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44.忘却していた約束

 奴の、無機質な声が俺の耳に伝播する。


【魂の回収を実行する】


「――っ!? ああァアアぁ!?」


「ああアアあぁ! 何、こ、れ……ッ!?」


 母さんとミアが突然胸を抱え、呻きだした。


「母さん!? ミア!?」


 俺は集中を乱し、奴との同調を切ってしまう。


「しまっ――!」


 自身の愚かさを後悔した時にはもう遅く、少女は既に俺の懐に体を潜り込ませていた。

 己の腹に、異常な量の魔力が込められた拳が迫りくる。


【しばらく大人しくしていてもらおうか】

「――――ッ!!」


 障壁を張っていた母さんが戦闘不能になっていたため、俺はその攻撃を為すすべなく受けてしまう。

 ドゴンッ! と人間がおよそ受けて良いとは考えられない轟音を立て、俺は地面へと叩きつけられた。

 腹部に魔力を集中していたため風穴が空きこそしなかったが、四肢が衝撃でどこかへ吹き飛んでいく。

 口の中が大量の血液で埋め尽くされ、悲鳴すら上げられなかった。

 ゴハッ、と咳と共に血が空中へと排出される。


「が……あぅ…………」


 まともに発声すらできない。

 最悪だ。最悪のタイミングで発動されてしまった。

 少女は殴りつけた俺の方へと冷たい一瞥をくれながら言う。


【死ぬ前に最低限の治療をしてやるから、貴様はそこで黙って見ていろ】


「ああああ…………っ! 体、が、裂、けそう……っ!」

「お、にい、ちゃ……っ!」


 二人は今もまだ、少女の攻撃に苦しんでいた。

 村人と違い、命が尽きるまでに時間がかかっているのは、彼女達が神であることに関係しているのだろうか。

 いや、今はそんなことを考えている場合ではない。

 現状、俺に少女の魂を回収する攻撃が及んでいないことが重要だ。

 魂を回収されないのであれば、戦闘で倒せる可能性がある

 問題は――


「ぐ、うう……っ!」


 ――俺の四肢がちぎれ、どこかへ飛ばされてしまったがために、身動きが取れなくなってしまったことだ。

 ふざけるな……っ!

 ここまで来て、こんな、ふざけた化け物にあの二人を殺させてたまるか!

 考えろ……。

 今の俺に何ができる?

 今ここで、あの二人を助けられなければ……、俺は……っ!

 動けない状況で、全力で脳を回転させるが、体の至る所から出血が起こり、脳へと供給される血液量が急速に減少していく。

 思考が鈍り、正常な意識が徐々に闇に落ちていくような感覚に陥った。


 これは、俺への罰なのだろうか?

 人間とも言えない空っぽだった俺が、分不相応な物を手に入れてしまったことがいけなかったのか。

 あの時、ゴブリンに殺されていれば、こんなことにはならなかったのではないか?

 いや、そもそも俺がこの世に生まれてきたこと自体が………………。


 意識が…………消える……。

 意識が闇の底に消えかけたその時――


『移住した先で、また会おうね、惺恢君』


 ――突然、いつかの記憶がフラッシュバックした。

 白銀色の髪をした少女の言葉と、涙をこらえるような表情を思い出して、俺は――――。

 そうだ……。

 こんな場所で、こんなところで、死んでたまるか!

 生きて必ず! 君に会いに行くまで、俺は死ぬわけにはいかないんだ……っ!


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