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58.アイリス


「シルヴィアです。件の人間を連れてきました」


 そんな彼女の言葉に反応したのは若い女の声だった


「……合言葉は?」


 ほう。例え身内であっても合言葉を言わなければ部屋にいれない風習なのか。随分と用心深いんだなとか思っていたら、


「ふざけないでください何が合言葉ですか。そんなもの知りませんよ」


 どうやらそんな事はないらしい。


「……合言葉は?」


 懲りずに同じ質問を繰り返す女に、シルヴィアさんが青筋を浮かべたのが横目に見えた。何なら俺の両手に繋がってる鎖をビキリと音が出るほどに握りしめていた。


「貴女の脳ミソには学習するという言葉がないのですか? アイリス」


「お母さんのお腹の中に丁寧に置いてきました!」


「ちっ……! ……ホントめんどくさい」


 シルヴィアさんは舌打ち混じりにそう言うと、バタンと勢いよく扉が開いた。


「舌打ちはやめて舌打ちは! 本気感が出て傷つくんだから!」


 涙目で出てきたのは長い赤髪をポニーテールにしている若い女性だった。

 女性が出てきた瞬間、シルヴィアさんは彼女の顔を鷲掴みにしてギリギリと音が聞こえそうな程に握りしめた。


「あら? 本気だったのですよ?」


 顔こそ笑顔だが、目が一切笑ってない。

 シルヴィアさんは右手で彼女の顔を鷲掴みにした状態で引きずり、左手で俺に繋がっている鎖を引きながら部屋へと入る。


「痛だだだだだ!? ぼ、暴力反対! 理知的な対話を所望しますうぅぅぅ!」


 赤い髪の少女は引きずられながら抗議していた。


「最初に煽ってきたのは貴女でしょう……」


 シルヴィアさんはため息混じりにそう言いながら手をぱっと離した。

 解放された彼女の顔を改めて眺めると、思わず息を呑んだ。


「……っ」


 彼女が、あまりにも、綺麗だったから。

 勝気そうな瞳は彼女の髪と同じ赤色をしており、顔立ちはすっきりと整っていた。肌は軽く焼けており、出るところは出て、引っ込むところはしっかりと引っ込んでいる、非常に女性らしい体つきだった。年は若そうで、俺と同じか少し上程度だろう。

 母さんやミアのことを間近で見てきた俺でも思わず息を飲んでしまうくらい、美少女と呼んで差し支えない程に美しかった。


いつも読んでいただき、また、ブックマーク、評価をしていただきありがとうございます。

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