18.異質な村人④
「母さん達は、いったい何者なの?」
俺の問いかけに対して、母さんは口元に手を当ててしばしの間言葉を探していた。
やがて、震えた声音で、逆に俺に問いかけてくる。
「どうして、そんなことを聞くの?」
自分のことを俺と同じ人間だと即答せずに、質問に質問で返してきたことから、母さん達は人間ではないと自白しているようなものだった。
「村の人達がさ、普段は普通の人と同じように話しているんだけど、母さん達のことになると途端におかしくなる人が多いんだ。正直、あれは異常だと思う」
大部分の村人の母さん達への態度は狂信的なものがあった。
とても、同じ人間に向けるレベルの敬意とは到底思えない。
「それは……」
母さんも自覚はあったのか、俺の言葉を否定することは無かった。
代わりとばかりに、彼女はいきなり謝罪を始める。
「ごめんなさい……。ごめんなさい、セカイ」
「何で謝るのさ」
謝るくらいなら、俺に教えてくれよ。
「わ、私は、……怖い。私達のことを知って、あなたが私達から離れてしまうんじゃないかって。きっと、ジークとミアも同じ気持ちを持っていると思う」
そう言って、彼女は震える肩を両手で抱いていた。
これ以上は、母さんを無意味に追い詰めることになってしまう。
もう十分じゃないか。
取りあえずは、母さん達が人間じゃないことだけでも知れたのだから、今日はそれでいいじゃないか。
そう思ったが、自分の中に巣くう疑惑の感情が『それで良いのか?』と語りかけてくる。
『ジーク達は、お前のことを家族だと言いながら、隠し事をしているぞ? そんな奴らに気を使う必要があるのか?』
……黙れよ。
『お前は自分のことを全て話したのに、奴らはお前に自分たちのことを話さない』
いいから黙れ。
誰にでも話したくないことに一つくらいあるだろう。
『お前のことを信じていないから、言えないだけじゃないのか?』
黙れ!!
「セカイ……?」
母さんの声に、はっと我に返る。
「あ、ごめん。少しぼーっとしてたみたいだ。うん、そうだな……、母さん達が話したくないっていうなら、無理に聞き出そうとは思わないよ」
俺の声に、母さんは少なからずほっとしたようだった。
「ごめんね、セカイ。でもきっといつか、あなたに話すから」
「うん、ありがとう、母さん」
「いや、その内って言うとキリがないから、セカイが成人する日にしよう」
俺は突然降って沸いた声に驚いて後ろをばっと振り向く。
「父さん!? ……いつから聞いてたの?」
「『母さん達はいったい何者なの?』ってあたりから」
大事なところは殆ど聞いてるじゃないか、それ。
「ま、俺達にも心の準備ってものがあるし、あまり言いたいことでもない。それでも、セカイに聞いて欲しいって気持ちがあることも確かだ。だから、もう少し待ってくれないか、お前が成人する日には、必ず話すから……」
父さんはそう言って、俺の頭に手を優しく乗せる。
父さんの手は、ほんの少しだけ震えていた。
先ほどまでの憤る気持ちも収まり、俺は、心の中でどこか安心していた。
今、真実を知りたかったのも事実だが、今知ることができなくて安心したのもまた、事実だったのだ。
「分かった。その日まで、俺からこのことを聞いたりはしない。でも、15歳の誕生日の日に、全て隠さずに教えてもらうから」
「ああ。……約束だ」
父さんと俺は、一つの約束をして、お互いの拳をこつんとぶつけあった。
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