激怒
僕はベッドに座ると目を閉じて、無言で術式を組み立てる。今は失われし、神代や古の時代に使われた術式を……。この魔法は、古代魔法と言う。
今の魔法の原点であり、基礎となったもの。魔法特有の波動を、起こさないため相手の姿を目視しなければ対応できない。僕を中心に、魔方陣がいくつも広がる。知ってしまえば、とても辛いだろう。でも自分の知らない所で、大切な人達を失うのはとても怖い。もう、前世と同じ事は嫌だ。
前世では、僕が学校に行ってる間に両親どちらも死んでしまった。あの、優しい弟さえも……。
だから、僕は複雑な感情を抑え込み真実に手を伸ばす。怖くても、失いたくないから……。
「さて、始めますか……。[探れ]。」
静かに呟く。たくさんの情報が、映像とともに僕の中に入って来る。頭が、割れそうだ……。痛みに耐えられず倒れる。悲鳴を押し殺し、痛みが引くのを待つ。ううっ、クラクラする……。
でも、見えた……。これは、どうするべきだろう。見えたのは、昨日の夜の会議の内容とかそれから決まった事全てだ。そして、レン達とロゼ……それにバナルドはもうここには帰って来ない。何故なら、国から最前線での活動を命令されたからだ。本来なら、隊長である僕も行くべきなのだが国はそれを許さなかった。そして、タイミングよく僕が倒れた訳だ。そして、さっきのは最後の別れを言うように命令されて皆して来たわけだ。涙が流れる……。本当に、どいつもこいつも……。腹が立つ!
大きくため息をついて、軍服に着がえる。今から行っても、間に合わない。でも、見えた景色と資料から敵が使う武器は分かった。
「何処に行くつもりだい?」
「司令室に、マイクを貸して貰いに。」
僕の声音で、全てを察したのかため息をついて先輩は頷くとついてくるように言う。
「なっ!何しに来た。寝てろよ……。」
皆、驚いてこちらを見ている。
「黙ってください。人に隠れてこそこそと、勝手に進む愚かな馬鹿どもに伝言をしないと。」
その口調に、皆気づいてしまう。あぁ、激怒してるな……。恐ろしさに、固まる国と軍の幹部。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「さて、もうここは敵地だ!進め!」
『止まれ!』
その声に驚いて、全員止まる。
「ファイ……?」
レンが、驚いて声の主の名を呼ぶ。
『本当に、腹が立つ……。それ以上前に出るな、無駄死にしたくないならな。』
「えっと、ファイ君?」
『後50メートル先に、地雷原がある。』
「地雷原?」
『異世界の、凶悪な殺人兵器である地雷が周囲に埋め込まれた土地だ。人が、簡単に死んでしまうな。運良く生き残れても、腕や足は確実に吹き飛ぶ。そこを、あんたらは進もうとしてたんだ。』
皆、青ざめている。後ろに下がり、話をしようと態勢を整える。それにしても、言葉が荒い。
「もしかして、作戦内容を知ってるの?」
『だから何?知らなかったら、皆地雷原に突っ込んで死んでる頃だと思うけど?』
「えっと、内容は届かないようにしてたんだけどなぁ。どうやって、知ったの?」
『そこは、転生者を舐めるな。とだけ言わせて貰う。そっちも、秘密にしてたんだし教えるギリは無い。それとも、お得意の命令でもします?』
あちゃー、かなり激怒してるな。ファイを知ってる数人は、そんなオーラを纏っている。
「それは、しない。と言うか、怒らないでくれるか?とりあえず、話を……」
『いったい誰が、その原因を作ったんですかね。僕は、悪くないと思いますが。』
「そっ、その件は後で……。」
『いいでしょう。それで、質問は?』
「空を飛べばいいんじゃね?」
『なるほど、そして狙い撃ちされて下に落ちて地雷でドカーンですか?』
沈黙が起きる。確かに、あり得る話である。
『だいたい、空を飛んでくるのを予想してないとでも思っているんですか?すぐに思い付くくらいですから、対策もワンパターンだけじゃなくたくさんあるに決まってるでしょう。』
なるほども、エリート達は頷く。
「場所が分かるのらば、躱せないだろうか?」
『それこそ、地面に攻撃されたら死にますよ。』
「…………。」
「なら、どうすれば良いんだよ!」
『もう少し考えてください。』
「どうせ、何も無いから言ってんだよ。」
クスクス笑う数名。エリート達は、青ざめた。あの声音からして、確実に知ってると理解していたからだ。プツリ……。マイクを切られた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「えっと、もう良いのかい?」
「助ける価値が無い。」
冷たい声音で、無表情にマイクを置いて出て行こうとするファイ。ちなみに、その声は先輩のマイクから戦場に流れていたのだが。
「でも、戦場には君のお父さんや友達が……」
「僕は前世、学校に行ってる間に両親がただ1人の弟を巻き込んで心中しました。」
皆、驚いてざわめくが耳をすませる。
「僕は、自分の居ないところで勝手に死んでしまった両親を今でも恨んでいます。なのに、こっちに来てまた同じ事をされようとしてる。」
「ファイ君……。」
「助ける意味ある?死にたきゃ勝手に死ねば良い。この世界にとって、命はそんな軽いものなんでしょ?僕は、悲しかったよ。」
そう言うと、さっさと部屋から去っていく。




