大人な義兄にアピール中
兄に、実況動画の投稿を妨害された翌朝――
今日はいよいよ高校の入学式だ。
私はいつもより早起きをして、新品のブレザーの制服を身に着けた。
そして私室の隣の、兄の部屋へといき、そのドアをゆっくりと開けた。
「お兄ちゃーん? おはよー……」
「ん? なんだあや。早いな。具合は大丈夫なのか?」
部屋を覗くと、清一はちょうど今起きたところのようで、ベッドの上で上半身だけを起こしている。
私は部屋に入って、兄のもとに歩み寄った。
「だから具合は悪くないって。それより見てよ。制服可愛い?」
軽く腕を広げてみせると、兄の視線が、頭のてっぺんからつま先までゆっくりと移動する。自分で見せておいてなんだけど、それだけでドキドキした。
しかし、可愛いよ、といわれるのを当然期待していたのに、清一はふっ、と軽く笑うだけだ。
「な、なに? なんか変?」
不安になって鏡を探すけれど、清一の部屋に鏡は見当たらない。
キョロキョロしていると、兄の優しい手が、頭にポンっと乗っかった。
「可愛いよ。でもなんていうか……まだ初々しいな。制服が浮いてる感じがする」
「えぇー……」
クックッと笑い続ける兄はそのまま立ち上がって、部屋を出ようとする。子ども扱いされたようで悔しくなった私は、兄のシャツの裾を引っ張って、彼を引き留めた。
「お兄ちゃん……」
そして兄の肩に手を置いて、背伸びをする。
「んっ……」
ゆっくりと目を閉じて、兄に顔を近づける。
すると、唇に柔らかい感触のものが当たった…………が、それは兄の唇ではなく、人差し指だった。
「……こーら、あや。お兄ちゃんにすることじゃないだろ」
「むぅ……」
拗ねたように唇を尖らせると、そのまま人差し指と親指でつままれる。
「ふっ。鳥みたいだぞ、あや」
「もーっ!」
怒って兄の腕を振り払うと、清一は気にした風もなく、そのまま部屋を出ていってしまった。
「……ばかぁ」
――私は兄に恋をしている。
普通の兄妹ならおかしいのはわかるけど、私と兄の清一は両親の再婚によって兄妹になった義兄妹だ。
単純かもしれないけど、初めて兄に会った4年前、私は10歳も年の離れた彼に一目惚れをした。
それ以来、今のような、かなり積極的なアピールをしているにもかかわらず、兄は私を受け入れてはくれない。何度スキだといっても、キスをしようとしても、大人の対応でスルーされてしまう。
「なんでよぉ……」
今朝もまた、子ども扱いだけされて、終わってしまった。
彼に私の気持ちが届く日は来るのだろうか。
「お兄ちゃん、好き」
「はいはい。ありがとな。俺も好きだよ」
「違うの。好きなの」
「だから、俺もだよ?」
「だから違うの。LOVEなの。私は」
「わかったから、あんまりくっつかないで、あや」
「なんで?」
「だってほら……親の前だし」
兄の部屋で失敗したLOVEアピールを、朝食の席でも当てつけのように続行していると、ダイニングテーブルの向かいに座っていた両親が、私たちを微笑ましそうに見ていた。
「ははっ! いいんだよ、私たちのことは気にせず続けてくれて。清一も、あんまりあやを拒絶するんじゃない。可哀想だろう」
県立病院の院長をしている父は、清一の実の父親で、実におおらかな性格をしている。
「そうよ。素敵じゃない。両親の再婚によって出会った義理の兄妹が惹かれあい、恋人同士になって、いずれは結婚……なんて。まるで少女漫画みたいじゃなーい」
おっとりうっとりした口調の母は、結婚後の今も、父の病院で看護師をしている。
両親ともに私の恋を応援してくれる、これ以上ないほどの頼もしい味方だ。
「はぁ……もういくよ」
私を咎めるどころか、もっとやれと言わんばかりの両親に、呆れた様子の兄が玄関へと向かう。
「あっ、私もいく!」
「ほんとに大丈夫なのか、あや。今日は昨日みたいに咳は出てないみたいだけど……」
「だから何ともないって。昨日だって1回咳しただけじゃん。お兄ちゃんもお母さんたちも心配しすぎ」
小さいころに、喘息でよく発作を起こしていた私のことを、兄や両親はいまだに過剰なほど心配する。でも薬をきちんと服用し続けてきたおかげで、最近は発作が起きることもめっきりなくなっている。
「……ならいいけど」
まだ完全には納得していなさそうな兄だが、私に背を向けて靴を履きはじめた。
――ここだ! 隙あり!
「んむっ!」
屈んだところを狙って口づけようとしたら、またもや唇を摘ままれてしまった。隙なんてなかった。
「ダメだろ、あや」
「……意気地なし」
最後に呟いた私の言葉に、兄の顔から余裕の笑みが一瞬だけ消えた気がした。
ここからですな( *´艸`)