25.日々の鍛錬③
「少し、筋力も鍛えておくか」
俺は強化魔術を解除し、傍にある木の枝まで跳躍した。
木の枝をパシンと片手で掴み、そのまま懸垂を開始する。
片手に付き100回をワンセットとし、それを3セット両腕で行う。
強化魔術による強化上限は元の身体能力に依存している面があるため、このように日々鍛錬をしていないとより良い強化を施すことができない。
懸垂が終わった後は地面に降り、それぞれの指一本のみで30回ずつ腕立て伏せを行った。
筋力トレーニングに夢中になっていると、日が自身の真上まで昇っていた。
「お、いつの間にか村の中に荷台がある」
俺は村の中に荷台があることに気が付き、行商人が来ていることに気が付いた。
「よし、それじゃ行くか」
地面に置いていた荷物を背負い直し、俺は森を経由して村まで行くことにする。
広場まで戻って山道を進むのは些か時間がかかりすぎるため、先ほど同様に身体強化を施して地面に触れないように森の中を進んでいく。
少しの間そのまま森を進み、俺は最後の木の枝を思い切り蹴ってゴズさんの目の前にズダンと音を鳴らして着地した。
「うお! セカイ、お前いきなり上から降ってくんの止めろよ、ビビるわ!」
「すいません。鍛錬にもなりますし、なにより楽なもので」
俺の言葉にゴズさんはやや呆れたような表情になる。
「なんか、日増しに人間止めていくなお前は」
失礼な。俺なんか可愛い方だぞ、多分。
「ま、いいや。それより行商人が来てるぞ。それが目当てだろ?」
「はい。それじゃあ失礼しますね。……あ、今度酒飲みましょう。俺成人したんで」
この世界では15歳から成人と判断されるため、飲酒もそこから可能となる。
「お、もう15歳になったのか。昔はあんなにちっこかったのに」
感慨深そうに頷いているゴズさんになんだかこそばゆい気持ちになる。
村の人の中でもゴズさんやバーナードさんには良くしてもらっている。
この二人は村でも数少ない良心だと俺は勝手に思っていた。
「今度こそ、失礼します」
軽く会釈して彼の横を通り過ぎる。
「おう! 気を付けて行けよ」
「はい。ありがとうございます」
村の中を進んでいくと、ちょうど中央広場の位置に荷台と蒼髪の青年、そしてそれらを取り囲む人々の姿が見えた。




