第五話「異世界の冒険者達」その1
元の世界では暦は八月後半。今日も今日とて巽はメルクリア大陸にやってきて狩りをしているところだった。巽に同行するのは最近パートナーとなった深草しのぶ。場所はナマジラ地方の第二二九開拓地、二人は黙々と森の中を歩いている。
二人揃っておしゃべりが苦手なため狩りの道中も基本無言で、必要がなければ特に話すこともない。それで気まずくなっているかといえばそうでもなく、互いの性格を「こういう人なのだから」と理解し、受け入れ、適切な距離感を保っている。
「高辻さんはいい子を紹介してくれたよな」
能力的な問題はなくとも性格的な相性が合わず、解散に至ったパーティの話もまた枚挙に暇がない。今のところ巽は二人だけのこのパーティに充分満足していた。しのぶの方がどうかと言えば――言うまでもないだろう。
「花園さん、あれ」
そのしのぶが何かに気が付き、前方を指し示す。巽が見たときにはもう視界から外れていたが、少し進んで巽の耳もそれを捉えた。鉄が肉を断ち切る音、人の怒鳴り声、悲鳴、モンスターの啼き声――誰かがモンスターと戦っている。
「この啼き声、吸血コウモリか!」
巽が走り出し、それをしのぶが追った。百メートル以上走ってようやく狩り場に到着する。森の中にぽっかりと開けた、木々のない広場のような場所。そこで三人の男女がいて、吸血コウモリと戦っている。吸血コウモリは二〇匹近い大きな群れで、彼等は苦戦しているようだった。
乱戦の直中に飛び込んだ巽は一瞬で三匹の吸血コウモリを始末する。
「大丈夫か? 苦戦しているようだったから手助けしたけど……」
巽の目が驚きに見開かれる。その三人が人間――地球人ではなかったからだ。重武装のドワーフの男、弓を携えたエルフの女性、それにメルクリアン――その三人も突然現れた巽に驚いているようだった。
「いや、助かったわい。なにぶん数が多くてのー」
「話は全部片付けてからにしましょうか」
巽はそのドワーフと背中合わせとなり、長剣を閃かせて次々と吸血コウモリを屠っていった。そのドワーフの得物は自分の背丈ほどもあるロングアックスだ。彼は重そうなそれを軽々と振り回し、一撃で吸血コウモリを粉砕した。さらにはエルフの放つ矢が吸血コウモリを射落とし、エルフを狙って飛来した吸血コウモリがいきなり血を噴き出して墜落する。二〇匹近い吸血コウモリはものの数分で一掃されてしまっていた。
「かなり稼げましたね」
「ああ。雑魚の群れはおいしいな」
と巽としのぶはホクホク顔だった。スキルを解いて突然姿を見せたしのぶに三人組はまた驚いた顔をしている。そのしのぶは、
「……」
「深草、どうした? まだモンスターが?」
自分達がやってきた方向へと鋭い目を向けるしのぶに、巽が問う。しのぶは首を傾げながらも「いえ、気のせいだと思います」と答え、異世界人達に向き合った。
「いや、助かったわい。地球人のお二人さん」
「ありがとうございます。助かりました」
ドワーフの男が礼を言い、メルクリアンの男もまたそれに続いた。メルクリアンは外見だけでは男女の区別が判りにくいが、しゃべれば男か女かはすぐ判る。エルフの女性は少し距離を置いて、二人を警戒しているようだった。
ドワーフの男はしのぶよりも低い身長だが縦幅と横幅が広く、まるで樽のような体格だ。顔の半分が髭で覆われていて年齢を計りがたいが、もしかしたら結構若いのかもしれなかった。エルフの女性は、おそらく二〇代前半。女性としては平均的な身長だが、非常に華奢な体付きである。弓の他に杖も持っており、エルフ全般がそうであるように魔法も得意なのだろう。
そしてメルクリアンは、特徴のない、平均的なメルクリアンのように思われた。子供のような体格に、白目のほとんどない丸い大きな瞳。鳥の翼のような奇妙な髪型。ヴェルゲランの青空市場に行けばいくらでも見かけることのできる、典型的なメルクリアンの商人だ。
巽はその三人組をじっくりとっくり眺め回し、
「……不思議な組み合わせですね」
とつい口を滑らせてしまう。が、失礼な感想を言われた方は「そう?」と首を傾げるだけだった。
「ディモンでは別に珍しくもないがの」
「確かにこのメルクリアでは珍しいのかもしれませんね」
