表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/77

17.異質な村人③

 ここは、形だけでも謝罪するべきか?

 気持ちの籠っていない謝罪に意味はないのかもしれない。

 そう思いもするが、今のこの状況を放っておけば、積もりに積もった不満はいつか爆発するであろうことは目に見えている。

 ならば――


「申し訳ありませんでした。自分の認識が甘かったと痛感しております。これからはジーク様、シンシア様、ミア様に対して礼節を保ち、接させていただきます」


 ――形だけの謝罪でも、彼らの不満は解消しなければならないと思った。

 俺の言葉に、村の空気がわずかに弛緩したことを感じた。

 だが、俺の隣にいた彼女は、その例には含まれなかった。


「なん……で、そんなことを……っ!」


 俺の隣に立っていたミアは、体を震わせていた。

 そればかりか、こちらを涙の溜まった瞳で睨んでいた。

 そんなつもりじゃなかった。

 彼女を傷つけるつもりで言った事ではなかった。

 年の割に賢い彼女は、俺がその言葉を発した理由を頭では理解しているとは思う。

 それでも、俺の言葉は彼女にとって耐え難いものだったのだろう。

 突然踵を返し、村の出入口、俺達の家の方へと走って行ってしまった。


「ミ――」


 『ミア、待ってくれ!』、と、反射的に口走ろうとしたが、それでは先程の行為が無に帰すことが分かっていたため俺は口をつぐんだ。

 失礼します、と口早に言い、俺は彼女の後を追いかけた。

 だが、彼女はこちらを振り返ることなく、走って行ってしまう。

 彼女の体が、僅かに魔力を帯びていることに俺は気が付いた。

 いったいいつの間に身体強化を取得していたのだろうか。

 俺はつい先刻まで行っていた鍛錬で魔力を消費していたため、これ以上使ってしまっては魔力切れで気絶してしまう可能性がある。


「ぜぇっ! はあっ……! はあっ……!」


 強化も施していない体では追いつくことは叶わず、ミアの姿が見えなくなるころには俺はゴズさんがいる門のところまで戻ってきていた。

 ゴズさんは何やら慌てた様子でこちらへと寄ってくる。


「セカイ! おい大丈夫かお前!? 何かひどい顔してるけど……?」


 ひどい顔?

 俺はいったい今どんな顔をしている?

 冷静さを失い、空いている右手で顔に触れるが、当然そんなことをしても分かるはずがない。


「いえ、大丈夫です」


 俺は一言だけそう言い、彼の横を通り抜ける。


「セカイ! 今度、そうだな……飯でも食いに来い! 酒はまだ出せないけど、俺の家が作っている果実で飲み物を作ってやる! それから、えっと……」


 ゴズさんが俺を元気にしようと、大きな声で俺の背中へ向けて話しかけてきた。

 それだけで俺は、痛めた心が少しだけ楽になる。

 俺は彼を振り返り、


「ありがとうございます。今度機会があれば、是非」


 端的に、そう返すだけで精一杯だった。

 これ以上彼の言葉を聞いてしまっては、きっと俺は我慢できずに泣いてしまう気がした。


 家にたどり着くと、母さんが家の前で待っていた。

 俺は彼女の顔をまともに見ることができず、俯いたまま近づいた。


「ごめんなさい」


 今回、俺がミアを村に連れて行かなければこんなことにはならなかった。

 いや、そもそも村がどこか異常なことは頭の片隅で理解していたにも関わらず、それを考えないようにしてきたのは俺だった。


「いえ、セカイは悪くないわ。悪いのは、認識が甘かった私。こんなことになるなんて思ってもみなかった」


 母さんはそう言って俺の手を握ってきた。

 俺ははっと顔を上げ、彼女の顔を見つめる。


「セカイ、ミアから少し聞いたんだけど、これから私達に対して礼儀正しく接するって本当?」


 そう問いかけてきた彼女の顔は今にも泣きそうな顔をしていた。


「そんなわけないじゃないですか。俺は母さん、父さん、ミアを本当の家族だと思っているんだから。あれは、村の人を落ち着かせるための冗談だよ」


 俺の言葉に安心したようで、彼女はほっと息を吐いて笑った。


「良かった。あなたにそんな態度を取られたら、きっと皆悲しくなるから」


 皆、とは父さんや母さん、ミアの事だろう。


「うん。分かってる。分かってるんだ」


 村での俺の行為は最善とは言えない。そう頭では理解しても、一歩引いたところにいる自我が、あれは正しかったのだと囁いてくる。

 一歩引いた自我が、真実を聞けと俺の体を勝手に動かしているような感覚がした。


「ねえ、母さん」


 口がひとりでに動く。

 この村は、何故こんなにも母さん達を崇拝している?

 いや、そもそも――


「母さん達はいったい何者なの?」


 ――彼らは同じ人間なのだろうか?



読んでいただいてありがとうございます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