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54.推察

「うっ……」


 俺は頬に触れる冷たい感覚により意識が現実に引き戻された。


「ここは……?」


 目を覚まして一番初めに目についたのは、鉛色の鉄格子だった。

 どうやら、牢に幽閉されてしまったらしい。

 少し手を動かそうとするとじゃらりと鎖が巻き付けられており、両手一緒に縛られているため満足に動かすこともできない。両足も足首で同様の縛られ方をしているため、まるで芋虫にでもなったような気分だ。

 俺は地面に横たわったまま周囲に視線を飛ばす。

 部屋の広さは4メートル四方程度だろうか?広すぎないことは確かだ。光源は鉄格子近くの松明のみだ。全体的に薄暗く、あまり先を見通すことはできない。


 俺は体を動かそうと捻るが、脇腹が燃えるような熱を持ったことで自身の状態を思い出した。

 そうだ……。俺はあの時、少年を庇う時に負傷してしまったんだったな。

 それ自体に後悔は微塵もないが、己の未熟さが嫌になる。きっと父さんならあんな無様は晒さない。それどころか傷一つ負わずにあの状況を切り抜けるだろうな。


 体をもぞもぞと動かして腹の状態を見ると、どうやら応急手当くらいはしてもらったようだ。負傷した腹には包帯が巻かれていた。

 俺は痛みを噛み殺しながら体勢を変え、壁にその体を預けるように座った。


「しかし、どうしたもんかな……」


 思わず独白が口から漏れた。

 俺の扱いを見る限り、歓迎されているとは決して言えないだろう。鎖で両手両足を縛って牢屋にぶち込むとか相当だぞ。

 試しに魔力を流し込んで破壊してみようと試みる……が。


「魔力が、流し難い……?」


 魔力が切れているわけではないのだが、魔力を集中しようとしても霧散してしまった。

 この鎖か、牢屋自体に何か細工がされているのかもしれない。

 とは言え、使い難いというだけで強引に魔力を使うこと自体はできそうだ。だがそういう行動に出るのは自身の置かれた状況を把握してからでも遅くはないだろう。


「何でこんな事になっちゃったかね……」


 思わず弱音が溢れる。


 人を助けたはずが逆に捕まってしまうとは思いもしなかった。

 まあ、彼らの言動には真に迫るものがあったので、決して浅くない事情がその背後に隠れていたことは想像に難くない。

 俺の行動とタイミングが、致命的に噛み合わなかった結果がコレなのだろう。


 とは言え、命があるだけ儲けものと考えるべきかな。

 父さんに誓ったのに早速くたばるとか、父さんだけでなく母さんやミアに顔向けができない。

命があるのは良かったが、問題はーー


「ーー父さんの剣、壊しちゃったなぁ……」


 あれ程強固な素材で出来た剣を俺は他に知らない。例え魔力で強化していなくとも、生半可な力で壊せるような代物ではなかったはずだ。あの剣は父さんの一部、言わば神器と呼べる物なのだから。もし破壊しようとするならばそれと同等の何かをぶつけなくてはならないと思いこんでいた。

 だが現実は虚しいもので、あの黒いリザードマンに剣は砕かれた。


「それにしても、あのリザードマンは一体何だったんだ?」


 どう考えても普通の魔物ではない。俺の言葉を理解しているどころか、明確な意思を持って俺へと話しかけてきた。

 百歩譲って話せる魔物がいたとしても、アイツは明らかに話し慣れているわけではなかった。発音に違和感があったし、所々途切れながら話しかけてきた。

 元々リザードマンにある発声器官を、あの時初めて人の言語を話すために動かしたような、そんな感じだ。

 言語に関しては憶測の域を出ることはないが、不可解な点がもう一つある。


 あの魔物は首を切り落とされても尚動き出そうとした。

 頭部の脳と体を切り離したのだから、俺は勝負がついた判断し、油断してしまったのだ。

 残された身体のみであんな明確な殺意を持った行動ができるものなのか?

 まるで、あの身体を遠隔的に何者かが動かしていたような、そんな荒唐無稽な発想すら浮かんできてしまう。

 それに、アイツの発言には気になる点があったような……。



読んでいただき、またブックマーク、評価していただき、いつもありがとうございます。

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