

「ああ。そうか。衣鳥はキャラがいないから」

「そそそ」


 すぐに察してくれたのか、ぽんと手を拍つ。

 こういう阿吽(あうん)の呼吸が、長年の仲間って感じがする。


「けどマリーシアって、女じゃないか?」

「女だねえ。で、女になっちゃって、いまは女の子の日で苦しんでるよ」


 やれやれと僕は肩をすくめてみせ、ザンドルはぶはっと吹き出した。

 気持ちは判る。


「あいつが女!? オレたちのなかで一番男臭いあいつがっ!」


 げらげら笑っている。

 気持ちは、とてもよく判る。


 僕たちのなかに女性的な人はいないけど、衣鳥は群を抜いて男だった。

 結婚してからは、さすがに女遊びはしなくなったけどね。

 大学の頃なんて風俗に遊びに行くためだけにバイトしていたんだよ? かなりのつわものでしょ?


「じゃあ、しばらくは滞在するのか?」


 ひとしきり笑ったあと、ザンドルが訊ねる。


「だね。一応は五泊の予定だよ」

「そうか。マリーシアちゃんは重いんだね」


 大変なんだよ。

 中身はオッサンだけどね。


「オレは一度戻って、討伐報告をしてから合流するよ」


 ゴブリンに突き刺さった矢を回収しながら今後の方針を示してくる。

 まあ、仕事を受けっぱなしで放置ってわけにはいかないからね。

 倒したからいいじゃーん、ということではなく、きちんと報告しないといけない。


「討伐証明とか持っていった方がいいかな?」


 耳とかである。

 ファンタジーライトノベル作品で、けっこうそういうシーンがあるが、じつは不思議に思っていた。


 そんなに信用できない人に仕事を任せているのか、と。

 むしろそこまで信頼できないなら、戦闘の記録をとれるマジックアイテムでも登場させればいいのに、と。


「いらないんじゃないかな。僕の名前を出して共同で倒したって本当のことをいえばいいと思うよ」

「だな。気色悪いもの持ち帰っても、だれも喜ばないだろうし」


 頷き合う。

 従士という地位が信用の証になるのだ。



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