21.VSグリフォン
この世界に来てから5年が経過し、俺は15歳の誕生日を迎えようとしていた。
勿論生まれた日など覚えていないため、俺が転生した日を誕生日と仮定した話だ。
「ミア! そっちに行ったぞ!」
「任せて!」
俺は今、ミアと共に父さんの魔物狩りの手伝いをしていた。
村付近の森を抜けた場所にある平原で、俺達はグリフォンと対峙している。
ミアはグリフォンに向けて、2本のナイフを投擲する。
白金色の軌跡を描くそれらは、空飛ぶグリフォンの眼球を潰そうと迫った。
「ゴガアアアア!」
だがそのナイフはグリフォンの放つ風魔術の壁により軌道を逸らされ、地へと墜ちる。
手持ちの武器を投擲したことによって一瞬無防備になったミアに向けて、グリフォンは空中を疾駆する。
「させるか!」
俺はミアの前に瞬時に移動し、迫りくるグリフォンへと赤く光る剣を振るった。
グリフォンの強化された脚爪と同様に強化された剣が互いに弾き合い、ゴウッ、と衝撃波が周囲に伝搬する。
俺とミアはその衝撃波に逆らうことなく、グリフォンから距離を取った。
「グルルルル……ッ」
グリフォンもまた、こちらの出方を窺うように地へと降り立ち、低いうなり声をあげていた。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
この大丈夫とは俺の心配なのか、俺の武器の心配なのか、恐らく後者であると思われる。
俺の剣は先程の一合のみで刀身にヒビが入ってしまっていた。
本来武具の素材としてはそれなりに優秀なグリフォンの爪とまともにぶつかり合ったのだから、当然の帰結と言える。
「大丈夫でもない。持って一振りだ」
武器も損傷した状況で、このまま戦い続けることは一見すれば無謀なのかもしれない。
だが、ここで退くという選択肢は俺達にはなかった。
ここで俺達が退いてしまえば、このグリフォンが村を襲うことなど容易に想像できる。自分たちの拠点が潰されると分かっていて、退くやつはいない。
何より、そんな簡単に退かせてくれるような敵であるならば、そもそも苦労しない。
「だが、このグリフォンを倒すだけなら、むしろ剣が砕けた方が都合がいい」
そんな俺の言葉に、ミアは即座に察しがついたようで、
「成程ね。了解、陽動は私に任せて」
と言った。
頼もしすぎて思わず笑みがこぼれるのを俺は隠そうともしなかった。
「それじゃあ、任せた」
そう言うと同時に、俺は地面を駆け抜ける。
「ミア!」
俺の呼びかけよりも早く、ミアは自身の最後の武装である。ショートソード一本を投擲する。
俺の背後から飛び出したショートソードを、グリフォンは軽いサイドステップで避け、こちらへ狙いを定め突進してくる。
「!?」
奴が驚いた顔をしているが、もう遅い。
つい先刻ミアが投擲していたナイフ2本が、地面から飛び出てグリフォンの両側から迫る。ミアの魔力が流されたそれらのナイフは、彼女の意識と連動して空中を疾走する。
魔力で強化されたナイフをくらえば、ただでは済まないことは奴も分かっているだろう。
「グロアアアアァ!」
必中不可避のタイミングで放たれていたそれらを、奴は風魔術で強引に逸らす。
そうだ、それで良い。
「はああ!」
俺は奴の開かれた口腔へ向け、全力で刺突を放った。
ガンッ、と鈍い音をたて、グリフォンの口腔内部に俺は剣を深く突き立てる。
だが、このくらいでは奴は死なない。
「――!? ゴルッ……!!」
腕が噛み千切られる前に引き抜き、地面を強く蹴り距離を取った。
「ゴ……ッ! ガ……ッ!」
口腔内に異物を残されたグリフォンは、満足に鳴くことも叶わないようだった。
これで奴の風魔術も封じることができた。
「グル……」
グリフォンはこれ以上の戦闘はまずいとばかりに、ばさりと翼をはためかせて空へと急上昇する。
だがそれを許すはずがない。
「砕けろ」
俺は口腔内の剣の魔力に『破壊』の魔力特性を発現させ、粉々に粉砕した。
本来であればこうもすぐに砕けないが、ヒビが入っていたこともあり容易に粉砕された。
「――――!?」
断末魔の叫びを発することなく、グリフォンは地に墜ちた。
ドスン、と大きな音と共に風圧が周囲へ広がる。
奴は頭部の内側から剣の破片が突き出ており、即死だったことは一目瞭然だった。
ミアは地面に落ちているナイフを魔力で引き寄せて、回収しながら近づいてきた。
「お疲れ様、お兄ちゃん」
「ああ、ミアもな」
俺達は互いの拳をこつんとぶつけ、互いを称賛し合った。
「お父さんの方は……、今終わったみたいだね」
「ああ、そうみたいだな」
ここからもう少し先のところで父さんは戦闘していたようだ。
こちらからは母さんの張った結界の影響で何も見えてはいないが、魔力は感知することができる。
グリフォンの数千倍の魔力を持った気配が伝搬していたことから、相変わらずとんでもない魔物と戦っているようだ。
正直父さんの背中が未だに見えていない。
「しかしまあこんなにボロボロにしちゃって。売れるところが少なくなるじゃん」
ミアは討伐したグリフォンの惨状を見ながらそう言ってきた。
「し、仕方ないだろ! 倒すので精一杯だったんだから!」
「まあお兄ちゃん、弱っちいからなぁ~。私が守ってあげないとね」
そう言ってニヒヒと笑う彼女は、年相応の可愛らしさが垣間見えた。
だが聞き捨てならないな。
俺が弱いだと?
父さんに比べれば俺の実力なんてミジンコみたいなものかもしれないが、流石にミアに負けるわけにはいかない。兄として。
「よし! そこまで言うなら今度俺と模擬戦しろよ!」
ぎったんぎったんに負かしてやる。
「私は別に良いけど……。お兄ちゃん、自信なくしちゃうかもよ?」
ま、負けないし、多分、恐らく……。
俺はグリフォンの爪の部分を回収し、ミアとくだらない会話を続けながら村へと歩いた。
ブックマークや評価をしていただけると、作者のやる気と更新速度が上がります




