実況中はお静かに
あとひとり……あと1人なのに…………あと1人が見つからない!
「あと1人で全殺しなのに!!」
そしてついに表示される残り2分の文字。ここまでか――――。
諦めかけた時、ふいに視界に人影がチラリと映る。
「今、いた……? いたっ! よし、よしっ」
慌てず、気配を消してからの高速移動。そして最後の標的へと斧を振り下ろす。
「間に合って! お願い! お願いっ」
1回、2回、3回と殴っても標的はまだ死なない。
「強すぎでしょ、まだ走って逃げてるし! お願い殺させてぇ」
殺す側のこっちのほうが涙声になりながらも、なんとか獲物に追いついて、再度凶器が相手に当たる。1度当たると、明らかに相手の足の動きが鈍くなった。
「やった、瀕死! お願い私のために死んでっ! 初の皆殺しのっ、最後の犠牲者になってぇ!」
言いながら2度、攻撃を与えるとついに相手は力尽きて地面に倒れ伏した。
そしてすべてが終わる――。
「――っ。やったー! やったよみんな! 見た!? ついに……ついに記念すべき……皆殺しですよ!」
目の前のPC画面に表示された8分の8の数字を目に焼き付ける。8人中8人を殺したという意味だ。
「1人も落ちなかったんだねー。それもありがたかったな……まあそれが普通というか、本来そうあるべきなんだけどねぇ」
話しながらチラリと録画時間を見てみると、40分に達そうとしていた。やっぱり2回戦するくらいでちょうどいいな。
「それでは! 興奮冷めやりませんが、今回はここまでということで。ご視聴ありがとうございました! バイバイ!」
ゲームの録画ボタンを停止して、マイクの電源を切る。これで本日のゲーム実況の収録は終了だ。あとは編集してエンコードして動画サイトにアップロードするだけ。
某有名映画の殺人鬼となって人間を殺していくというこのオンラインPCゲーム。始めてまだ10日ほどだけど、それなりの時間をプレイしただけあって、今日ついに難易度の高い皆殺しに初成功した。
これは記念すべき実況動画になるなーと、機嫌よく鼻歌を歌いながらヘッドホンを外すと、それを待っていたかのように不穏な声が聞こえた。
「あやちゃーん? 何してんのかな?」
ドキリと心臓が飛び出しそうになる。
振り返ると、背後には兄の清一がスーツ姿で立っていた。いつの間にか部屋に入ってきていたようだ。全く気が付かなかった。
「お、お兄ちゃん……? もう仕事終わって帰ってきたの?」
「うん、定時で終わったからね。それよりなにしてんの、あや。おとなしく寝てなきゃダメじゃんか」
言いながらこちらに歩み寄ってきて、ひょいっと抱き上げられベッドに運ばれてしまう。
「べ、べつに具合悪くないってば! それに今から動画の編集作業が……」
無理やり寝かしつけられ布団をかけられてしまうけれど、名残惜し気に机の上のパソコンに目をやると、兄もパソコンの画面を凝視する。そして眉間にしわを寄せた。
「……あや。これR18だろ。中学生がこんなグロテスクゲームの実況動画をサイトにアップしていいわけないだろう。そもそもやること自体ダメだ」
呆れた声で説教する兄の言い分はもっともだが、一つだけ反論がある。
「もう中学は卒業したよ。明日から高校生だもん」
「……いや、高校生でも駄目だから」
ぴしゃりと言い切る兄、桜川清一の職業は、ゲーム開発会社の社員。
そして私は桜川あや子。ゲーム実況歴は約半年で、明日から女子高校生……なのだが……今日中の動画投稿は諦めざるを得ないようだ。トホホ。
あれ?LOVEはどこ……?
次回からはLOVE要素を出していきたいです( ;∀;)