その後、三人組は移動を開始。巽としのぶも何となく彼等に同行する。
「儂ゃボロス。こいつはファルサラ。ディモンで冒険者をやっとる」
とドワーフが自己紹介し、エルフの女性のことも紹介した。
「田舎の兼業冒険者だけどね」
ファルサラがそう補足し、巽が「兼業?」と首を傾げ、
「わたしもボロスも本職は別にあって、モンスター退治は副業で趣味みたいなものなのよ」
と補足の補足をした。
「私はカルジツァ。スカルラッティの商人です」
とメルクリアンも自分の名を名乗り、
「俺は花園巽。マジックゲート社の冒険者です」
「同じく。深草しのぶです」
と二人も簡単に自己紹介をした。
「スカルラッティということはメルクリアに拠点を移して」
「はい。まあ吹けば飛ぶような露天商なんですが」
「メルクリアの商人がディモンからわざわざ冒険者を……」
巽は探るような目を見せ、カルジツァは「いやあの」と冷や汗を流した。
「まー、そういうこともあるじゃろ。昔からの付き合いだとか」
とボロスがフォローをし、
「そいつに雇われたのは今回が初めてだけどね」
とファルサラがそれを台無しにした。
「それでも、テランの冒険者よりも故郷の冒険者の方が信用できるんじゃない?」
さらに喧嘩を売るようなことを言うファルサラだが、
「確かにそうかもしれません」
と巽はそれを受け流した。ファルサラは肩すかしをされたような顔になっている。
「いや、他意はないんです。ただ、俺達以外の冒険者って初めて見るから」
「てっきり、エルフってメイジしかいなくてドワーフって職人しかいないものとばかり思ってました」
と巽としのぶ。なお「テラン」とは「地球出身者」を意味し、種族名のように使われる名詞である。
「確かにわたしの本職はメイジだけどね」
「まー、メルクリアまで来てモンスターを狩る阿呆は確かに少ないがの」
とボロスは笑い、それにファルサラが付け加えた。
「ディモンにはテランはいないから。わたし達みたいな冒険者が必要とされるのよ」
ディモン――それはメルクリアンが元々住んでいた世界の名前である。そこに住んでいるのはメルクリアンだけではなく、エルフやドワーフといった種族もいて、平和共存している。彼等はディモンというその世界からこのメルクリアへとやってきたのだ。巽達が地球からここへとやってきたように。
「地元のモンスターを狩るだけで充分、ってことですか。または、メルクリアまで狩りに来る余裕がないとか」
「あなた……もしかしてディモンにモンスターが溢れかえっているとでも思ってるの? ここみたいに」
違うんですか?と巽が首を傾げ、ファルサラは深々とため息をついた。
「そんなわけないでしょう、この世界は異常よ。ちょっと歩いただけでモンスターをすぐ見つけられるなんて」
そんな話をしている先からオウド・ゴギーが姿を現す。そのモンスターは速やかに巽の剣にかかり、露となって消え去った。
「……本当におかしいわ、ここは」
ファルサラはつくづくと首を振った。
「確かに不思議な話ですよね。何万っていうマジックゲート社の冒険者が毎週モンスターを狩り続けているのに」
「モンスターは魔力があれば自然と湧く。この世界は異常なほどに魔力に充ち満ちているのよ」
巽は「そうなんですか?」と続きを促し、ファルサラは得々と説明した。
「モンスターが生まれる条件は三つ。充分な量の魔力と、何か苗床となるものと、モンスターの種子となっている『何か』。例えばこの世界のように魔力に満ちた場所に、テランなりドワーフなりの死体が転がっている。そこに『モンスターの種子』が根付けばゾンビ兵っていうモンスターが生まれるのよ。毛虫に根付けばさっきのようなオウド・ゴギー。狼に根付けばル・ガルーみたいな人狼系モンスター」
なるほど、巽が真面目に頷き、ファルサラは気分を良くした。実際のところ、この程度の知識は巽やしのぶにとっては既に講習で受講済みであり、常識に属することである。だが彼女達は初めて親しく話をする異世界の人間であり、あるいは巽達の知らない新しい知識を何か持っているかもしれなかった。
