2人だけの秘密
春奈たちとバーガーショップで別れた後、私と影近の2人は、私の部屋でRPGゲームに興じていた。
というのは、ついさっき春奈から提案のあった作戦を、さっそく今日から実行するように、彼女から命じられたからだ。部屋に影近を招いて、兄に見せつけてやりなさいということだ。
「ねぇカゲチー。ほんとにいいの? 私の彼氏のフリなんて……ほんとは嫌なんでしょ?」
「別に嫌じゃないよ」
テレビ画面から視線を外して尋ねてみても、影近は一言そう応えるだけだ。
でも私は、影近の本心をわかっていた。
「嘘。だってカゲチーってさ……春奈のこと、好きでしょ」
ズバリいうと、無表情な影近の頬が、一瞬だけピクリと反応をした。やっぱり当たりだ。
「ごめんね。カゲチーの口から聞いたわけじゃないから、本当はいいたくなかったんだけど……なんかカゲチー、ムキになってるように見えたから」
怒らせるかもしれないなと思いながらも、ここではっきりといっておかなければ、この先、いうタイミングを逃しそうだ。
表情に変化はないが、影近は観念したように、ふぅ、と1つ溜息を吐いた。
「あや、鈍そうに見えるのに、気づいてたんだ」
「ニブそうって……いやまあ、うん。私も片想い歴、長いからさ。片想いしてる人の表情って……なんとなくわかるんだよね」
「……そうか」
「だからさ。カゲチーには、こんなことさせらんないよ。春奈には、私からちゃんと断っとくから、気にしないで。今日も帰っていいよ」
けっこう長時間ゲームをやっていたせいで、日も暮れかけている。
ゲーマー仲間である、幼馴染3人組を部屋に招いたことは、今までにもあるけれど、男子の影近だけを部屋に入れたのは、今日が初めてだった。早く帰ってもらわないと、兄が帰ってきて、本当に変な誤解を受けかねない。
しかし影近は、私の意に反して、首を横に振った。
「いや。作戦は続けよう。たしかに、春奈に、あやの彼氏役をやれっていわれて、ちょっと傷ついたし……それでムキになってたところは、ある。でも、あやのために協力したいって気持ちもあるし……あやは俺と違って本当は両想いなんだから……あと一押し、なんだろ?」
「カゲチー……」
私自身まだ、作戦を決行するべきかどうか、迷っていた。でも、いつも無口な影近が、ここまでいってくれて、協力するといってくれている。私は感動のあまり、目が潤んだ。
「ありがとう……私、頑張るよ! 絶対お兄ちゃんに好きっていわせる! そしたら今度は、カゲチーと春奈のこと、応援するから。絶対するから!」
「俺のことはいいよ、別に。脈があるとは思えねぇし」
こんな面倒なことに協力してもらうんだから、当然お返しをしなければと思っていったのだけれど、影近はネガティブなことをいう。私は、どうにか影近にも幸せになってもらいたくて、ある宣言をする。
「ダメ!……そうだ! 春奈とカゲチーがカップルになるまで、私もお兄ちゃんとは付き合わない! そうすればいいでしょ」
「はぁ? やめとけって」
「もう、決めたから」
「そんなこといってたら、一生付き合えねぇぞ」
「そんなことない。カゲチーも春奈のこと諦めたりしないで、頑張ってよ」
思いを込めて説得すると、影近は、また溜息を吐いた。
「勝手にしろよ。知らないぞ、どうなっても」
「わかった。約束ね」
ここに、私と影近だけが知る、秘密の約束が交わされた。
男女の壁を越えた友情って感じで、なんかいいなーと、影近をにこにこと見つめていると、影近もそんな私を見て、軽く笑った。
「お前、すごい頑固な時あるよな。兄さんにもそれくらい強気でいけば、折れるんじゃないか?」
「強気でいってるよ。それでも駄目だから、困ってるの」
そう噂をしていると、1階から玄関の扉が開く音がした。