60.謝罪
「ちょっと待ってください! 一体全体どういうことですか?」
未だに話の流れが読めないため説明を求めた。
アイリスは得意げな顔をしながら語り始める。
「端的に言えば、シルヴィアさんは人が嘘をついているかどうか判断する力があるんだ。それで君の言動を逐一観察して嘘をついているのかどうか判定していたんだ」
ああ、それでサラさんが質問した後、彼女に目配せをしていたのか。もしも俺が嘘をついていた場合、すぐにバレて俺の処刑が決まっていたのかもしれない。
「結果、君は嘘をついていなかった。セイにも質問をしたんだけど、一方の視点だけじゃ確実性に欠けるからね」
そこまで言ったところで、アイリスは周りの人達に目配せする。
一体何だろうか?
疑問に思った瞬間、彼らは机に触れるか触れないかという程に、深くその頭を下げた。
そうして、代表としてシルヴィアさんが顔を下げたまま発言する。
「大変申し訳ございませんでした。此方の早合点により、住人を助けていただいた貴方の事を傷付けてしまいました」
「あ、頭を上げてください! 此方としては誤解が解けたのならそれだけで良いのです! 元々根無し草のような状態で途方に暮れていたところだったので、こうして人里に来れただけでも僥倖というものです」
そう言うと、周囲の皆が目を大きく見開き、次の瞬間には苦笑いをしていた。
「それはあくまでも結果論でしょう。我々の対応は恩人に対してするものとは遠く掛け離れたものでした。……どうお詫びをすればいいのか……。ってまずは手錠を外さなければなりませんね」
シルヴィアさんはそう言って、手錠をガチャンと外した。
まただ。何度見ても分からない。術式を介さずどうやってこのような結果を起こしているのか。
手錠そのものには術式は刻まれていない。もし刻まれているのならば感知できるはずであるし、何より術式の励起光が見えるはずだ。それらが無いということはこの手錠は正真正銘、魔術で動いているものではないという事になる。
勿論、身体強化や物質強化、探知魔術、俺の修復魔術と言った術式を介さない魔術も存在する。ただそれらはあくまでも魔力の物理的な性質を利用しているに過ぎない。
例えば物質強化や修復魔術は同一波長の魔力同士が引き寄せ合うという性質を利用しているものである。本質は魔力によって分子レベルの結合をより強固なものにしているにすぎない。
彼女の行使しているのは、明らかにそういった魔術とは違う。
俺が不思議そうな顔をしていたのを見かねて、アイリスが声を掛けてくる。
こちらを覗き込んできた彼女の赤い髪がサラリと揺れ、甘い香りが鼻腔をくすぐる。
「もしかして精霊魔術を見るのは初めて?」
「精霊魔術?」
聞き慣れない単語だったので思わず聞き返してしまう。
「そっか……。君は普通の人間だから、精霊が見えないんだね。私達の周りには、目に見えない生物がいるんだよ。ここに住んでいる人達は、彼らの力を借りることができるんだ」
「術式を介した魔術とはどう違うんだ?」
知的好奇心が刺激されてしまい、彼女に対して質問するが、アイリスはまあまあと言いながらなだめてきた。
「取り敢えず、細かい話は後で落ち着いてからにしようよ。まずは君は体を休めたほうが良い。顔色がすこぶる悪いから。…………まあ、牢に入れた張本人が言うのもおかしいけどね」
アイリスは気まずそうに頭を掻きながらそう言った。
瞬間、獣人のサラは血相を変えた。
「それは違います! 彼を捕縛したのは私のーー」
その続きは言葉として発せられることはなかった。
アイリスから魔力の揺らぎを感知した瞬間、サラはその口をつぐんだ。いや、おそらくはつぐまされたのだろう。
精霊魔術というのは何でもありなのだろうか?
後でどのような技術なのか詳しく聞かなければならないな。
「ひとまず、体を休める場所まで案内するね。私に着いてきて」
アイリスはそう言って俺の手を握って歩き出した。
俺は為されるがまま、彼女の後を追った。
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