13.修行
魔力の扱い方を教えてもらってから数日後、俺は今丸太を斬ろうと奮闘していた。
「ふっ!」
振り下ろされた刃は弱弱しく、丸太に当たっても一向に切れる気配がなかった。
「ん~~。難しいな」
俺は一人ぐちぐちと呟く。
「魔力を必要な箇所にだけ集中的に注ぐって、言ってることは分かるんだけど、どうしても父さんみたいに滑らかにできないなあ」
俺が同じことをしようとすると、ボッ、ボッ、ボッと点滅するように魔力が移行していくため、振り下ろしの動きそのものがぎこちなくなってしまっている。
下手したら、いや間違いなく、満遍なく魔力を体に流している時の方がまだスムーズに体を動かせる分威力はあったに違いない。
「まあ、繰り返して練習するしかないか。とにかく魔力を使わないことには始まらないし」
その後、何度も魔力を体に流して素振りを行った。
「ふう」
俺はしばらくそれを続けて、一息ついた後、今度は探知魔術の修練に移った。
地面に胡坐をかき、自身の10m先に置いた丸太まで魔力を広げようと奮闘する。
「ぐ、ぐうううううぅぅぅぅっ!」
呻きながら必死に魔力を広げ、最高記録である5m以上まで伸ばそうとする。
短時間ならそれ以上伸びるのだが、気を抜いた瞬間力尽きたように5m付近まで戻ってきてしまう。
数回似たようなことを繰り返し、魔力の残量が少なくなってきた俺は我慢できずに空へ叫んだ。
「だああぁぁぁ! 駄目だあああああぁぁぁぁぁ!」
俺は休憩しようと魔力を解除し、後ろへと倒れ込む。
ああ、今日も良い天気だな。
天気は良いが、気温がそれほど高いわけではないので、陽射しが心地よく降り注いでいた。
俺はその心地よさに任せ、目を瞑る。
しばらくして、光が遮られて俺の顔に影が差す。
「何か用か? ミア」
俺は目も開けずにその人の正体を当てる。
「わ、何で分かったの? どんだけお兄ちゃん私のこと好きなの?」
「この惑星で一番愛している」
愛は愛でも家族愛の一種だがな。
「あ~、はいはい。そういうの良いから」
何だと?
俺の世紀の告白が素気無くスルーされてしまった。
「ふふ。でも顔が真っ赤になってるわよ、ミア」
おや、母さんもいたのか。
「いやいや、赤くなってないから。お兄ちゃんにそんなこと言われてもなんも、なんっも感じないから」
この話題を続けるとミアが可哀そうだなと思い、俺は目を開けて上半身を起こして彼女達の方を向く。
「そんなことより、何でここに?」
俺の言葉にミアは呆れ返った顔をし、母さんは少し困った顔をした。
「いや、お兄ちゃん、今日買い物してきてって頼まれてるでしょ」
忘れたの? と本気で心配そうに言われて俺は少し傷つく。
そう言えば朝そんなことを言われたような気がする。
魔力の制御を一刻も早く習得したくて、制御方法ばかり考えて少し会話に意識を裂いていなかった節があるため、その時に言われていたのだろう。
「母さん、ごめんなさい。少しぼーっとしていたみたいだ」
俺のそんな言葉に母さんは笑って、
「良いのよ。誰にでもそんな日はあるわ。お父さんだってそういう日があるもの」
そこが可愛いんだけど、と言って母さんは頬に手を当てて照れ始める。
本人がいないのにここまで惚気られるとなんて言ったらいいのか分からなくなるな。
「母さん、そういうのは父さんがいる時にしてあげて。それより、お兄ちゃん、早く買ってきてよ。私もうお腹すいちゃった」
「ああ、分かった。わざわざ悪かったな」
「はい、じゃあ、これを買ってきてね」
母さんがそう言って欲しい野菜や調味料が書かれた紙を渡してくる。
ちなみにいまだに俺は文字を読むことができない。
その内教えてもらわないとな。
読んでいただきありがとうございます