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22.この世界での日常

 村にたどり着く少し前に、ミアは少し前に出るね、と宣言してから俺の前に出てきた。

 村の人にあまり近しい様子を見せないために、彼女なりに考えてくれているのだろう。

 4年ほど前のあの出来事は、俺にとっても彼女にとってもトラウマのようなものとなっていた。

 俺とミアが村の門から入ると、いつも通りの村の家屋や畑が目に入った。

 皆が各々昼間の仕事に励んでいたが、ミアの姿を見つけてすぐに駆け寄ってきた。


「ミア様! こんにちは!」

「ミア様、いつも魔物を倒してくださりありがとうございます!」

「ミア様、うちで作っている野菜です、よろしければ食べてください」


 あっという間にミアは囲まれてしまい、身動きが取れない状態となってしまっていた。

 村人の中には俺に話しかけてくる人もいる。何故か主に男だが。


「おいセカイ。お前ミア様の足を引っ張ってるんじゃねーだろーなあ?」


「ミア様のお役に立てるよう、出来る限りのお力添えはさせていただいています」


 彼は俺の答えに満足したのか、それなら良いけどよ、と言って去っていった。

 他の男も俺に近づいて来て、


「ミア様に何かあったらこの村の全員が敵になると思えよ」


 と優しい忠告をしてくれた。

 わざわざ教えてくれるなんて……。

 その優しさに涙が溢れそうだ。

 ここで5年間も住んでいるのだから、流石に俺も分かっていることがある。

 こいつら本気で言ってやがるから質が悪い。

 仮に、ミアがかすり傷でもつけて帰ってこようものなら、村に入った瞬間俺の処刑が開始されることを確信している。

 その時のために逃げる実力は付けてきたつもりだ。


「ま、冗談はこのくらいにして」


 冗談じゃねーことは分かってんだぞ、白々しい。


「あと数日もすれば行商人が来るはずだから、何か売りたい魔物の素材でもあれば持って来いよ」


「ああ、そう言えばそろそろ来る頃ですか」


 何度か行商人とは顔を合わせたことがあるが、何というか、蒼髪の爽やかな好青年という他ないような人だ。

 ああいうタイプはきっと女性にモテると思う。将来彼の態度を真似してみよう。

 もしかしたら俺も村の女性にモテるようになるかもしれない。

 因みに村に年の近い女性は何人かいるが、既に相手がいたり、仮にいない女性でも俺に話しかけるような人はいない。

 ぶっちゃけ俺は自分でもびっくりするぐらいモテない。

 顔か? 顔が悪いのか?


「おいどうしたセカイ? 不細工な顔が見るに堪えないことになってるぞ」


 喧嘩売ってんのか貴様。


「喧嘩売ってんのか貴様」


「え?」


 おっとつい本音が。


「いえ。行商人の話でしたよね。ジーク様にも何か素材がないか聞いておきますね」


 失礼します、と言って俺は彼の傍を後にした。

 ミアも帰ろうとしている俺に気が付いたようで、村人達を仕事へと返し、俺の少し前を歩いて家へと向かった。


◇◇◇◇


 翌日、いつもよりも少しだけ早く目が覚めた俺は、特にすることもないのでダイニングルームへと向かった。


「ん? 今朝は少し早いんだな、セカイ」


 ダイニングに入ると、父さんが熱いお茶はズズズとすすっていた。


「お早う、セカイ」


 母さんは俺へと挨拶し、水と風の魔晶石を利用した冷蔵庫から野菜や肉を取り出していた。


「お早う、父さん、母さん」


 俺は父さんの向かいへと腰かけ、軽くあくびをした。

 野菜をトントンと包丁で切る音が静かにダイニングに響き、のんびりとした時間が流れる中、我が家の姫様が目を覚ましてきた。


「おはよ~~」


 まだ眠いのか目をこすっている。

 窓から洩れる朝日を浴びて透き通るような輝きを放つ白金色の髪を背中まで伸ばした彼女は、この5年間で女性らしさが増してきた。年は今年で12歳だから、ちょうど成長期に当たるはずだ。

 俺達はミアへと挨拶を返し、ミアも俺の隣へと腰かける。


「眠そうだな、ミア」


「ん~~、昨日の戦闘の疲れが溜まってるのかも……」


 一歩間違えば命を落とすかもしれないのだから、無理もない。

 いざとなれば俺の命に代えても――。

 ミアと話していて、俺は昨日のことを思い出した。


「そう言えば、例年通りならそろそろ行商人が来る頃らしいから、俺が倒した魔物の素材も売ってみて良いかな」


「ああ、良いんじゃないか。ついでに俺が倒した魔物の素材も売っておいてくれ」


「分かった。後で袋に纏めておいてくれれば一緒に持って行くよ」


 ジュー、と鉄製のフライパンで野菜や肉を炒めている音が響いた。

 火の魔晶石を使ったコンロからは煌々と赤い火が噴出し、フライパンを熱している。

 冷蔵庫やコンロ、部屋を照らす明かりなどは行商人が持ってくる商品である。もしも行商人がこの村まで足を運んでくれなかったのならば、この村の流通は閉鎖的なものとなり、より不便な生活を余儀なくされていたと思う。

 少しして母さんが料理を作り終え、村の新鮮な野菜と家畜の肉を炒めた料理が机に置かれる。

 料理を口にしながら、父さんが俺に話しかけてきた。


「セカイ、今日はお前の誕生日だな」


「ん? ああ、そう言えばそうだった」


 本当は覚えていたが、俺はわざと今思い出した、という反応をした。


「セカイ、誕生日おめでとう」


「おめでと~~」


 母さんとミアが俺に祝福の言葉をかけてくるが、その表情は少し硬い。

 その理由を、俺は知っている。

 部屋の空気がやや硬い中、父さんは話を続けた。


「今日の夜、お前に話したいことがある」


 父さんはそう言って、食事を口の中に勢いよく入れてすぐに席を立った。


「うん。分かってるよ……」


 俺は部屋から出ていく父さんの背中へ向け、ポツリと呟いた。


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