49.魔物の大群
「う、うわああああああ!?」
彼は手に持っていた草木が入っていた籠を放り出し、一目散に走りだした。
「え、何で!?」
俺は咄嗟に彼のことを追いかけ、そして腕を掴んで静止する。
自身の悪手に気付いた時にはもう遅かった。
彼は全力で泣き叫びながら、俺の手を振り払おうと、もがき始めた。
「放して! お願いだから! 僕の腕を放してよぉ!」
「わ、悪い! でも決して君をどうこうしようとしたわけじゃ――っ!?」
一瞬で満ちる異常な気配に、俺は咄嗟に口をつぐんだ。彼もまた何かを感じ取ったようで俺に捕まった時以上にカタカタと体を震わせ始めた。
「な、何だこれは? 霧? いや、それにしては黒くて、禍々しい……」
だが決して、ただの煙ではない。
この禍々しさは、何だ? 魔力に似ている気がするが、完全には同一とは言えないこの感覚は一体……?
俺は即座に立ち上がり、周囲を見回す。
周囲を立ち込める黒い霧は徐々に黒くなり、視界を塞いでいく。
「くっ」
どうすれば良い?
このままここで立ち往生を続けるのは危険だと、俺の中で警告が発せられている。
近くにいる少年を連れて、その場から離脱しようとしたその時――
「なっ!?」
周囲に異常な数の魔物の反応を探知した。
「一体どこから現れたんだ!?」
つい先刻まで何も存在していなかった空間に突如、異様な数の魔物が次々と出現したのだ。
その数は、百……いや、二百はくだらないだろう。
とにかくこの場にいては魔物の大群に飲み込まれてしまう。
「あ、ああぁぁぁああ……」
少年も魔物の気配を感じ取っているのか、腰が抜けてへたり込んでしまっていた。
俺は彼を小脇に抱えてこの場から離脱しようと全身に魔力を巡らせた。
刹那――
「――ッ!?」
霧の中から、突如狼型の魔物が襲い掛かってきた。確か、ワーウルフと言う好戦的な魔物だったはずだ。
俺に向けて振るわれた純粋な殺意の塊である爪を、俺は何とか剣で受け止めることに成功する。
だが、咄嗟に受け止めてしまったがために周囲に甲高い金属音が鳴り響いた。
「クソッ!」
後悔したがもう遅い。先ほどの音で、俺は自らの居場所を周囲の魔物に教えてしまった。
もうこいつらと闘うしか、俺がこの場を生き延びる術はない。
俺は受け止めた爪を上へと弾き飛ばす。少年を再び地面に下ろし、胴ががら空きになったワーウルフを視界に収めながら、俺は剣を鞘に納める。
剣を鞘に納めた瞬間、俺は全力で魔力を剣に注ぎ込む。
一ノ型――
「斬華!」
気合と共に横に一閃する。
赤い魔力の斬撃が地面と水平に滑空して周囲の木々と共に魔物を切り裂いていく。
耳を覆いたくなるような断末魔の叫びが周囲に木霊するが、まだ全体の半分も倒せてはいないだろう。
ポイント、感想をいただけますと幸いです。




