今日も婚約者に罵られています
続き物、前作でお茶会、その後日、二人でお出掛け(デートとは言ってない)の御令息視点。
なんか、変態とヤンデレがへたれに混ざった気がしないでもないけど気のせいです。
立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合に花
そんなことわざが似合う僕の婚約者は、僕を嫌いだという。毎日最低一回。いろんなところで。
今日は2人だけのお茶会で。ほら。
「ねえ?」
「ん、なに?」
「嫌い 」
でも、そういう彼女はいつも寂しそうだ。
寂しそうに哀しそうに、でも確固たる意志を持って僕を嫌いだという。
それが、どうにもこうにも僕を想ってくれてるからだと知っているから。
「うん、知ってる 」
僕は微笑ってしまうんだ。
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街をふらふら二人で歩く。
無論、こういう行為がデートというらしいことぐらい知っているけれど、悠人を嫌いだと公言して憚らない彼女にそれを言うのは野暮だというものだ。
「婚約者だから、仕方なく一緒なだけ 」
「うん 」
「だから、きちんとエスコートして 」
学校ではお淑やかな令嬢然としているのに、本当は面倒臭がりで無表情がデフォルトな彼女。そんな、我が婚約者が上目遣いで少し困ったように見上げられたら、
たまらない。
「はいはい、わかってますよ 」
悠人は彼女に甘い。甘すぎるくらいに。
だって好きだから。
「はい は一回 」
「あーい」
ついでにちょっと毒舌なところも好きだ。だからと言って、彼女の言う どえむ ではないんだけれど。
へらりと微笑って見せれば、少し不機嫌そうにむくれるところとか、たまらない。
目的の店に入る。
可愛い雑貨が多いその店は彼女のお気に入りだったり。好きなモノに囲まれてるおかげで少しだけ口角が上がっていて、それが堪らなく可愛いと思う自身。
末期だな
そう、呟いて悠人は苦笑いする。
「なに? 」
「いんや、なんでもないよ?どうしたんだい詩織?」
「別に」
ふいとそっぽを向かれる。
でも、視線は気になった人形に向けられたまま。
欲しいのか。
悠人が?それとも彼女が?
何を?
「人形、欲しいのかい?」
「.....、別に」
正直に言おう。悠人は彼女が欲しい。彼女の全てが欲しいと思う。
たとえ、政略結婚でも。
たとえ、彼女が恋愛結婚を望んでいたとしても。
でも、その反面、守りたいと思う。
その、不器用な優しさを。不器用な愛を。
「んじゃ、買おうか 」
「.....いらない。借りは作りたくない」
「そうか.... 」
「他見てくるから、あなたも他見てて 」
「はいはい、わかったよ 」
悠人は時たま、思う。
「はい は一回 」
「あははは、はい」
この人形みたいに、欲しいものが簡単に手に入ればいいのに。手に入った、それでハッピーエンドになればいいのにと。
「すみません、これください。あ、包装お願いします。」
彼女が見ていない隙に、こっそりと人形を買えば、ずっと見ていたであろう店員は二マリと笑って畏まりました言った。
その後、可愛い雑貨の店で男がモノを買うとはなんという変態だ、なんて愛しの婚約者に言われたのは言うまでもない。
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「はい、これは君に 」
「......?!これ... 」
デートの最後に、彼女にプレゼント。それはきっと定番、いや少女たちの憧れなのだと悠人は思う。
少し強引にブツを押し付け、へらりと微笑う。
「きっと、好きだろうからね。前のクッキーのお返しだ 」
お世辞にも美味しいとは言えなかったけれど、嬉しかった。どんなモノよりも。
「........ 」
少し、目を見開いて、その後ちょっと頬を赤く染めて、俯向く。それで、小さな声で ありがとう と彼女はつぶやいた。
「どういたしまして」
にまにましそうになるのを、抑えてそう言って微笑えば、彼女はなぜかむくれた。
「やっぱり、嫌いだよ 」
その声が、どうにもそう聞こえなくしているのはきっと気のせい。まだ、気のせいだと悠人は思うことにしている。
だから、笑って言うんだ。
「うん、知ってる 」
黒崎家の王子様は今日も元気に婚約者に罵られています。
「そういえば、どうしてスグ渡さない?」
「ほら、最後の方がなんかかっこいいでしょ?」
「嘘 」
「うぐっ.....タイミングがつかめなかったんだよ 」
「へたれ、やっぱり 嫌い 」
「あははは、へたれはひどいと思うよ 」
FIN.
互いに好きだと、うすうす分かっていても、次に進めない、進みたくない。今の関係が暖かいから。そんな感じ。