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09.王妃と魔女

私は王宮に通うようになって最大のピンチを迎えていた。


「お願いがあるの」

王女様との面談を終えて帰ろうとした所を王妃様の部屋へと呼ばれたのだ。

どんな時でもいるはずの侍女達すら人払いされ、部屋の中は完全に二人きりだった。

「何でしょう…」

「貴女の顔を見せてくれるかしら」

私をじっと見つめて王妃様は言った。


来てしまった。

王妃様は気づいているのかもしれない。

けれど年齢の事で確証が持てないのだろう。

「…申し訳ありませんがそれは出来ません」

「何故?」

「そういう…決まりです」

この人にだけは見られる訳にはいかない。

素性を知られてしまったら…


「どうしても?」

「申し訳ありません」

そのまま沈黙が続く。

これ以上ここにいてはダメだ。

「…失礼いたします」

頭を下げようとした所で扉を叩く音が聞こえた。


「母上?ここにフローラが———」

ほんとタイミングがいいなこの人は!

ああでも今日は救世主かもしれない。

早く森に帰って———

「ジェラルド!早く入ってきて!」

思いがけない王妃様の叫び声が響いた。


「母上?!」

大きな音を立てて扉が開くとジェラルド様が飛び込んできた。

「何が———」

「その子を捕まえて!」

「は?」

「逃さないで!お願い!」

一瞬戸惑った顔を見せたジェラルド様は、けれどすぐに動いた。

あっという間に私を後ろから抱きすくめる。

「母上、フローラが何か…」

「そのまま抑えていて」

私達の正面に立つと王妃様は手を伸ばし———私のフードを外した。

それから、頭の後ろで結んでいるヴェールの紐を解く。

…こういう強引な所、親子だなあ。

現実逃避するように間抜けな事を考えていると、パサリとヴェールが床に落ちた。


目の前の王妃様が私の顔をじっと見つめる。

私と同じ色の瞳が揺れていた。

———似てないと思っていたけど、よく見るとやっぱり面影は有るんだ。

記憶にある人の顔が重なる。


震える細い指先が私のローブの首元にかかるとそれを引きさげた。

「母上…?」

ジェラルド様が戸惑った声を出したが、私には分かる。

王妃様は確認したいのだ。

私の首の下にあるホクロを。


「フローレンス…」

じっと首元を見つめていた王妃様の口からその名前が溢れた。

「貴女…フローレンスなのでしょう?」

顔を上げた王妃様の瞳から一筋の涙が流れた。

ああ。そんな顔をされたら———否定できないじゃない。


「———伯母さま……」

「…貴女…アリシアがどれだけ悲しんで———」

最後は声にならなくて、王妃様は私の胸元に顔を押し付けた。





「あの……」

シャルロット王女は目の前の光景に戸惑っているようだった。

見知らぬ少女が泣いている母親と兄に手を握られているのだから仕方ないけれど———何でジェラルド様が手を握っているのかしら?

「……もしかして魔女様…?」

私の服装から気付いたようだ。


「この子はフローレンス…私の妹の娘よ」

「え?!」

ようやく泣き止んだ王妃様の言葉に、王子と王女は声を揃えて驚きの声をあげた。

「…どういう事?」

「母上の妹というと…ロージェル公主に嫁いだ…?」

「八歳の時に突然姿が消えて…いくら探しても見つからなかったの」

私の手を握る王妃様の手に力がこもる。

「声がアリシアそっくりで…仕草の癖も同じで…もしかしてと———」

ああ、声でバレたんだ。

そうか顔がそっくりだから、声も似るんだ。

「どうして…魔女になんて……」



「私は……呪いにかかっているんです」

観念して私は言った。

「呪い…?」

「私の魂は死ぬ事を許されず…身体が死ぬ度に生まれ変わって…西の森を護り続けないとならないんです」

それは三百年前、私の魂に刻み込まれた、消える事のない呪いだった。

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