11.魔力特性
別な方法?
「今から、この丸太をこの剣で斬ってもらう。もちろん、体は魔力で強化したままで良い」
そう言って父さんは一振りの剣を見せてくる。
見せられた剣は普通の物のように見える。
多分、特別なものではないのだろう。
「剣自体は普通なんだよね?」
「ああ、この剣自体は何の変哲もない数物だよ。だからこそ、今回に一番合っているとも言える」
そう言って父さんはこちらへ剣を渡してくる。
剣の長さは恐らく80㎝ほどだと思う。
大人にとってはそれほど長いわけではないだろうが、10歳前後の体の俺には十二分に長い代物だ。
俺はそれを受け取り、木剣との重さの違いを感じ、体が強張るのを感じた。
これが、本物の刃物か……。
ゴブリン戦の時は生き残ることで精一杯であまり意識することは無かったが、あれは俺にとって初めての殺しだった。
既に木剣で殺しを経験している俺だったが、木剣と違いこの剣は確実に生物に回復不可能な損傷を与えることを目的として作られたものだ。
その重量以上の重圧に、俺は思わず唾を飲み込み喉を鳴らす。
気圧されている俺に気付いているのか気付いていないのか、父さんは説明を続ける。
「強化している状態ならば、一応思い通りに振るうことはできるはずだ」
俺はそう言われ、試しに素振りをしてみる。
ビュッ、と風切り音を鳴らし、剣は思う通りに振るうことができた。
とは言え、木剣の時よりは負担が大きいため、片手で満足に振るうことは難しそうだが。
「うん、取り敢えず両手で振るう分には問題がないみたい」
「よし。それじゃ、この丸太に俺が魔力で強化を施す。強化された丸太をその剣で斬ってみろ」
父さんは説明しながら、丸太に魔力を流し込んでいく。
丸太に触れている部分から黒い魔力が染み込んでいき、やがて全体を混じりけなしの黒が多い尽くした。
物質の強化なんかもできるのか。
と一瞬思ったが、肉体も物質の一種だと考えるのであれば、当然と言えば当然か。
「それはどのくらい硬くなっているの?」
「少なくとも、ただの丸太とは一線を画していると言ってもいい」
父さんがそこまで言うほどなのか。
「じゃあ、俺がこの剣を強化して斬り付けるのは有り?」
丸太が強化してあるのであれば、こちらの剣も魔力で強化すればいいのではないか?
そう思った俺の考えは即座に否定される。
「やりたいならやってもいいが、恐らく成功しないだろう」
何故だろうか?
「ま、気になるならその剣に魔力を流し込んでみろ」
俺は言われた通りに魔力を剣に流し込んでいく。
すると――、
「ちょっ! ちょっと待って! 剣が壊れそうになっているんだけど!?」
――流された魔力が上手く循環せず、剣が魔力の流れの乱れに同調するようにぶるぶると震えだす。
「一度魔力を完全に遮断しろ!」
魔力の遮断……、心臓に再び栓をするイメージで……っ!
心臓から溢れる魔力が徐々に細くなっていき、それに呼応して剣の震えも収まってくる。
「ふう……、あ、危なかった」
あのまま流し続けてたら行き場を失った魔力が爆発するような感覚があった。
父さんと、父さんの後ろにいるミアはともかく、俺は大怪我を負っていた可能性がある。
「まあ一度やってみて分かっただろうが、お前のその魔力は普通とは違う、ある特性があるみたいだな」
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