(14)
「・・・・!」
私ははっと気がつき、時計を見た。
どうやら浅い眠りについていたようだ。時計は私の出発の時間を知らせていた。
私以外誰もいないこの家は静まりかえっていた。
「・・・行くか・・・。」
私は立ち上がると荷物を背負い込んだ。
「・・・絶対に戻ってくるよ・・・だから・・・。」
私は誰にそういっていたのだろうか?唯奈?アリア?優?それとも聡志なのか。自分自身に呼びかけていたのかもしれない。
すべてが分かったとき。それがどんな過酷な事実だったとしても。私は必ずここに戻ってこよう。それがいつになるかは分からない。すべてを見つけるのにどれだけの月日が必要なのか見当もつかないが、私は必ずここに戻ってくる。
その時になったら、本当の自分の人生を歩もう・・・。
今夜は死幻星がよく見える旅立ちにはいい夜だった。
「・・・広いな。」
私は広大なモノレール駅のフロアでただ立ちつくしていた。
セントラルステーションに続くモノレール乗り場と聞いて、さほどのものは予想していなかったのだが、改めて周りを見回してみると学校の体育館がまるごと2つは入ってしまいそうな広さだ。
私は周りを見回した。さほど夜も更けているという感じでもないのだが私の周りに人はほとんどいない。
「切符を買うのか?それとも、IDカードでいけるのかな?」
そういえば、私はこの方モノレールに乗ったことがなかった。100年前の知識を導入してみれば乗車券を購入するのだろうが、周りを見回してみても切符を販売している窓口なり券売機などは見あたらない。
しかも、駅員の姿も見あたらない。
私は初めてお使いにやらされた子供のような気分だった。確かにこういう状況で「自分で考えて行動しなさい」といわれても、訳がわからないな。この間テレビに出演していた男の子に深い陳謝をしたい気分になった。
「迷子の迷子の子猫ちゃん。あなたのお家はどこですかってか?」
なにやら懐かしい歌のようなものが私の背後から響いてきた。・・うん?そういえば、この声、どこかで聞いたことがあるような。
私はいぶかしげに振り向くと、そこには驚愕すべき光景が私を待ち受けていた。
「よう!」
そういって人なつっこい笑みを浮かべながら片手をひらひらさせているのは間違うこともない、聡志だった。
「一人でいくなんて水くさいやないか・・・わいらが信用できへんってことか?」
そして、その後ろには相変わらずの仏頂面をした優が、そして・・、
「ごめんね・・・きちゃった。」
友達の家に泊まりに行っているはずの唯奈まで・・・。
「どうして・・・秘密だったのに。」
私は誰にも気づかれないように計画を進めてきたはずだ。そう、ここにいる三人にもばれないように。
「おいおい。俺らを見くびってもらったら困る。」
「それに、バレバレやったかなら。有希は結構隠し事が苦手やったっちゅうことや。」
二人はにやっと笑って私を見つめた。
「私たちも話し合ったの。そして・・・決めたの・・・。有希ちゃんについて行くって。」
唯奈も私の目をしっかりととらえて放そうとしない。私は目をそらせた。
「ということは、私の過去をみんな知ってるってことか?私が普通の人間ではないってことも?」
彼らは無言だったが、それは語るよりも雄弁にものを言っていた。
「だけど。なぜ?帰ってこられるかどうかわからないってのに・・・?」
「それこそ、俺たちを見くびってもらっては困るぜ。」
聡志はいかにも心外だという表情を浮かべると私のそばに歩み寄ってきた。
「そうやな。」
「うん。そうだね。」
優も唯奈もうなずいているが、私には訳がわからない。
「俺たちは・・・仲間だろうが。仲間の一人がいくっていうんだったら俺たちもいくしかないだろう。違うか?」
私はハンマーで殴られたような衝撃を受けた。
「それに。おまえが何者やったとしても宮野は宮野や。それに変わりはあらへん。」
優も聡志の横に立った。
「私も・・・知りたいの。有希ちゃんが知りたいって思ってることを・・・。私は・・・有希ちゃんの家族なんだから・・・。」
全く、こいつらは・・・。どうしてこうも私が言ってほしいことを言ってくれるのだろうか。こんなの・・・すがりたくなってしまうじゃないか。
本当のことを言うと、私も不安だった。たった一人で真実と向き合おうとすることにはこの上のない勇気が必要だった。私一人では抱えきれないほどの勇気が必要だった。だけど、私たちなら。私たち4人だったら・・・。
「・・・全く。仕方がないな。そこまで言われたらだめだといえないではないか。」
私はこっそりと目尻をぬぐうと、あきれたような表情を作って三人を見つめた。
「へへへ・・・観念しな。俺たちはたとえ地獄の底にでもつきまとってやるぜ。」
聡志らしい、実に聡志らしい返事だった。私はこれで救われた。私を待つものがいかに過酷なものであったとして、彼らがいれば乗り越えられないものはない。
「よっしゃ。早速、いこか。もう、夜も遅いで。」
私はうなずいた。
「楽しい旅にしようね。」
「ああ。そうだな。」
楽しい旅か。おそらくはそうはならないだろう。しかし、私はすがりたかった。今一時の幸せにすがりたかったのだ。私は自覚した。いくら表を取り繕ったとしても自分の内面を変えることはできない。私は、弱い人間なのだ。
だから、今だけはすがらせてほしい。他人の優しさに、人間としてのぬくもりに・・・。