「モンスターの種子は目に見えないけどそこら中にあって、タンポポの綿毛のように飛び回っているものと考えられている。その正体が何なのかは諸説あるけど、有力なのは『人間系種族の負の感情』。恨み辛み、憎悪、恐怖……そういった負の感情が種子となっているのだと。負の感情が世界の壁を越えて、この世界に流れ込んで、モンスターを生み出しているのだと。ディモンだけじゃなく他の様々な世界から、地球からも負の感情はこの世界に流れ込んでいると考えられている」
「元の世界では伝説でしかなかったモンスターがこの世界に実在しているのは、そういう理由なんですね」
としのぶ。聴衆の良好な反応にファルサラはますます絶好調となった。
「憎悪や恐怖といった負の感情が元になっているから、モンスターは人間系種族を見ると自動的に襲ってくる。その分こっちも遠慮せずに狩れるけどね。でも例外もあって……例えばドラゴンとかは自然災害に対する畏れが種子となって生まれたモンスターとされていて、無闇に冒険者を襲うことはない。他にも高い知性を獲得した結果、人間との共存を選んだモンスターだって大勢いる」
へえ、と感心する巽。それは初めて聞く話だった。
「見たことないですけど、メルクリアにもそういうモンスターが?」
「いるわけがない」
とファルサラが苦笑し、巽達は不思議そうな顔をした。
「この世界にはテランがいますから」
とカルジツァが独り言のように言い、ボロスが深々と頷いて同意する。巽としのぶは疑問を深めるばかりである。
「ヴァンパイアなんかがその典型だけど、高い知性を獲得したモンスターのレベルは最低でも三桁から始まって、何百年も生き続ければ四桁にもなる。さらに力を蓄えればドラゴンに次いで強力なモンスターとなる。そのレベルを狩れる冒険者って、わたし達の世界にはほとんどいないのよ。三桁を狩れればちょっとした英雄、四桁を狩れるのは世界的な英雄。五桁、つまりドラゴンを倒せるのは歴史的な伝説の英雄――そういう扱い」
「じゃと言うのにテランときたらまあ……!」
とボロスは首を振って絶句した。巽としのぶは顔を見合わせている。マジックゲート社の規定では、レベル三桁と普通に戦えるなら青銅クラス、四桁なら白銀クラス。そして日本国内だけで、青銅は一一〇〇人、白銀は百人を数えている。ドラゴンを倒した黄金クラスは日本には四人、全世界では一二人だ。
「彼等はディモンでだからこそ人々に畏怖され、大物として振る舞える。でもこの世界では、テランの前ではただのいい獲物でしかありません。彼等もそれがよく判っているからこの世界には決して来ようとしないのです」
「いやあの、マジックゲート社の冒険者は問答無用でいきなり狩ったりはしないですよ? 相手に知性があるならまず意思の疎通を試みることって、規則で決まっていますから」
困ったように言う巽に対し、カルジツァは小さく笑って見せた。
「テランを信用していないわけではありません。そもそも我々に危害を加えるような者は世界を越えることはできませんから」
新世界をメルクリアンの楽園とするため、彼等はこの世界への入国管理を徹底していた。魔法を使って人間性を測定し、犯罪者やその予備軍、その他不穏分子には往来許可を与えず、入国を水際で防止しているのだ。マジックゲート社の冒険者はまず試験の段階で不穏分子を不合格にしているし、エルフやドワーフ、そしてメルクリアンであろうとこの人格測定を免れる権利は誰一人持っていなかった。
「ですが、テランには他種族を圧倒して余りある力がある、多種族からそのように見られている――その点について、あなた達は自覚した方がいい」
カルジツァの指摘に巽は「はあ」としか言えない。レベル一〇のモンスターにも苦戦する今の巽にとって、青銅や白銀がどれだけ高い評価をされようと、怖れられようと、そんなことは他人事に過ぎなかった。
「それはメルクリアンも同じじゃぞ?」
とボロスがからかうように言い、カルジツァが気まずそうな顔となる。首を傾げる巽達に対し、ファルサラが解説した。
「メルクリアンってディモンじゃ大した力を持っていなかったのよ。エルフには魔法があって、ドワーフには職人技術と戦闘力がある。メルクリアンが商売をやっているのも他にできることがなかったからだし」
