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一億総優勝賞金化計画

作者: 明石竜

「明日から始まる文化祭で、急遽クイズ大会を行うことにしましたー」

 お昼休み、校内放送を通じて俺達のクラスの、地理担当の先生が告げた。

 その先生は東京生まれの東京育ち。そしてなんと東大卒。高校生の頃は全統模試で常に全国上位三十番以内にはランクインしていたという、秀才肌の若い女の先生なのだ。そんな彼女が二学期から、徳島にある俺たちの高校に突如赴任してきた。本人によると、マチ★アソビに手軽に参加しやすいからと、自ら希望してきたのだとか。ちょっと変わり者である。

「優勝賞金はですね……」

 その言葉に続いて、信じられないようなことが告げられた。

「一億円、差し上げまーす」

『えっー!?』

 当然のごとく、クラスメイト達から驚きの声が上がる。たぶん他のクラスでも同じことが起こっているだろう。

「みなさーん、きっと冗談だと思ってるでしょ? けど本当よ。東大卒の私が言うんだから信じてね。出場希望者は明日の正午までに運動場に集まってね」

 そんな超大金まずありえないだろ、といった面持ちの生徒達に対し、先生はさらりと言い張った。

 俺は即効で出場を決めた。俺は、進学校であるこの学校の中では成績下位層に属するのだが、意地を見せてやる! こんな千載一遇のチャンス逃すわけにはいかない。

 

 文化祭当日の指定時刻、グラウンドにはやはり長蛇の列が出来ていた。全校生徒912名の、3分の1くらいはいるのではなかろうか。

 この場に来ていないのは、あんなの絶対嘘だろバカらしい、と端から信じてないやつか模擬店などの出し物で手が離せないやつかのどちらかだろう。


「第一問、四国で一番高い山は石鎚山である。○か×か?」

 あの先生によって問題文が読み上げられ、生徒達はどちらかの記号が記された場所へと移動する。

「正解は、○です」

 俺はもちろん正解。一問目で出場者全体の5分の1くらいは脱落した。ていうか脱落者が出るのかよ、これで。どうした進学校。

「第二問、数学の問題です。cosθをθで微分するとsinθ。○か×か?」

 理系クラスに所属しているにも関わらず、数学が大の苦手な俺でもさすがにこれは分かった。正解は×。ここでさらに5分の2くらいが脱落する。数Ⅲ習ってないとこの問題は少し厳しかったか。



 十問目まで来ると人数がかなり絞られ、残っているのは俺含め二十名ほど。以降の問題からは早押し対決となった。先に三問とったやつが優勝。ただし一問でも間違えると即失格というルールも課せられた。


 俺は十八問目で、リーチにかかった。

「第十九問、オーストラ……」

 そこでポーンとボタン音が鳴る。今度は他のリーチがかかったやつに先に押されてしまった。

「エアーズ・ロック」

 その約三秒後、ブブーと不正解音が鳴り響く。

「残念、二年五組の美馬清君、失格」

 自信満々に答えたそいつはがっくり肩を落とした。危ねっ、俺もそう答えるつもりだった。やつには悪いが大変感謝したい。

「はい!」

 再び優勝チャンスの巡ってきた俺は勢いよくボタンを押した。これが不正解ならきっと、あれだ!

「マウント・オーガスタス」


 七秒ほどの沈黙の後。


「正解! 世界最大の一枚岩の名前、よく知ってたね。優勝は三年一組、埴渕孝君」

 ピコピコン♪と正解音が鳴り、先生はにっこり微笑みながら告げた。

(俺、優勝したんだ……)

 俺の唯一の得意科目、地理の問題が大部分を占めてたのが幸いしたか。成績上位層のやつらは出てなかったんじゃないのか。超難問ってのも無かったし、こんなにあっさり優勝してしまっていいのだろうか?

 俺は喜びよりも、賞金額から恐怖心が沸いてきた。


「高校生クイズに出場してた頃を思い出しちゃったわ。優勝おめでとう! はい、一億円よ」

 先生は財布からお札を一枚取り出した。それを目にして、俺は脳裏に何かがよぎった。

 お札の真ん中には、日乃出幸運券という文字が小さくプリントされ、そのすぐ下に壱億円と大きく太めの文字、この字の両側には白黒肖像画と、100000000という数字がプリントされていた。これは――。

「先生、これって引換券ですか?」

「えっ!? 現金の一億円札よ。そのまま使えるんでしょ?」

 先生は目を丸くしながら俺に訊いて来た。

「あのう、おもちゃのお金だってことは、知って、いますよね?」

 俺は恐る恐る尋ねてみる。

「うそーっ!? おもちゃだったの? 一昨日、駅の売店でこのお饅頭買ったら入ってたの。六三〇円のを四箱買って、全部に入ってて四億円も手に入ったから、みんなにもお裾分けしようと思って……大金持ちになれたと思ったのにーっ」

 すると先生はバッグの中からその商品箱を取り出し、嘆きの声を漏らしながらえんえん泣き出した。

 それは、徳島名物”ぶどう饅頭”の箱の中におまけで入ってある、知る人ぞ知るあの一億円札だったのだ。まさか先生、本当に使えるものだと思っていたとは……やはり変わり者である。

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