23.日々の鍛錬①
食事の後、俺はお馴染みの広場で鍛錬をしていた。
空を見上げ、太陽の眩しさに目を細める。
今日も良い天気だ。
ここ最近晴ればかりが続いているため、地面の砂が風でよく舞っていた。
俺は行商人が来るまでの時間に鍛錬を終わらせてしまおうとしていた。
「すぅー、ふぅー」
深呼吸をして精神を落ち着かせ、魔力を一気に広げる。
より薄く、より細やかに周囲に伝搬させていく。
感覚が村周辺の森まで広がっていくことを感じる。
まず丸い旗は……、見つけた。
次は四角い旗だ。
……これも見つけた。
次は――。
俺は形の違う旗を村周辺の森の中に設置し、それを探知魔術で見つけるという訓練をしていた。
数分後、十数個の旗の位置を問題なく特定し終えた。
「よし、探知魔術は特に問題無い」
俺はナイフを足のホルダーから取り出し、魔力を流し込んでいく。
ナイフには俺から発せられる魔力の道筋が幾本も流れ、やがてその刀身を赤く染め上げた。
軽くそれを振るい、強化魔術に綻びが無いかを確認していく。
「魔力は正常に循環しているな」
そう呟きながら再び探知魔術を行い、俺はある生物を発見する。
「今日の的はあれで良いか」
ナイフを持った腕を後ろへ振りかぶり、勢いよく投擲した。
ビュッ! と軽い風切り音と共にナイフは飛んでいき、すぐにその姿は目視できなくなった。
「投擲も問題無し、と」
探知魔術でナイフが目標に当たったことを確認する。
「それじゃ、回収しに行きますか」
身体強化を施し、荷物を背負って広場の傍にある森へと侵入していく。
地面を蹴らないように進もう。
一人で課題を設定し、木の枝に掴まったり木の側面を蹴ったりして足を地面に付けずに森を進んでいく。
動作ごとに魔力を移動させ、最小限の魔力で最大限の効果を得られるように進む。
初めの頃はこれが上手くいかず、今のように進むことなんて夢のまた夢だったのだが……。
少しは俺も成長しているみたいだな。
目標の場所へと辿り着くと、そこには首をナイフで貫かれた兎の姿が見えた。
「今日の晩飯に使えるかな?」
取りあえず血抜きをしておこう。
俺は兎に刺さっているナイフを引き抜き、血抜きを行う。
血抜きをしていると、後ろからゴブリンが近づいてくることを探知した。
「…………」
ゴブリンは息を殺し、こちらのすぐ真後ろまで迫ると、何も言わずにこちらへ刃を振り下ろしてきた。
今の俺には全部見えている。
血抜きに使用していたナイフを、腋からゴブリンの頭部めがけて投擲する。
「G……ッ!」
強化魔術を施されたナイフはゴブリンの頭など抵抗にもならないと言わんばかりに通り過ぎ、背後の樹木を何本も貫いた先でようやく停止した。
俺はナイフを魔力で引き寄せ、その手に呼び戻してホルダーに再び差し込んだ。
「後で洗っておかないと……」
ゴブリンと言う魔物はこの世界で最も弱い魔物であることは有名だが、同時に不潔な魔物としても知られている。
奴らの糞や尿はそれ自体が悪臭を放ち、弱い毒にもなる。時にはそれを武器に塗りたくる個体もいる。
この臭いが問題で、ゴブリンを討伐した後は武器を清潔にしておかなければ他の魔物に見つかる危険性が増してしまうのだ。
「行商人は……、まだ来ていないみたいだな」
俺は探知魔術で村の様子を探るが、荷台が村に入っていないことが確認できたため、まだ行商人が来ていないと判断した。
「それじゃ、次だ」




