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55.牢への客人

 先程の状況について思考を重ねていく中、牢屋の外から此方に近付いてくる気配を感じた。

 誰だろうか?

 近付いてくる気配に気を取られ、ひとまず考えることをやめた。

 気配の主は足跡を精一杯に殺しているのだろう。完全には消しきれていないが、ソロリソロリと一歩一歩慎重に踏みしめているようだ。

 やがて俺がいる牢屋に辿り着き、ヒョコリとその顔を覗かせた。


「君は……確か、セイくん、で合ってるかな?」


 確か獣耳を持っていた彼女が、そう呼んでいたはずだ。

 短い金髪と紅の瞳を持つ彼は、俺の声を聞いてホッと息を吐いた。


「お兄ちゃん! 良かった。生きてたぁ……」


「まあ、元気にしてるとは言い難いけど、どうにかね。それで、セイ君はどうしてここに?」


「う、うん。あまり大きな声では言えないんだけど、お兄ちゃんをここから逃がそうと思うんだ」


 俺はセイ君の言葉に思わず首を傾げて聞き返す。


「逃がす?」


「ぼ、僕さっきね、この街の偉い人達の会議を盗み聞きしてきて、そこでお兄ちゃんのしょぐう? をどうするかって話をしてて、難しい話はよく分からなかったんだけど、お兄ちゃんのことを処刑するって話だけは理解できたから、それでここに来たんだ」


 待遇が悪いとは思っていたが、まさかそこまでとは思わなかったな。


「そりゃまた、随分と嫌われたもんだな」


 地球での人種差別のようなものなのだろうか。個人の人格などお構い無しに、人種という大きな括りで判断してしまうのは、余所者の俺から言わせれば愚の骨頂でしかないのだが、そうならざるをえない事情があるのかもしれないな。


「で、でも、僕ちゃんとサラお姉ちゃんとシルヴィアさんに言ったんだ! お兄ちゃんが僕のことを助けてくれたんだって!それなのに、お兄ちゃんは何も悪くないのに、処刑だなんてあんまりだよ……」


「だから、処刑される前に俺を助けようと……?」


「う、うん」


 俺の問いに彼はおずおずと頷いた。

 罪人が収容される牢屋への侵入など、きっと生半可な覚悟ではできないだろう。

 きっと彼は、とても優しい子なのだろう。だからこそ、こんなことができる。俺は彼を助けることができて、心の底から良かったと思った。

 なればこそ、俺はその言葉に甘える事を俺自身が許せない。

 俺は彼の言葉を受け、静かに首を横に振るった。


いつも読んでいただき、またブックマーク、評価していただき、ありがとうございます。

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