「差別や迫害があったわけではありませんが、やはり下に見られていたのも事実でした。我々メルクリアンがエルフのメイジの協力を得、多大な時間と労力をかけて別の世界を探し求めたのも、我々だけで生きられる世界がほしかったからです」
とカルジツァが補足する。
「それでようやく見つけたのがメルクリアだと」
「はい。新世界を発見するにあたり我々の功績が多大であることが認められ、新世界には我々の名前が冠され、我々に占有権が与えられました。……ですが」
「見ての通りメルクリアは強力なモンスターが無限に湧き出す人外魔境。戦闘力のないメルクリアンにとっては宝の持ち腐れよね」
ファルサラは辛辣な物言いをするがカルジツァはそれを否定しなかった。
「発見から何百年もの間、我々はこの世界のごく小さな拠点を維持するので精一杯でした。――ですが一〇年前、我々の苦労がようやく報われるときが来たのです」
とカルジツァは顔を輝かせて拳を握り締めた。
「『黄金のアルジュナ』との契約ですね」
「はい。『黄金のアルジュナ』自身もそうですが、彼が引き連れてくる何千何万というテランの冒険者達……彼等は恐ろしいほどの勢いでこの世界のモンスターを狩っていきました。我々は彼等の協力を得てこの世界に町を築き、この世界に定住することができるようになったのです」
「それと同時にボロ儲けをするようにもなったのよね」
ファルサラの指摘に巽は「ああ」と理解の声を出した。
「やっぱり滅茶苦茶儲けてるんですか、メルクリアン」
ファルサラは「もちろん!」と力強く断言する。
「いえ、ですが……そもそもテランをこの世界に招き入れるのも魔力や魔核なしではできませんし、その他様々な便宜を図り、転移の魔法陣を各地に設置し拠点を整備し、マジックゲート社との契約に基づいて錬金術を使い……支出も非常に大きいのですよ?」
「収入はそれ以上に、でしょう?」
「それを言うなら、メルクリアンに雇われて魔法を使っておるのはお主等エルフじゃろう?」
ボロスの指摘にファルサラは、
「ええ、そうよ! わたし達もボロ儲けだわ!」
と偉そうに胸を張った。
「あんな、子供の遊びみたいな錬金術に何十万メルクも出すんだから『黄金のアルジュナ』の気が知れないわ……何だっけ、ホーシャノー? それってそんなに厄介なの?」
「ええ、もちろん」
巽が硬い表情で頷く。ふうん、と頷くファルサラだがいまいち理解が及ばないようだった。
――アルジュナ・ソムナート・バンキムチャンドラが設立したマジックゲート社はメルクリアへの冒険者派遣業を事業の中心に置いている。地球で集めた冒険者をメルクリアに送り込んでモンスターを狩らせて魔核を回収させ、回収した魔核はマジックゲート社が一括買い取りしてメルク金貨と交換。冒険者はそのメルク金貨を手にして市場に行って、武器や装備を買い揃え、より高いレベルのモンスターに挑んでいく(なおその武器や装備を作っているのは主にドワーフの職人である)。
冒険者から回収した膨大な量の魔核はメルクリアンとの取引に使われる。ディモンにおいて魔核は様々な魔法の触媒となり、燃料となり、通貨代わりにもなる。メルクリアンは金貨で頬を叩くようにしてエルフのメイジを集め、マジックゲート社との契約に基づいて錬金術を使わせるのだ。
マジックゲート社は地球の各地に特殊な倉庫を有している。外装に強化プラスチックと炭素繊維、内側に特殊発泡素材を使用したその特製倉庫は、巨大な「シュレディンガーボックス」だ。「シュレディンガーボックス」は世界の壁を越えて情報の往来を可能とするがそれだけではなく、情報の書き換えも実現する。世界に刻まれた情報すらをも書き換え、ただの土くれに魂を憑依させて人間と化すことも不可能ではないのなら、世界を越えて錬金術を使い、鉛を黄金に変えることも容易いだろう――
マジックゲート社はこの錬金術を活用することで地球側で現金収入を得ているのだ。とは言っても本当に鉛を黄金に変えているわけではない。エルフの魔法ならそれも不可能ではないが必要な魔力・魔核も膨大であり、費用対効果があまりに悪すぎる。卑金属を貴金属に変えるのでなくその逆で、貴金属を卑金属に変えるのならもっとずっと簡単に、手軽に安価にできることだが、普通そんなことをしても何の意味もない。だがそこに意味を見出したのが「黄金のアルジュナ」の慧眼だった。
