52.護るために
「ハア!」
そこから流れるように二ノ型、散華を発動し、周囲に数十の斬撃を出現させる。
周囲に群がり続ける有象無象の首も、見えない斬撃により一瞬で斬り飛ばした。
どうやら先ほどの魔物の群れが最後だったようで、周囲に生きている魔物の気配は無くなった。
「何とかなったな……」
そう呟きながら周囲を探知すると、魔物の気配が消えるとともに、不気味な霧も跡形もなく消え去ってしまっていた。
魔力が残り僅かとなり、探知魔術に回す魔力すらもなくなってしまった。
俺は探知魔術を解除し、武器を持ってない左手を少年に差し出そうとした。
瞬間ーー
「……ぅっ」
ーー不意に、ビキリと全身が軋む様な痛みが走った。恐らく、先程の戦闘で無理をしたせいだろう。
特に、二ノ型散華に関しては、数十の斬撃を出現させることによって相当の負担がかかっていることは容易に想像できる。これは別の平行世界から可能性を引きずり出す技だが、可能性を今の時間軸に持ってくるということはすなわち、それに付随する負担や疲労も持ってくるということに他ならない。俺は同時に数十の斬撃を生み出した負担を一瞬で受けたため、肉体が耐え切れずに悲鳴を上げているのだろう。
いや、もしかしたらそれだけではないかもしれない。妙な体のだるさと熱っぽさがある。
疲労が蓄積しすぎたせいで、発熱してしまったのか?
だが今ここで少年に弱った姿は見せられない。あんな目にあったのだから、これ以上怖い思いは、させられない。
俺は何食わぬ顔で少年に再び声をかけた。
「大丈夫か? 少年」
少年は助かって安堵したのか、震えは止まっているようだった。
「う、うん。ありがとう、お兄ちゃん……」
先程は俺から逃げようとしていたが、魔物を俺が倒してことで多少は警戒心を解いてくれたらしい。
おずおずと俺が差し出した手を握り、立ち上がった。
「怪我はしてないか?」
「だ、だいじょ――っ!? お兄ちゃん!? 後ろ!」
少年が言い切る前に俺は即座に背後を振り返ると、既に腕を振りかぶった首なしリザードマンが視界に入る。
「くぅっ!」
反射的に剣の腹でその刺突を防ぐ。真正面から受け止めてしまったため、甲高い金属音が森に鳴り響く。
だけでは済まなかった。ビキッ! と不快な音を立て、父さんの剣に大きな亀裂が走った。魔力強化する間もなく咄嗟に奴の攻撃を受け止めたのだから当然の帰結だ。
上手く攻撃の勢いを防ぐことができず、俺は吹き飛ばされてしまう。
ゴロゴロと地面を転がるが、何とか体勢を立て直して敵を視認する。
「うわぁ!?」
奴は吹き飛ばした俺には一瞥もくれず、少年の命を奪おうと黒い鱗に包まれた腕を振り下ろしていた。
「くそがッ! 間に合え!」
俺は両足になけなしの魔力を集中させ地面を蹴った。
魔物と少年の間に体を滑り込ませることに成功する、がーー。
ーーここから、どうする!? 奴の攻撃を完全に防ぐことは不可能だ。だが避けてしまえば、後ろの少年の命が刈り取られてしまう。
ならばーー
「ーーぐっ! 嗚呼アァ!」
ーー奴の攻撃の軌道を可能な限り逸らし、俺の右脇腹を抉らせた。体力が万全ならば完全に逸らすこともできただろうが今の俺ではこれが精一杯だった。
脇腹を焼かれたような痛みが走り、咄嗟に口から悲鳴が漏れるが、それに構ってる暇は無い。
俺は目の前の敵の腹を思い切り蹴り上げた。
蹴りにより相手の体はくの字に折り曲がった。それにより、俺が先程斬り飛ばした首の断面が顕になる。黒い鱗で覆われてないそこは、今の俺の魔力でも唯一貫ける場所だ。
チラリと、右手の剣に目を向ける。刀身全体に亀裂が走っており、もう一度全力で振るえば壊れることは必至だった。
だけど、そうするしか、後ろの少年を守ることができない……っ。
父さん、ごめん。
「ハアアアアァァ!」
残りの魔力を全て剣に注ぎ込み、赤い光が剣を包み込む。
俺はそれを敵の首から体内に捻じり込み破壊の魔力を発現させる。
体内から破壊の魔力を流された奴は一瞬で体を爆発させた。
「ハア……ッ! ハア……ッ!」
緊張の糸が一瞬で切れ、肩で荒い息を繰り返す。
ここまですれば再び動き出すようなことはないだろう。
俺は油断なく敵の残骸を見つめるが、黒いリザードマンだったものはピクリとも動かなくなった。
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