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義兄妹LOVE入門編  作者: はるやこやな
7/15

兄の苦悩 そして殺意――




「桜川さーん、お疲れ様ですー」

「あっ、桜川さん! 早く上がれましたし、飲みにでもいきませんか?」

 就業時間を過ぎ、パソコンの電源を落とすと、すかさず同僚の女子社員たちが寄ってくる。いつものことだが、正直うっとうしい。

 俺は、そんな考えをおくびにも出さずに、爽やかな笑顔を浮かべて、丁重にお断りする。

「ごめんね。両親が仕事で遅くなるから、妹が家に1人なんだ。早く帰ってあげないと」

「あ……そうですか。残念。また誘いますね」

「あぁ、お疲れ様」

 2度と誘うな、と、口に出したら確実に恨まれるようなことを思いながら、俺は手早く身支度を済ませて、女子社員達に背を向けた。オフィスを出る直前、彼女達の囁き声が聞こえた。

「また断られた……1回も付き合ってくれたことないよ……桜川さん」

「誰の誘いにも乗らないんだって。妹さんがいるからって……」

「いいなー。桜川さんの妹なんて……羨ましい……」

「だよねぇ……あんな格好いい人の妹で、1つ屋根の下で暮らして、大事にして貰えるなんて……羨ましいしかないよねぇ……」

 あぁ、うるさい。聞きたくない。妹の――あや子以外からの恋慕の言葉なんて、いらない。

 俺は、耳障りな声を遮断するように、オフィスを出て、扉を閉めた。


 外に出ると、駐車場に止めてある車に乗り込んで、帰路に就く。

 今日は、あや子の高校の入学式だった。

 両親の再婚により、あや子と俺が兄妹になったのは、ちょうど4年ほど前のこと。あの頃は小学生だったあや子が、ついに高校生になったのか。そう思うと早かった……ということはない。実に長い4年間だった。


 なぜなら、俺は妹に――あや子に、恋をしているからだ。


 可愛いのは初めからだが、日を経るごとに女らしく成長していくあや子を、ただそばで見ているのは、正直ずっとキツかった。いや、今だってキツい。

 今朝もそうだ。新しい高校の制服を着て見せにきたかと思えば、あろうことか、あや子のほうから俺に口付けしようとしてきたり、両親の前でも、お構いなしに体を密着させてきては、スキだスキだと連呼する。そんな日々が何年も続いているのだ。


 そう。俺と妹は、すでに両想いだ。


 それは、とっくにわかっている。でも俺は、妹にこの気持ちを伝える気はない。少なくとも、今は。

 もう高校生とはいえ、まだ高校生。手を出すわけにはいかない。いかない……というのに、積極的なあや子からのアピールに耐えるのにも、俺は限界を感じ始めていた。

 だが誘惑に負けるわけにはいかない。あや子のことを好きだと自覚した時から、心に決めていた。

 彼女が高校を卒業するまでは、決して想いを伝えることはしないと――




 あや子のことを考えているうちに、自宅に到着する。ガレージに車を止めてから、玄関へと急いだ。

 気持ちを伝える気はないとはいえ、あや子のことが好きだ、少しでも長い時間を一緒に過ごしたい、という思いは抑えようがない。

 玄関を開けて家に入ると、見覚えのない靴が1足、あや子の靴と並んでいた。それを見た瞬間、なぜかざわりと嫌な予感がする。

 サイズからして男の靴だなと予測して、2階の妹の部屋へと向かおうかと考えていると、あや子のほうから1階へと降りてきた。

「お兄ちゃん、おかえり」

「あぁ。ただい……ま」

 出迎えてくれたあや子は、まだ制服を着たままだ。やっぱりめちゃくちゃ可愛い。中学の時のセーラー服もよかったけれど、ブレザーもまたいい。今朝、妹が制服を見せにきた時に、からかって見せたのは、そうしなければ、思わず抱きしめてキスして、ほかにも色々したい欲求が抑えられなかったからだ。

 そんな可愛すぎる妹に見とれそうになっていると、彼女の後ろから階段を下りてくる、もう1人の人物に気が付いた。

「お邪魔してます、お兄さん」

「あぁ……君はたしか、あやの友達の……」

「カゲチーだよ。今日は学校早く終わったから、ウチでゲームしてたの」

「ふーん……」

 男を1人、部屋に招いて? 危ないだろう。襲われたらどうするんだ。色々といいたいことはあるけれど、彼はあや子の友達だ。彼の前ではいえまい。その代わり、あとであや子に直接、キツめにいっておかなければ。

 そんなことを考えていると、高1のわりには長身のその男が、あや子に何事か耳打ちをした。

 そんなやり取りを見ただけで、俺のあや子に何やってんだ、コラ……と、苛立ちが募る。しかし、ちょっと戸惑ったのちに続いた、あや子の言葉に、俺は苛立ちどころではなくなった。

「あのね、お兄ちゃん……じ、実はね、私とカゲチー……」

 何やら顔を赤くして、もじもじするあや子だったが、やがて覚悟を決めたように俺をまっすぐ見上げ、宣言した。


「つ、付き合うことになったの!」


 聞いた瞬間 "あぁ、嘘吐いてるな" とわかった。

 俺が、あや子の嘘を見破れないわけがない。おそらくこの男と口裏を合わせて、恋人同士のフリをしようというんだろう。それで俺に妬かせようと。可愛いことをする。

 だが、嘘だとわかったところで、あや子の隣で彼女の彼氏面をする、この男に対する殺意は――抑えようがないよな。

今回は、お兄ちゃん目線で書いてみました(/ω\)

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