アルジュナはイギリスが有する原子力発電所、そこから排出された高レベル放射性廃棄物に錬金術を掛けさせ、これを無害な鉛に変換したのだ。
以来一〇年、マジックゲート社はイギリス・フランス・ドイツ・日本に拠点を有し、世界中から集められた放射性廃棄物を鉛に変換し、年間何百億ドルという収入を得ている。メルク金貨をドルに換金して冒険者に支払われる報酬など、そのうちのほんのごく一部に過ぎなかった。
「まー、メルクリアンや冒険者に儲けさせてもらっておるのはドワーフも同じじゃが」
とボロス。巽の意識はこの場所へと戻ってくる。
「儂等の儲けなどメルクリアンからすればほんのおこぼれに過ぎん。その上メルクリアンはテランの冒険者と直接つながっておるからのー」
「メルクリアンがテランの冒険者をディモンに連れてきて、暴れさせたら――エルフやドワーフはそれを警戒しているわ」
巽としのぶは唖然とし、しばらく何も言えないでいた。
「……いや、そんなの……あり得ないでしょう?」
「近い将来それが起きるって心配しているわけじゃない」
声を裏返す巽に対し、ファルサラは宥めるように手を振った。
「確かに、今まで小さくしていたメルクリアンが大手を振って歩いておるのを気に食わん者もおる。じゃがメルクリア特需で潤っておるのはエルフもドワーフも同じじゃからな。そこまで深刻な対立があるわけではないよ」
「でも、あいつ等は今まで持っていなかったそういう手段を持つようになった、そういうこともできるようになった。これからは警戒する必要もある――それだけのことよ」
「はあ……ですけど」
と理解はしつつも、巽は一言なしではいられなかった。
「いくら恩義があったとしても、メルクリアンのためにエルフやドワーフと戦おうって考える冒険者が一人でもいるとは思えません」
巽の宣言に対し、カルジツァは「それはそうですよね」と苦笑した。
「メルクリアンとテランが友好関係にあると言っても、私にはテランの友人などいませんし。せいぜい買い物に来たテランに物を売ったことがあるくらいです」
「そりゃ、メルクリアンは商業種族……」
自分の言葉に触発され、巽はある重要な点を確認していなかったことを思い出した。
「カルジツァさんはどうしてこんなところに? 冒険者を二人も雇って、こんなモンスターのうろつく森の奥まで」
「そう言えば説明していませんでしたか」
とカルジツァは笑う。
「私はある筋から情報を得たんです。この森に未調査の遺跡があると」
「こんなところに?」
と巽は疑わしげな声を出す。この森は低順位冒険者向けの狩り場として推奨された森であり、この何年もの間無数の冒険者が狩りを続けてきた場所だった。
「ええ、洞窟の奥に。洞窟自体も最近出てきたものだそうで、そのせいで今まで見つからなかったのでしょう」
巽は「なるほど」と頷く。
「それじゃ遺跡には学術調査で」
「いえ、何か金目の物があるかもしれないと思いまして」
とカルジツァは明け透けに言い、少しの間巽を呆れさせた。
「この一〇年メルクリアンは特需に潤っていますが、全員が余裕のある生活を送っているわけではありません。私のような零細商人は可能性は低くとも、危険は高くとも、このような一発逆転の目に賭けなければ……!」
カルジツァは思い詰めたような顔をし、それを巽達へと向けた。
「テランの冒険者、どうか協力してもらえませんか? もし何か充分な成果が得られたなら、お二人にもちゃんと取り分をご用意します。何も得られずとも、謝礼はお支払いしますから」
巽としのぶは顔を見合わせ、こそこそと二人で相談した。そして、
「ええっと、お話は受ける方向で考えますが、レベル一五以上のモンスターが出てきた場合は絶対に撤退するということで」
「はい。それはもちろんです」
さらにボロスやファルサラとも情報交換・相談・交渉をし、巽達は四人で臨時パーティを組むこととなった。回収した魔核は四人で均等配分、カルジツァからの報酬も四等分とすることで決着する。
「それじゃ進みましょう。遺跡まではもう間もなくです」
話がまとまり、四人の冒険者と一人の商人は探索を再開した。




