50.異常個体
「ゴブウウ!」
「グロオオオアアアア!」
「オアアアアアアアアァ!!」
ゴブリンやグリフォン、リザードマン、ワーウルフなど、数多くの魔物が味方の屍を超えて俺へと殺到してくる。
幸いなことに、伝説級の魔物はこの周囲にはいなかったらしい。
これならば何とか、勝機はある。
四方八方から俺の命を消し去ろうと魔物が襲い掛かってきた。
三ノ型――
「万華!」
次元の壁を周囲に展開し、攻撃を防ぐ――
「ゴブウウウウウ!?」
「グラ!?」
――だけではない。武技で形成した壁に、俺は自身の【破壊】という特性を持った魔力を流しこんでいた。
この壁に触れた生物は、触れた場所から俺の魔力が体内に侵入し脳神経を犯す。
端的に言えば、即死だ。
ここにいる魔物は人間や伝説級の魔物と比較して魔力の波長が単調なため、容易に魔力の同調をしてそういった行為ができる。
魔力の残り残量は3割と言ったところだが、この分なら、何の問題も無さそうだな。
そう胸を撫で下ろしかけた瞬間――
「ゴアアアアァア!」
――想定外の速度で突撃してきた個体が、俺の顔面へと鋭い刺突を放った。
「なっ!?」
俺は咄嗟に剣を間に滑り込ませ、ガァン、と鈍い金属音が周囲に伝搬した。
何だこいつは?
俺は目の前に突然現れたその魔物の姿を油断なく観察した。
一見するとリザードマンそのものだが、その鱗は黒光りする金属のようなものでできていた。
「ふっ!」
軽い吐息と共に、俺は剣を横薙ぎに振るう。剣を包む赤いオーラがその軌跡を描いては消えていく。
ガキンッと金属同士の衝突音を周囲に広げ、その衝突の反動を利用して目の前の敵と距離を取った。
「グルルルル」
父さんの剣で斬れない……?
魔力をより込めれば問題なく切れるだろうが、周囲の魔物も同時に襲ってきているこの状況では些か厳しい。
俺は黒いリザードマンを油断なく見据えながら、近づいてくる魔物を屠っていく。
この個体はどう考えても普通のリザードマンではない。突然変異、もしくは進化の類の事象が起きていることが推測できる。
先程から周囲に立ち込めているこの霧が原因なのか?
推測を重ねていく中、信じられない出来事が起きる。
「ガ、ゴ、ア……オ、オ前……ナ、何、者ダ……?」
途切れ途切れではあるが、眼前にいる黒いリザードマンは明らかに人間の言葉でこちらへ話しかけてきた。 意思疎通のできる魔物など、見たことが無い。
周囲の魔物はこの黒いリザードマンに従っているのか、攻撃の手を止めた。




