(11)
お祭りが去ってしまうと何かもの悲しい気分に教われるものだ。
何もかもが取り払われ、がらんとした学校の校舎が夕日の紅い光を背負っていた。
「なんだか寂しい気もするな。」
意外にもそれを言ったのは聡志だった。
「あんたでもそう思うんだ。」
私は隣に立っていた彼のそう言葉を継げた。
「まあな。」
彼はそっと私の肩を抱いた。そして、私の耳にそっと口を運ぶと、誰にも聞こえないような小声で、
「まだ俺はお前を諦めたわけではないからな。お前が振り向いてくれるか、他の誰かを好きになるまでお前を狙い続けるぜ。」
私は肩をすぼめた。
「もう好きにしてくれ。ただし、あのときみたいにいきなりはなしだぞ。私だって恥ずかしい。」
彼は、ははは・・と苦笑を浮かべると私の肩から手を離した。見ると、校舎から唯奈とそれに遅れて優がこっちに向かってきている。
「遅くなって・・・ごめんなさい・・・。」
走ってきたのか、唯奈は荒い息をついている。
「運動神経がええわけやあらへんのに、無理に走るからや。」
少し遅れて優が到着した。
「あんまり無理すんなよ。」
聡志も少し心配そうに唯奈の顔をのぞき込んでいる。
「うん。ごめんなさい・・・。」
深呼吸も交え、唯奈は息を整えると、
「それじゃあ、・・・帰ろう・・・。」
にっこりと笑って促す。
「そうだな。」
私は、そういうと歩き出した。唯奈も私の隣に立って歩いてゆく。
「今年のフィナーレも熱かったな。」
「まあ。生徒会の奴らにとってはあれが見せ場みたいなもんやからな。」
「来年は俺たちがやるんだよな。」
「なんや?聡志。お前、生徒会にはいるつもりか?やめといた方がええんちゃうか?」
「あん?優。そりゃどういう意味だよ。」
「どういうって。そのまんまなんやけど。」
後ろから聞こえてくる優と聡志の漫才のような会話を聞いて私たちはくすっと笑った。
「聡志が生徒会・・・似合わないな。」
「有希ちゃん。そんなこと言ったら失礼だよ。」
「そうだぞ。宮野。俺に失礼ってもんだ。」
聞いていたのか聡志が間髪入れずに抗議を訴えた。
「はははは・・・。いや、まあなんだ。気にするなよ。」
「なんかむかつくなあ。よし、こうなったら来年は会長に立候補してやるぜ!」
おいおい本気か?
「その時はわいが推薦者になったろか?」
「おお。いいね。生徒会長、沖合聡志。推薦者、藤野優。いいね。さまになってるじゃん。」
なんだかいように盛り上がっているような。まあ、いいか。
だが、本当に彼が生徒会長に立候補するようなことがあったら・・・指さして笑ってやろう。
「それじゃまたな。」
「また明後日やな。」
途中で二人と別れ、私たちは自宅に帰った。
「今日は楽しかったね。」
唯奈はいよいよ沈もうとしている夕日を見上げてそうつぶやいた。
「ああ。お祭りってのは楽しいものだ。」
私はたぶん今日の日のことを忘れないだろう。たとえ私がどのような人間であろうとも、これからどんなことが起ころうとも、私は今日のことを忘れない。
楽しかった日々、思い出の日々、共に過ごした友人達。今までの記憶をなくしてしまったからこそこれからのことはすべて何一つ漏らすことなく覚えていよう。
私はこの夕日と唯奈の笑顔に誓った。




