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義兄妹LOVE入門編  作者: はるやこやな
8/15

ニセップル作戦




「私とカゲチー、つ、付き合うことになったの!」


 兄が仕事場より帰宅して早々、影近からも促されて、ついに宣言してしまった。

 これでもう引き返すことはできない。

 兄に、清一に本音をいわせるための作戦――ニセップル作戦決行だ。


 長い沈黙が、その場を重苦しくさせた気がした。でも、本当はたぶん一瞬で、兄が口を開くのにも、そう時間はかからなかった。

「あぁ……うん、そうか」

 予想はしていたけれど、兄の反応はあっさりしたものだった。少しは、取り乱す様子を見せてくれるんじゃないかという期待は正直、あった。それだけに、ちょっと残念だった。

 さて、宣言したはいいけれど、ここからどうすれば……と考えあぐねていると、隣に立っている影近が、私の肩を抱いてきた。

「え? カゲチー?」

 焦って影近を見上げると、彼も兄に向かって宣言をする。

「お兄さんとは面識もあるし、ちゃんと挨拶しておかないと、と思いまして。なんといったらいいのか分かりませんけど……これから妹さんと交際させていただきます。本田影近です。よろしくお願いします」

「あ? あぁ……うん」

「どうかしましたか?」

「いや別に。ヨロシクホンダクン」

 ……あれ? 何の動揺も見られないと思っていたけれど、影近に対する兄の態度が、どこかぎこちないことに気づく。緊張しているわけじゃなくて、何か感情を抑えているような。

 やっぱり嫉妬してる? と、兄の真意を探ろうとしても、心の中までは見えない。兄の顔を凝視していると、影近が私に向き直った。

「じゃあな、あや。今日は帰るから」

「あ、うん。また明日ね。カゲチー……」

 帰るという影近に、バイバイと手を振ろうとした私は、次の瞬間、固まることになる。

 

 私の前髪をそっとかき分けた影近が、なんとそのまま私の額へと口づけたのだ。


「え!? か、カゲチー!?」

「また明日」

 口づけられた額を押さえ、顔を赤くする私を置いて、影近はさっさと我が家を後にしてしまった。

 後に残ったのはもちろん、私と兄の2人だけ。

 たしかに恋人のフリをするとはいったけれど、これは気まずすぎる。

「えーっと……晩ご飯、作ろっかなぁー。お兄ちゃん、カレーとシチューどっちがいい?」

 目を合わさずに、できるだけ明るい声音を意識して訊いてみるけれど、兄からの返事がない。仕方なく清一の顔を見ると、彼はまっすぐこちらを見ていた。その真剣な眼差しにドキリとする。

「……なぁ。あいつと付き合うって、本気?」

「う……」

 いつもより1トーン声の低い兄から、謎の威圧感を感じる。でもいわなければ。もうニセップル作戦は始まっているのだから。

「……うん」

「声小さいなぁ……」

「っ!?」

 やっとの思いで1つ返事をしたら、兄は私の両腕を抱き寄せるようにして、ぐっと顔を近づけてきた。

 キスされる!? と、反射的に目を閉じて固まった。しかし兄が私に降らせたのは、キスではなく、無情な言葉だった。

「お前にはまだ早いよ。彼氏なんて」

「……え?」

「恋愛に憧れるのはわかるけど、憧れてるうちはまだ子どもなんだよ。もう少し大人になって、本当にずっと一緒にいたいと思えるような人に出会うまでは……」

「……うるさい」

 何をいうのかと思ったら、やっぱりいつもと同じ子ども扱い。

 ずっと一緒にいたいと思える人? それならいる。目の前に。だから好きだといっているのに、相手にしないのはそっちじゃないか。

 私は無性に苛ついて、掴まれていた腕を振りほどいて、兄の胸を突き飛ばす。

「っ、あや!」

「うるさい! どうせ子どもだよ! でも好きなんだからいいじゃん、付き合ったって! もう放っといて!」

 追いかけてこようとする兄から逃れるように、階段を駆け上がって、自室に閉じこもる。

 今朝まで兄のことを好きだといっておきながら、放課後になって突然、彼氏ができたなんていっても、本気だと受け取られるわけがない。好きでもないのに、彼氏を作ったのがバレバレだ。

 自分から紹介しておきながら、放っておいても何もないな……と、自己嫌悪にかられながら私は、その日は自分の部屋から1歩も出なかった。

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