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28.VSエレム②

吹き飛んだエレムさんは空中で体制を立て直し、足を地面に付けることでブレーキをかけた。


「今のは特に良い攻撃だった。抑えたつもりだったけど、左腕が少し痺れてしまったな」


 そう言って左腕を動かし、少し顔をしかめているエレムさん。


「今のは行けると思ったんですけどね」


 思っていた以上にダメージが通っておらず、俺は思わず口を噛みしめる。

 あれでも大したダメージを与えられないなら、どうすればいいのか。

 同じ手は間違いなく通じない。


「考えている暇があるのかな?」


 エレムさんはそう言って、初めてこちらへと向かってくる。

 その動きの速度は、俺と大差ない。

 多分先ほどまでの俺の速度に合わせてくれているのだろう。


「しっ!」


 軽い吐息と共に剣を振るっていく、エレムさんの言う通り、今は考えている暇はない。剣を間隙無く振るい、少しでも彼に攻撃の隙を与えまいとしていた。


「悪くない……、決して悪くないんだ……、けど――」


「ぐっ!」


 俺は先程と同様に、認識外となったエレムさんの足払いを受けて地面へと倒される。


「――それじゃあ、駄目だ」


 地面に倒れ空を見上げたまま、先ほどの瞬間を思い浮かべる。

 それにより推測が確信に変わった。


「さ、あと1本で僕の勝ちだな」


 そう言ってエレムさんは再び俺の手を引いて起こす。

 俺は立ち上がり、彼の目を見据えて考えた答えを言う。


「認識阻害、ですね」


 俺の言葉にエレムさんは満足そうに笑った。


「ああ、その通りだよ、セカイ。俺は君が目を瞑り視界が塞がれている瞬間に認識阻害を行使している。そうして君の探知外に逃れているんだ」


 目を瞑っていても探知魔術があれば周囲の様子を把握することができる。その俺の考えを逆手に取られたみたいだ。

 また、あれだけ早く動いている中で一瞬の隙を正確に突けるのだから、俺とエレムさんには隔絶された実力差があることは理解できる。

 実力差は身に染みたけど――、


「もう1本、お願いします」


 ――このまま負けるのも癪だ。


「勿論だよ、セカイ」


 そう言って心底嬉しそうなエレムさんの顔を見て、彼も戦うことが好きな同類だと直感した。

 3本目、再び硬貨が地に墜ち、今度は二人同時に接近する。


「今度はこちらから行くよ」


 そう言ってエレムさんは俺の攻撃を避け、剣筋を逸らしながら、拳や足を放ってくる。


「ぐ、うぅっ!」


 俺は呻きながらも、決して目を瞑らないように意識し、彼の攻撃を正確に探知して避け続ける。

 右の掌が俺の視界を塞ごうと顔面へと迫る。

 視界が塞がれた瞬間、認識阻害がされることくらい分かっている。


「くっ!」


 右の掌が顔の横を通り過ぎるように避け、彼の懐へ潜り込む。


「はあっ!」


 気合と共に、剣を横薙ぎに振るおうと試みる。


「――ッ!?」


 だが剣を振るうことは叶わない。

 エレムさんは俺が剣を振るう瞬間、剣を踏みつけ、その動きを制限した。


「――ッ!」


 動揺した一瞬の隙を突かれ、胸倉を掴まれる。


「ふっ!」


 そのまま空中へと投げ出され、俺の視界の上下が反転する。

 エレムさんはそれを逃がさないとばかりに俺の落下地点へと駆け出した。

 今だ!

 俺はこちらへと走ってくるエレムさん目掛けて、持っていた剣を力の限り投擲する。


「!」


 エレムさんはそれを躱そうと体を捻り、横を通り過ぎる剣の柄の握り装備する。

 俺はその間に地面に迫り、両手を地面に付けて魔力を全力で流し込む。


「ああああああああ!」


 ボウッ!

 と赤い砂埃が立ち昇り、俺とエレムさんの視界が物理的に塞がれる。

 俺はその間に体制を立て直し、エレムさんへと疾駆する。


「――ッ!」


 エレムさんが近づいてくる俺に向けて剣を振るうが、俺はエレムさんと同様に剣の腹に指を添えて僅かに逸らす。


「くっ!?」


 僅かに動揺している隙を見逃さず、俺はエレムさんの首元で手刀を寸止めする。

 やがて砂埃が晴れ、俺達の姿が村人からも見えるようになる。


「おい……、どっちが勝ったんだ?」

「またエレムさんに決まってるでしょ」

「いや、最後に何が起こったか俺らには分からないからな」


 村人たちに映ったのは、両手を挙げたエレムさんの首元に手刀を構える俺の姿。


「まいった。……僕の負けだ」


 エレムさんの宣言と同時に、村人たちがわっと歓声を挙げた。

 俺は村の男達にあっという間に囲まれ、胴上げをされる。


「さすが不細工代表だけあるぜ!」

「ああ、不細工な面は伊達じゃねーな!」

「俺達は違うけど、セカイは本当に不細工だな!」


 おい貴様ら今すぐ俺を地面に下ろせ。今すぐ処刑してやる。つーか全部悪口じゃねーか。

 因みに村の女性陣は皆エレムさんの方へ向かい、タオルだの果物だのを差し入れている。

 あれ?

 俺って今勝ったよな?

 何やら納得のいかない気持ちを抱えながら、俺はしばらく宙に放り投げられていた。


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