19.想像を現実へ昇華する①
「「ふっ!」」
この世界に来てから2年が経とうといういうある日の早朝、俺はいつものように木刀を振るっていた。
横には、父さんが俺と同じように鍛錬をしている。
鍛錬をしながらも、俺は頭の中で2年前の記憶を思い出していた。あの時俺は、ミアと喧嘩し、母さんに真実を問い質そうとしたが結局、何も聞くことはできなかった。
「「ふっ!」」
二人で一緒に上から下への切り下げを、黙々と繰り返していく。
ここには、魔力強化無しでは木刀の重さに重心を振り回されていたかつての俺はいない。
一本の流れる線を描くように、一切のぶれも存在しない一振りを、当たり前のようにこなしている俺がいた。
確実に、2年前よりも成長していることは確実だろう。
だがそれでも――
「――父さんには、到底及んでいない……」
成長したからこそ、その距離の遠さを痛感していた。
ただの振り下ろし一つとっても、俺と父さんの間には隔絶した差があることが分かる。
だが、何が違うのかが分からない。
「ん? どうした急に?」
俺の呟きが耳に入った父さんは、素振りの手を止めてこちらへ問いかけてきた。
「いや、ただの振り下ろしなのに、2年続けても俺と父さんのには大きな差がある。でも、それが何なのか分からないんだ……。ねえ父さん、俺の剣には、一体何が足りないの?」
それを聞いた父さんは顎に手を当て、少し考えだした。
俺は父さんが何と答えるのかを、少し心臓を大きく拍動させながら待つ。
「そうだな。強いて言うなら、想像力……かな」
「想像力?」
どういう意味だろうか?
「分からないか?」
「ごめん。正直、全くピンと来てない……」
剣の腕の話をしているはずなのに、どうして想像力の話なんて出てくるのだろうか?
「そうだな。それなら、分かりやすく見せたほうが早いか。セカイ、ちょっと着いてこい」
そう言って彼は、広場の傍にある一本の木に歩み寄っていった。
俺は黙って彼の後を着いていくが、今から何が行われるのか。皆目見当がつかなかった。
「今から、この木刀でこの大木を真っ二つにしろって言ったら、お前はできるか?」
「は? いや、普通に考えて無理だと思うけど。 あ、いや、でも強引に叩き割ることなら――」
「――そうじゃない。叩き割るな、斬れ」
俺の言葉を食い気味に遮り、父さんはそう言った。
いや、無理なものは無理だろう。だって木刀には斬るための刃がついていない。魔力強化で硬度を上げたとしても、精々木を強引に叩き折ることしかできないだろう。
俺は思わずそう思い、言い返そうとしたがぐっとその言葉を飲み込んだ。
父さんが嘘を吐かないということを、この二年間で良く知っていたのだから。
彼が可能だと言えば、それは可能なのだ。
「分かった」
俺は一本の木の前に立ち、木刀を正眼に構えた。
すー、と息をゆっくりと吸い、魔力を木刀に流し込んで強化していく。自身の魔力特性を抑えることは、この二年で完璧に習得することができた。
木刀と同様に、己の肉体にも魔力を走らせる。
体がまるで羽になったかのような軽さに変化したところで、俺は目の前の大木に視線を移した。
太さは、成人男性二人分はあるだろうこの木を、父さんは斬れという。
正直、斬れる気はしないが、やるしかない。
「ハアアアッ!」
掛け声とともに、俺は全身全霊を以ってその木に木刀を振り下ろした。
バキィ! と鈍い音共に、木刀が大樹にめり込む。
正直、予想通りの結果過ぎて特段驚きはない。
「うん。まあ、こうなるよね」
思わずそう呟く。
当たり前の結果だろう。木刀で大樹は斬れないという、至極当然な結果だ。父さんにはできるのかもしれないが、今の俺では絶対に無理だ。
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