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56.天使

「どうして!? 死んじゃうんだよ!?」


「そもそも、俺を助ける手段に宛はあるのかい?」


「そ、それは……」


 俺の言葉にセイ君は言い淀む。少年がどうにか出来るような牢に、処刑される人物を置きはしないだろう。


「で、でもここの牢屋は僕の住んでる孤児院の地下にあるんだ! だからきっと、鍵もどこかにあるはずだよ!」


 俺は彼を諭すように話しかける。


「仮に鍵を見つけ、俺を外に出したとして君はどうなる? まず間違いなく、罰せられてしまうだろう?」


 罰せられるだけで済めばいいが、最悪命すら奪われる可能性を考慮すべきだろう。俺を庇おうと行動してくれた彼を危険に晒すなど、絶対にあってはならない。


「それは……そうかもしれないけど……、でも!」


「その気持ちだけで十分嬉しいんだ。それに、俺の事なら大丈夫。処刑されるその時までに何とかしてみるさ! こう見えて、結構ずる賢いんだよ俺」


 そう言いながら、俺は彼に笑いかける。


「お、お兄ちゃんはそれで良いの?」


「ああ。だから見つかる前に元の場所に戻るんだ」


「わ、分かった……。それじゃあね、お兄ちゃん」


 セイ君はそう言って通ってきた通路の方へと体を向け、そしてピタリとその体を止めた。

 どうしたんだ?

 俺の疑問は即座に解消された。


「コソコソと動いてるから何事かと思えば……」


「お、お母さん……」


 呆れを感じさせる、知らない女の声が牢に響く。

 そして歩を進め、彼女は牢の前に姿を現した。

 一番初めに目に入ったのは、その背中に生えている純白の翼だった。

 白鳥のような翼を生やしているその身体は人間と大差ないようだった。肩甲骨に届く程度の金髪を一結びにし、右肩から胸に垂らしていた。その顔は彫刻のように美しく、どことなく母さんと似たような顔立ちをしていた。

 彼女は無表情のまま、その碧眼を通して俺をジッと見つめる。

 このままじっと見つめ合っても何が変わるわけでもない。俺は意を決して口を開こうとするが、その瞬間彼女の声によって遮られる。


「付いてきなさい。貴方の処遇は、別の場所で決めます」

「すぐに処刑されるわけではないと思って良いんですかね?」

「そう捉えていただいてかまいませんが、貴方の身の振り方次第では即刻首がはねられる事を肝に銘じておきなさい」

 俺は黙って頷く。変に反発して余計な刺激はするべきではない。魔力が使えず両手両足を縛られた俺は、ゴブリンにすら勝てないのだから。

 だがそんな態度ですら気に入らないのか、彼女は鼻をフンと鳴らし、冷ややかな視線をぶつけてきた。

 彼女はセイ君の方へ向き直り、やや怒気を含んだ声を発する。


「それにしても、セイ。貴方は後でお説教です。勝手に街を出ただけでは飽き足らず、人間を助けようとするなんて……」


 彼女のその言葉に、セイ君は一瞬バツが悪そうな顔をしたが、すぐに言い返した。


「うっ。勝手に街を出たのは謝るよ……。でもこのお兄ちゃんが僕を助けてくれなければ、今頃僕は死んでたんだ! それだけは信じてよ」


「どうだか……。魔物を倒して安心した所を襲うつもりだったのかもしれませんよ。セイ、貴方は人間を見た事が無いからそんなことが言えるのです。彼らは非常に狡猾で冷徹な生き物なのですから」


 彼女はそう言いながら、手を軽く振るった。すると、牢の鍵がガチャンと音を立てて開いた。


「……?」


 今のは一体何だ? 一瞬魔力の気配こそ感じはしたが、何か術式が描かれた様子は無かった。

 俺の知る魔術とは別の技術か。


「立ちなさい」


「出来れば、両足の鎖も外してもらって良いですか? この状態だと、立ち上がることもできそうになくて」


 腹の傷が無ければ反動を使って起きれるが、傷が開くような行為は可能な限り避けたい。

 彼女はチッ、と舌打ちして再び手を振るった。すると、先程と同じように微かな魔力の発現と共に、俺の両足を縛っていた鎖が解けた。

 術式が出てないことから魔術ではないことは確かなのだが、これが何なのか皆目検討もつかない。魔術における術式というプロセスを無視して結果を生み出しているのだ。初めて見る技術に興味を引かれないわけがない。


「ありがとうございます」


 俺はお礼を言いながら立ち上がる。

 相変わらず両手は使えないため、腹に負担がかからないように壁を使いながら起き上がる。


読んでいただき、またブックマーク、評価していただきいつもありがとうございます。

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