(16)
深夜、日付が変わる頃。私たちの乗るリニアモータートレインは目的の街に着いた。
ニュートウキョウシティ。かつてジャパンと呼ばれた国の首都の名前にちなんだその街は夜の闇に埋もれていた。
改札を出た私たちは大きな荷物を担ぎながら夜の街を見下ろした。
「何だが。暗いところだね。」
唯奈が漏らした言葉はまさに私たちの見ている光景を端的に表していた。
私たちの街ならば夜でも街は光にあふれるネオンに覆い尽くされ、昼のようなにぎわいを見せていた。しかし、ここは違う。
確かに街の所々ではネオンによる照明があたりを明るく照らしているのだが、それが街全体に広がることはない。
広い街の大部分は寝静まったかのように暗い闇に覆われている。
「貧富の格差ってやつかな?」
聡志はそう言うが、どうなのだろうか。
「言ってみるしかあらへんな。」
優はそう言うときびすを返した。
私たちもこうして手をこまねいているわけにも行かない。優に習って私たちもきびすを返した。
セントラルステーションの構内には人のにぎわいがない。
私たちの街でもそうだったが、このリニアモータートレインを利用する人間はきわめて少ないようだ。
しかし、周りには監視の目があるためここで集会を開いたり、宿のないものが寝泊まりしている様子は全く見受けられない。
本当にきれいな、不気味なほどきれいな空間だった。
「なあ、早く行こうぜ。」
聡志の声によって現実に戻された私はゆっくりとうなずくと当初の予定通り、指定の宿に向かうことにした。
セントラルステーションから一歩出ると底は別世界が広がっていた。
中の空虚なまでのきれいさとは正反対の場所、道にはゴミがあふれかえり、他人のことをいっさい考えないもの達がおいていった自転車やバイク。違法としか思えないいかがわしい内容の求人広告がまるでそこらにまき散らされたかのように風に乗って地面を漂っていた。
「なんや。スラムにきたって感じやな。」
優がそう漏らすが、
「スラムって言うか、暗黒街って感じだな。こりゃ。」
聡志が即座にそれを打ち消した。
私は聡志に賛成だ。
「なあ。こんなところ早く離れたいんだが。」
私は心底うんざりした表情を浮かべた。心で思ったことと表情と口から出た言葉がここまでマッチするのも珍しい。
私は深い嫌悪感を抱いていた。この街に、そして何よりこのような状態を黙認できるような街の人間に・・・。
「同感だぜ。」
見ると唯奈は今にも泣きそうな顔をしていた。そりゃそうだろうな。唯奈だったらこの光景を見て心を痛めるだろう。
私は唯奈の肩を抱いた。
「大丈夫。どんなことがあっても私がきっと守ってみせるから・・・。」
唯奈は”・・・うん・・・”と消え入りそうな声で答えた。
「で?その宿ってのはどこなんや?」
「確か。この道をひたすらまっすぐ・・・だったかな?」
私は携帯端末を取り出し、データを拾い上げた。
「ああ。確かにそうだ。この先にタクシーっていう有料の車に乗る場所があるらしいから。それで行こう。」
「ぼったくられねえだろうな?」
聡志の声は不安そうな色を見せていた。彼らしくもない。
「まあ。運転手によるかな。」
私はできるだけ気楽に答えた。私だって不安なのだ。本当に、みんなと一緒でよかった。
「なあ。早う行こうや。」
優の言葉とともに私たちは歩き出した。その先に何が待ちかまえているのかも知りもせずに。ただひたすらその道が未来へつながっていることを願って・・・。
私は眠れない夜を過ごした。