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呪いを受けて少女は魔女になった  作者: 冬野月子


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10.呪われた少女

最初の私は、ララという名の孤児だった。


孤児院にいた所を私の魔力の高さに目をつけたお師匠様に引き取られた。

お師匠様は高名な魔導師だったが、国に属する事を嫌い、好きな魔術の研究に没頭し、資金稼ぎの為に時々依頼を受けては魔物を討伐したりしていた。

変わり者と言われていたが、私には優しく、師弟というよりも親子のように暮らしていた。


西の森に入ったのは森に棲む凶暴な霊獣を退治して欲しいという国王からの依頼だった。

凶暴な霊獣が棲んでいるにしては穏やかな森の奥深く進んだ私達の前に現れたのは、真っ黒な身体の巨大な蛇だった。

「ララ、下がっていなさい」

お師匠様の言葉に私は素直に木の陰へと隠れた。

攻撃魔法が苦手な私はお師匠様が怪我をした時の回復や、防御力を上げる事が役目だった。


戦闘が始まった。

互いに高度な魔法を繰り出すさまを私は縮こまりながら見つめるしかできなかった。

長い闘いの末、軍配はお師匠様に上がったようだった。

苦しげに身体をくねらせながら蛇が崩れ落ちるその時———金色に光る瞳が私を見た。

その瞬間、私の身体を熱いものが駆け巡った。


「あ…ぅ…」

「ララ?!」

異変を察知したお師匠様が駆け寄ってきた。

「ララ!どうした!」

「あ……あ…」

熱さと息苦しさで喘ぐ事しか出来ない。

「っなんだこの熱は…!」

立っていられなくなった私の身体を抱えたお師匠様がその熱さに驚く。


「…く……愚かな人間め…」

地を這うような声が響いた。

「我は…この森を封印する者ぞ……」

「封印?」

お師匠様は倒れた蛇を振り返った。

「我が死ねば封印は消え…この森に封じた大量の魔物が森の外へと溢れ出すのだ…」

「何だと?!」

「くく…困るだろう…困るだろうから…」

蛇の目が怪しく光る。

「そこの娘に…代わりに我の役目を負わせておいたぞ…」


「な…にを……」

「娘は我の代わりに…森の封印を護り続けるのだ…老いて死んでもまた生まれ変わり…永遠にな…」

「貴様———」

「くく…く…」


「———ああっ」

「ララ!」

蛇の目の光が消えたと同時にひときわ熱いものが駆け抜け、私は意識を失った。



以来、私は西の森に住むようになった。

あの蛇———あれは霊獣ではなく、古い時代の邪神で、他の魔物を森に封じ込めた蓋として最後に封印されたものだった。

余りにもその力が強すぎたため、全て封印しきれずに溢れた力が蛇の形となり森へ来る人間に危害を与えていたのだ。


お師匠様は泣きながら私に謝り———必ず呪いを解くと、共に森で暮らしながら手掛かりを探しに世界各地の古い遺跡などを巡っていたが、十年後、旅に出たきり戻らなかった。

霊獣たちからの噂で旅先で死んだと聞いた。

一人になった私はそれからも生まれ変わっては森へ戻り、やがて西の森の魔女と呼ばれるようになったのだ。





「私が森にいなければ…十年もすれば結界は消えてしまいます。だから私は城を抜け出して…森へ帰ったんです」

八歳というのはギリギリだった。

余りにも両親が私を可愛がるからなかなか離れられなかった。


「〝私〟がフローレンスとして…公女として生まれてしまったばかりに…両親や伯母さま…皆にご迷惑をかけてしまって…ごめんなさい———」

生まれ変わる度に罪悪感を覚えていた。

呪いを受けた魔女の魂の器にならなければ、この娘は家族に囲まれて幸せに暮らせただろうにと。

真実を告げず、ある日突然消える娘の家族は———どんな思いをしているのだろう。


「…どうして貴女が謝るの———」

王妃様は私を抱きしめた。

「どうして…こんな目に———」


「魔女様…フローレンスは…一人きりで森にいなければならないの?寂しくはないの?」

瞳に涙を浮かべた王女が尋ねた。

「森から全く出られない訳ではありませんし…時には弟子を取ったりする事もありますから。辛くはありません」

単に森での生活という事だけでいえば———正直、穏やかに過ごせていると思う。

私にとっては森の中は安全だし、たまにこうやって仕事を受けたりするくらいで、普段は自給自足をしながら友人となった霊獣達に会いにいったりと割と気ままな生活を楽しんでいるのだ。

———王族の人たちにとっては辛く思えるだろうけれど、元々孤児院育ちなので森の中の生活も苦にはならない。



「君は———ロージェルの公女で、私達の従姉妹なのだな」

ジェラルド様が口を開いた。

「そして十年くらいは森から離れられると」

あ、嫌な予感がする。

「———つまり私の妃になるのに問題はないのだな?」

「え…」

おおありだってば!

人の話聞いていなかったの?!

「私は呪われた魔女です。そんな者を……」

「シャルロットだって霊獣に嫁ぐのだから、私が魔女を娶っても構わないだろう?」

なんでそういう理屈になるかな。

あなたは王様になるんだからね?

王妃が魔女はダメでしょ?


「まあ…貴方達そういう関係だったの?」

王妃様が私とジェラルド様を交互に見た。

王女も頬を染めている。

違います!

私は慌てて首を横に振った。

「今口説いている最中です」

やめて!


「結婚は…陛下にお許しを頂かないと難しいわね」

王妃様も前向きに考えないで下さい。

「フローレンス。とりあえず貴女の事はロージェル公に連絡するわね」

「え…それは……」

「知らせない訳にはいかないでしょう?どれほど貴女の事探していたか分かる?」

…それを言われると辛いです。


私の頬に王妃様の手が触れる。

「貴女が魔女でも…家に戻ることが出来なくても。こうやって元気で生きているだけで喜ぶはずよ、ね?」

「…はい」

微笑んだ王妃様の顔は、母の顔を思い出させた。

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