16.異質な村人②
な、なんだ?
俺は村の空気が一変したことを感じる。
村の空気の変化に戸惑っていると、道沿いの民家から一人の女性が出て、こちらへ走ってきた。
あの女性は確か、メイソンの母親だ。名前はメアリさんだったかな。
彼女はこちらへと向かって来て、立ち止まる。その顔は何故か青ざめていた。
「も、申し訳ありませんミア様。うちの馬鹿息子が粗相をしてしまいました……っ! どうか、どうかお許しいただけないでしょうか?」
そう言いながら、メイソンの頭を無理やり下げさせる彼女に、俺は言葉を失う。
何だ? これは?
俺はこの異常な状況に、対応しきれないでいた。
「ちょ、ちょっと離せよ母ちゃん! ちょっと遊びに誘っただけじゃねーか!」
「あんたは黙ってなさい! 本当に重ね重ね申し訳ありません!」
そんな彼女たちの様子をミアは感情の読めない瞳で見ながら言葉を放つ。
「別に良いです。気にしてませんから」
「……ミア?」
なんだか、先ほどからミアの様子がおかしい気がする。
俺は隣にいる少女がどこか遠くの存在のように感じてしまい、思わず彼女の名を呼んだ。
ミアは俺の呼びかけに答えようと口を開くが、彼女が発する言葉は、メアリさんの言葉によってかき消されてしまった。
「セカイ! あなた、ミア様を呼び捨てにするなんて何を考えているの!?」
「え? いや、それは、そんなにいけないことなのでしょうか?」
俺は思わず聞き返してしまった。
父さん達は俺のことを家族だと言ってくれた。
俺も彼らと同様に、家族だと思っている。
だからこそ、村の人のように様を付けてはおかしいのではないか?
そう思って、できる限り近しく感じられるように、彼らが望むように呼んでいた。それはいけないことなのだろうか?
だが、この村にとってはいけないことなのだろう。
明らかに、周囲の村人達の中には俺に対する怒りを持っている人がいた。
メアリさんは俺の問いかけが信じられなかったのか、わなわなと震えていた。
「あ、あなた……、今なんて言った? 『そんなにいけないことなんですか?』ですって!? 駄目に決まってるでしょう!? 彼らはこの村の「そこまでじゃ!」」
メイソンの母親の言葉を遮ったのは、年老いた男。この村の村長だった。
「メアリ、そこまでじゃ。それ以上の言動は私が許さぬ」
「村長! でもセカイの態度はあまりにも……っ」
「お主の言わんとしていることは理解できる。だが、セカイの態度を認めたのは他でもないジーク様やシンシア様、ミア様なのだ。セカイの態度を否定するということは、この方々を否定することと同義なのだぞ」
「そう……、ですね。……分かりました。申し訳ありませんでした」
メアリさんは村長へと素直に謝る。決して俺に謝る気は無いようで、こちらを怒りの籠った瞳で睨んできている。
俺に怒りの視線を向けている村人もまだ一定数いることを感じる。
ああ、これはまずいな。
このままだと、この村で俺は腫物扱いになることは間違いないだろう。