少年の悩み
「はぁ……。」
何度目のため息だろうか。夢という言葉が、最近は信じられずにいた。毎日のように、ファイは素晴らしい軍人になるのだと暗示のように言われる日々。はっきり言おう、疲れてしまったのだ。憧れや、夢を持つことを………。
教師になりたい。1度だけ、父親ロゼと周りの人々に言ったことがある。それだけで、周りの人のほとんどが怒り説教をした。ロゼは、優しい笑顔でしたいことをすれば良いと応援してくれたが。そんなロゼも、忙しい為にほとんどそばにいられない。少し、悲しかった……。
僕は、いつの間にか泣いていた。けど、この涙が届く事は無い。胸が苦しい……。理解してくれない大人達。いや、理解したくないのだろう。自分達の、理想や思想を押し付けるだけ押し付けて。
僕は、家から飛び出して森の中を走り続けた。何で、こんな世界に生まれ変わったのだろう。この世界で、生まれて初めて転生させただろう神を呪った。そもそも、神に会ったわけではないので怒りや悲しみをぶつける事さえ今の僕には……。
「おい、坊主。そんなに走ってどうした。」
肩をいきなりつかまれ、勢い余ってこける。
「うわっ!痛っ……。」
「悪い、坊主。擦りむいちまったな。」
心配そうに、僕を見てる。僕の表情を見て、言葉を失うおじさん。僕は、今どんな表情をしているのだろうか。自分が、よく分からなかった。
「ごめんなさい、急いでいるので。」
「まて、坊主。なんて顔してんだ、お前は…。」
僕は、涙をぬぐいおじさんを見つめる。
「わかりません、自分の今の表情が……。」
「ここが、痛ぇのか?」
自分の胸を拳でたたいて言う。
「だっ、大丈夫です……。」
駄目だ。また、泣き出してしまう。
「我慢しなくて良い。」
僕は、涙をまたぬぐい無理矢理な笑みを浮かべて首を横に振る。もう、僕の心は壊れたのかも知れない。本心を、無意識に隠そうとしている時点で確定だな。内心、苦笑を浮かべる。
「……そうか。」
おじさんは、静に僕を見ると家に今度遊びに来ると言って走りだした。何、急いでるのかな?
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
軍本部第七小隊の部屋。
「よう、ロゼ。久しぶりだな。」
「リンドさん。珍しいですね、ここに来るなんて。どうかしたのですか?」
キョトンと首を傾げるロゼ。
「おまえ、最近は家に帰ったか?」
「いいえ、忙しくって。帰りたいんですけどね。なかなか、帰れなくって。」
ため息をついて、リンドをみる。
「そうか。でも、ちょいと無茶してでも帰ってやんねぇと人としてお前の息子は壊れるぞ。」
その言葉に、ロゼだけではなく同じ隊のメンバーも驚きリンドを見つめる。
「ファイに、何かあったんですか……。」
「それがな、ひどく辛そうな癖に無意識に隠そうとするんだよ。あの歳のガキが、本心を隠そうとするんだぜ。心配でならねぇ。」
リンドは、複雑な表情をしてファイの表情を思い出す。もう、少し手遅れかと不安になる。
「そう、ですか……。」
心配そうに、考える仕草をするロゼ。
「その顔だと、坊主をあんな顔にさせた奴らを知ってるな。教えてくれよ。」
「結果的に言えば、僕のせいですかね。」
苦々しく、呟くように言う。
「どう言うことだ?」
「妻が死んで、1人であの子を育てないと行けなくて仕事を頑張りすぎた結果ただでさえエリートだったのに忙しくなってしまって。家に、ほとんど帰れない状態にもなって……。周りは、そんな僕を褒めたたえファイもそんな軍人になるのだろうと決めつけるようになりました。」
すると、副隊長のロイが思い出すように言う。
「確か、1度だけファイが自分の夢を言ったことがあったな。そんときも、怒って勝手に説教を始めるし。それ以来、ファイの奴、夢を言わなくなってしまって。たぶん……。」
「なぁ、あのガキの夢ってなんだ?」
「教師になりたいらしい。」
皆して、黙り込む。
「もしかしたら、僕のいない間に周りの人々にいろいろ言われて……。」
「限界なのかも知れねぇな。まだ、8歳だろ?夢や憧れを、持っててもいい年頃じゃねぇか。それを周りの奴らのせいで……。」
ロゼは、複雑な表情をして時計を見る。
「1度、帰ろうと思う。ロイ、後は頼んだ。」
「任せろ。俺達も、ファイのことは心配だ。」
頷くと、リンドに頭を下げて出て行く。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
さて、夕ご飯を作らなきゃね。はっきり言って、食欲は無いんだけど。でも、食べないと周りがうるさいから……。ため息を吐き出す。
結局、また周りを気にしないと行けないのか。思わず、唇を噛んで感情を押さえ込む。
ピンポーン~♪
チャイムが鳴ったので、急いで玄関に行く。
「ただいま、ファイ。」
優しいロゼの笑顔。嬉しくて、思わず笑顔で抱きついてしまう。前世の記憶はあっても、やはり精神的には8歳なのだから仕方ない。
「お帰りなさい、お父さん。」
ロゼは、優しくファイを抱きしめた。