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51.愚直な剣撃

「ただの旅人だよ。お前こそ、何のために俺達を襲う?」


「オ、前ニ用……ハ、ナ、イ。用ガアル、ノ、ハ後ロ、ノ、子ドモダ」


 俺は足元に尻もちをついている少年の姿を見る。

 歯をガタガタと打ち付け、明らかに怯えきったその様子を見て、何も思わない程腐ってはいない。


「そう言われて、子供を置いて逃げる大人がいるかっての」


 油断なく相手に向けて剣を正眼に構え、俺はきっぱりと言い放った。


「グ、ギャギャギャギャ。ソレ、ナラソレデ良、イ。供物、ガ増エルダケダ!」


 魔物は笑いながらそう言い、再び地面を疾駆しこちらへと向かってくる。

 雄叫びを上げて、地表を疾駆する敵は自身の黒光りする腕を鋭く伸ばし、こちらの心臓を穿とうと刺突を放ってきた。

 冷静に剣をその手にぶつけ、勢いを殺さずに軌道をそらす。と同時に、俺は横を通り過ぎる奴の首筋をめがけて剣をぶつける。ガァンっと再び金属音が鳴り響く。


「グル!?」


 奴は何が起こったのか分からない、とでも言いたげな声を上げて飛び退いた。

 俺が剣をぶつけた場所を触り、傷一つ付いていないことを確認すると、さっきの焦った鳴き声とは一転して、こちらを嘲るような笑みを浮かべた。

 奴はこう言っているのだろう。貴様の攻撃は俺には通じない。貴様は俺には勝てない、と。

 攻撃が通じないという自信と共に、奴はこちらに再度突進してくる。


「グルルゥ!」

「ゴブウ!」

「グル!」


 何度も、何度も周囲の魔物と共に人体の急所をめがけて攻撃を放ってくる。黒いリザードマンの攻撃は当たれば俺の命を容易く吹き飛ばすであろう。冷静にそれら全てをいなし、俺は首筋へと攻撃を叩き込み続ける。

 剣と奴の体皮が何度も衝突し、細かな火花が俺達の周囲を舞う。


「グギャギャギャギャ」


 今度は声に出して笑い声を上げながら攻撃を重ねてくる。

 何がそんなに可笑しい?

 何故お前はそこまで余裕なんだ?

 俺は目の前の暢気すぎる敵に些か呆れを覚えた。

 その驕りが、貴様の敗因だ。


「疾っ!」


 小さな吐息と共に繰り返された斬撃は、再び首筋へと直撃する。

 バキンッ! と今までとは違う音が鳴り、傷一つ付いていなかった金属肌にひびが走った。

 壊れない物など存在しない。

 俺はただただ愚直に同一箇所を攻撃し続けた。

 目には映らない損傷が、奴の体表には蓄積されていたのだ。


「ナ、二!?」


 最初に攻撃を当てられた時と同様に、後ろに引こうとするが、それを許すわけがない。お前の動きは、既に見切っている。

 俺は後退しようとして無防備になった一瞬を見逃さず、寸分違わず首筋の同じ箇所に剣撃を打ち込む。


「――――!?」


 奴はその瞳を驚愕に染め、瞳と共に頭部は地に落ちた。

 わずかな時間のズレと共に、頭以外の体も倒れる。


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