幼馴染と密談中
昼下がり――
無事に高校の入学式を終えた私は、小学校からの長い付き合いである、同級生たち3人とともに、ハンバーガーショップにきていた。
「……そういうわけで昨日は実況投稿できなくて、今朝早起きしてUPしちゃった」
4人掛けのテーブルに着きながら昨日の出来事を報告すると、向かいの席に座った春奈が呆れた様子を見せた。
「相変わらず過保護だねー、あやん家の人たちは。朝に1回咳しただけで"今日は外出せずにずっと寝てなさい"なんて。今日は大丈夫だったの?」
そう。昨日私がコソコソと実況を撮っていたのは、私の体調を慮るばかり、すっかり過保護になってしまった家族に見つからないためだった。
心配はいらないと再三いっても、昨日の兄のように、両親までもが過保護で、私が安静にしていないと騒ぎ出すため、おちおち趣味の実況動画も撮れやしない。私を思いやって心配してくれているのはわかるけれど、正直、心配されすぎるのにも疲れていた。
「今日は大丈夫だった……っていうか、うっかり咳しないように気を張るのが一番疲れるよ。もう……」
ドリンクのストローに口をつけながらいうと、春奈の隣に座った丸助がワハハと大声で笑う。
「まあいいじゃねーか、無事動画は上げれたんだし。俺もさっそく見たぜ。初の全殺しオメ!」
「ありがとー」
親指を立てて称賛をくれるのは嬉しいけれど、今朝上げたばかりの動画をいつ見たんだろうか。いつも遅刻ギリギリの丸助が早起きして見たとは考え難い。たぶん、入学式のあとのHRの最中にこっそり見たなと予想する。
「それよりさーあやー」
春奈の顔つきがにやけ顔に変わる。それだけで彼女が何の話をしたいのかよくわかった。
「お義兄さんとはどうなってんのよぉー? ちょっとは進展あったぁ?」
やっぱりだ。ここにいる春奈をはじめ、あとの2人も、私と私の兄が血の繋がらない兄妹であることを知っている。
それだけではなく、私が義兄に特別な感情を抱いていることも。
「ないよなんにも。相変わらずスルーされてばっか」
「えぇー? でもぉ……」
私の気持ちは、十分すぎるほど伝えてあるはずだ。にもかかわらず、兄は私がどんなに好き好きアピールをしても、いつも大人の対応で躱してくる。私のことなんて、まるっきり子ども扱い。
そんな兄の態度を思い出してそっけなく返事をすると、春奈の笑みが深まった。嫌な予感。
「でもキスはしたんでしょ?」
げほおっ! と、丸助が、フライドポテトを食べた直後にむせる。私もかなり慌てた。
「ちょっと! バラさないでよ春奈!」
「いいじゃん、別に。私ら4人の間に、隠し事はナシでしょ」
「キ、キ、キス……? あやが? そんなバカな……」
男子の前で、人の秘密を勝手にバラしておきながら、まったく悪びれる様子のない春奈と、やたら取り乱す丸助。
気になって隣に座っている、もう1人の男子を見てみると、彼は会話の内容にまったく興味がなさそうに窓の外を見ていた。あぁこれは、聞こえているのに、あえて無視する気だな。関わり合いたくないと思っているに違いない。
「白状しなさい、あや! お兄さんに"好きだよ、あや……"っていわれて、キスされたんでしょ!?」
「ちょ……っ!」
キラキラというか、ギラギラといった様子で身を乗り出す春奈は、もう止まってくれなさそうだ。丸助にいたっては、石化したかのように固まってしまった。
これ以上騒がれるのも嫌だし、もう洗いざらい話すしかなさそうだ。
「……ま、まぁ……たしかに、したよ? でもそれはお兄ちゃんが酔っ払ってた時で……」
「バカね! 酔ってる時だからこその本音でしょ? なんだかんだいって、両想いだってわかってるから、あんたも余裕あるんでしょう?」
「うっ……うーん……」
無遠慮すぎる春奈に、なんでもいいから反論したい気持ちが湧いてくるが、実際、何もいい返せなかった。
それは、すべてが彼女のいうとおりだから、なのかもしれない。
私は、ほんの数日前にもあった出来事を思い返す――
幼馴染の友情っていいよね☆