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42.異質な怪物

 未知の技を使う相手だと分かっている以上、相手の出方をうかがう気など毛頭ない。


「ミアと母さんは後方支援を頼む。俺が前衛として注意を引き付ける」


「分かった」


「分かったわ、気を付けてね、セカイ」


 勿論だ。油断など、微塵もなかった。

 ミアは手持ちのショートソードとナイフに魔力を込め、眼前へと見据えた敵へ冷静に構えていた。

 母さんは、特に武器を持っているわけではないが、魔力を体内で高め、いつでも魔術を放てるように準備している。

 そんな俺達を前に、奴は日本語でとんでもないことを口にした。


【捕獲対象の存在を確認。これより魂の回収を試みる】


 俺は本気で自分の耳を疑ってしまった。

 魂の回収だと!? 

 本当にそんなことが可能なのか?

 疑心が浮かんだ刹那――


「――ッ!?」


 ――後方に逃げていた村人の皆が糸の切れた人形の様に倒れ伏した。

 彼らは唐突に、何の前触れもなく、その生命活動を停止していた。


「き、貴様アアアアアアアアアア!?」


 視界が真っ赤に染まったかのような錯覚を覚える程の激情が己の思考を塗りつぶした。

 咆哮と共に、目の前の敵に斬りかかる。

 二ノ型、散華(さんか)

 奴の頸部を狙い、二つの斬撃が左右から襲い掛かる。

 だが奴は俺の剣筋を退屈そうに見ながら――


【――私をからかっているのか?】


 ――軽く後方にステップして首への斬撃を避け、その腕を軽く横薙ぎに振るった。

 同時に奴の腕からは途轍もない量の魔力が放出され、その進行線上にあった物質は一切の区別なく一瞬で蒸発した。

 その全てを消し去ろうとするほどに高密度の魔力は俺に迫り、それまでに消してきた全ての物と同様に俺も消そうと迫る。

 俺はせめてもの抵抗として、全身に魔力を込め、来るべき衝撃に身を固めたが――


「……?」


 数瞬待っても、俺を襲うはずの衝撃は到来しなかった。

 恐る恐る目を開けると、そこには母さんが魔力を固めて作った障壁が存在していた。

 透明な障壁の向こう側で、奴は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。


【ちっ……。やはり神クラスとなるとこの程度じゃ無理か】


 そう言うと同時に奴の体内にある魔力が少しずつ、密度を濃くしていくのを感じた。

 状況から考えた推論に過ぎないが、奴の先程の攻撃は母さん達を対象にしたものだったのかも知れない。しかし、神である母さん達の魂は想像以上に大きく、奴も吸収する準備が必要なのかもしれない。何故俺が狙われなかったのかは分からないが、今は考えなくてよいだろう。

 今俺がすべきことは、攻撃を重ねてそれを阻止すること。どこまで準備に時間がかかるかは分からないが、発動される前に殺す。


「ハアア!」


 気合を上げ、俺は奴の眼前へと踏み込み、斬りかかる。

 極限まで魔力で強化された肉体は、俺を一瞬で人形の元まで移動させた。


「ふっ!」


 渾身の力を込めて横薙ぎに振るわれた俺の一撃は、肌を逆なでするような甲高い音を鳴らして弾かれる。


「なっ!?」


 攻撃が当たる瞬間、奴はその身に透明な魔力の鎧を纏った。

 打ち付けた感覚的に、無理に打ちすぎてはこちらの剣が折れてしまうことを理解した。  攻撃を加えた俺のことを、奴は何故か怒りに満ちた表情で睨みつけてきた。


【その程度の力しか持たない分際で、成功作だと……? ふざけるな!!】


「――っ!」


 流石に攻撃してくる敵対者に対しては無反応とはいかないのか、奴は鎧に包まれた手で俺の剣を握り、そして剣を引いて俺の体を引き寄せた。迫る俺の腹へと向けて、少女は鋭い蹴りを放ってきた。

 俺の魔力で強化された剣を受け止める硬度を誇る鎧を攻撃に回せばどうなるかなど、容易に理解することができる。


「くっ!」

 

 咄嗟に剣を手放そうとするが、今度は彼女が剣を掴んだのとは逆の手が俺の肩をギシリと捉えた。


【何故お前なんだ……。何故私では駄目なのだ!?】


「ぐ……ぬっ」


 肩が軋むほどの強さで握られ、最早回避が不可能であることを悟る。

 俺は来たるべき衝撃に備え、魔力を全力で全身に流し込むが、彼女の足は俺へと直撃する寸前に視認できない壁に衝突し、銅鐸のごとき轟音を鳴らして逸れた。

 母さんの障壁魔術だろう。

 ありがとう、母さん。

 俺は心の中でお礼を言い、その間に奴の腹を蹴って後方へと下がる。

 俺は先程剣を奴の体表面と打ち合わせたと同時に、俺は奴が周囲に探知魔術を放っていることを感じ取った。

 やはりこいつも、魔術を使えるのか……っ!

 しかも、ただ扱っているわけではない。その精度は明らかに達人と言っても良い域に達していた。

 現にこうして立っているだけでは、奴が放っている探知魔術の魔力を、ほんの違和感がある程度にしか感じ取ることができない。

 だが、その違和感があれば十分だ。


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