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大陸の精霊司の軌跡  作者: ドアノブ
三話 第二工房の日常
13/26

改善案


   7


「装備が全然っ、駄目だ!」


 全身を気怠い疲労感に覆われながら〈アルテナ〉から降りてきたセルジュは開口一番、忌憚なき不満を顕わにして言った。

 時刻は日が傾き始めた頃。

 セルジュが〈アルテナ〉で初めての模擬戦を終えてから五日後のことである。

 今日も予定されていた規定回数の模擬戦を終えて〈アルテナ〉を格納庫へと収納したセルジュは、見るからに不機嫌そうであった。周囲では工房の職人達が蟻のように集まって、精霊機や模擬戦で使った武器の点検、整備を始めている。


「なあに? もしかして負け惜しみかしら、セルジュさん?」


 〈アルテナ〉同士による模擬戦が始まって以来連戦連勝を続けているエナーシアは空前絶後の機嫌の良さだ。朝の手合わせで負けているからその鬱憤晴らしも兼ねているのであろうことは想像に容易い。 


「……そういうことじゃないっての」


 対照的にセルジュは不機嫌そうに顔を顰め、


「精霊司なんてそれぞれ扱う精霊の形状が違うんだ。剣と盾がオーソドックスで汎用性が高いって言うのは分かるけど、それに固執して質を落としたんじゃ意味が無いだろ」


 二等精霊司と一括りにしても、精霊と先天色によってその性質には差が存在している。二等精霊司用の精霊機だからといって〈アルテナ〉の装備を一律にしてしまうのは下策だろう。

 例えば前線でセルジュが纏めていたのは先天色が赤で統一されていた部隊であったが、その身体能力の高さを生かした運用をしていた。故に重たい鎧などを纏うことは無かったし、盾などの嵩張る防具を用いる者も殆どいなかった。

 セルジュの話を真剣に聞いていたフォルスは少し悩むように首を捻る。


「ううん、君の言うことは分からないでもないが……整備性の兼ね合いもあるからね」

「別に一人一人に正確に合わせなくても、ある程度は分類分けできるだろ? 二等精霊司の精霊の詳細情報は軍本部でも管理してるはずだし」


 平民から生まれた二等精霊司も含めて、その存在の報告が王国では義務付けられている。常人から外れた力を持つ精霊司とは国の財産であり宝だから、というのがその名目ではるがそれが全部とはいえない。端的に言えば例え二等精霊司といえども放置するには危険な存在だからだ。精霊司の悪用ほど質の悪いものはないし、悪意は無くとも使い方を誤れば第三次に繋がることもある。実際、農民の幼い二等精霊司が山火事を起こした話などは存在する。

 その為、十を超えた時点で訓練校への参加も義務なのだ。精霊司の力の使い方を教える意味もあるし、国としては内側に抱え込みたいのだから都合が良いのである。


「折角実戦経験を持っている二等精霊司を精霊機に乗せるんだ。〈アルテナ〉をそれが生かせないような機体にするのはもったいなさすぎる。それに使い慣れた武器を扱えれば訓練過程も縮められるんじゃないか?」


 無論、これはあくまで現状を踏まえての話だ。

 将来的に〈アルテナ〉が配備されるようになれば、訓練校でもそれを前提にした教育内容が組まれるようになっていくだろう。

 セルジュの今の話は、生身での戦闘経験が豊富な二等精霊司が大量に精霊機乗りになるであろう転換期だからこその提案だった。


「うーん……」


 フォルスは難しい顔を崩さない。


「そんなに難しいことなのか?」

「……出来る出来ないで言えば、勿論出来る。……ただ今の〈アルテナ〉にとっては不利な要素になる」


 装備のバリエーションを増やすと言うことはそれだけ手間とコストが増加するということだ。新たにかかる費用を試算して提出すれば、また反対派の貴族達がこぞって口を挟んでくるに違いない。その結果開発に遅れなどが出る可能性を考えると、簡単には賛同出来なかった。

 悩むフォルスを尻目に、話を聞いていたエナーシアは感心したようにセルジュを見やった。


「ふうん……なるほどね。私は剣と盾には最初から慣れてたからあんまり意識したことがなかったわ」

「だろうな」


 女性精霊司の精霊は生物の形を持っているので、精霊司は精霊とは別に自身が戦う手段を学ぶ必要がある。自分の精霊との相性を意識する場合もあるが、大抵の場合は双剣や剣と盾などオーソドックスな形で落ち着く。汎用性が高いのだから必然だろう。


「エナが身につけてるのは騎士団のものじゃないよな? リゼンシュタール仕込みか?」

「ええそうよ。リゼンシュタールではまず一番最初に盾の扱い方を重点的に学ぶのよ。私もそうだったわ」

「どうりでな。上手いわけだ」


 ここ数日間、精霊機の模擬戦で見てきた盾捌きを思い返して納得する。

 生身での模擬戦では勝てているのだから精霊機でも勝てない道理はないのだが、エナーシアの盾を用いた戦法に攻めあぐねているのが実情だ。相手の土俵の上で戦っているのだから当然といえば当然なのだが。


「なあフォルス、分かるだろ? 慣れない装備だと俺がエナに連戦連敗するくらいに戦力が落ちるんだぞ。早急な対応が必要なはずだ」

「その言い分にはすごい不満があるんだけど!?」

「ううん……それは確かにそうかもしれないね」

「ちょっと真顔で言うの止めてくれないかしら!?」


 そうやって暫し三人が雑談も混ぜながらアルテナについて意見を交わしていると、そこに日輪の如くハツラツとした大きな声が差し込まれた。


「良いだろうっ、セルジュ二等精霊司! そこら辺の案をまとめて近日中に提出したまえ! この私が直々に、前向きに検討しようではないか!」

「工房長……いいんですか?」


 フォルスは驚いたようにジストロンを見やった。


「かまわん! 五月蝿い者どもは多いが、完成した〈アルテナ〉が木偶の坊と思われるのも癪な話だからな」


 ふん、と鼻から息を拭かせる白髪の老人からは揺らぎのようなものが感じられない。最早、議論の余地はないのだろう。


「あいよ、任された」


 工房長から直々に許可を貰えるなら安心出来ると、セルジュは少し意外に思いつつも頷いてみせた。

 日頃から自身を偉大と言って憚らない老人のことだ。ジストロンの性格からして他人の意見を素直に受け入れるような殊勝な性格をしているとは思わなかったのである。

 だが少し冷静に考えてみれば、余人の話に耳を傾けないような人間が王国が抱える中央工房の長の位置に納まれるはずもない。真の才人とは己の才覚に加えて周囲の知識も貪欲に取り入れるような者のことなのだろう。何にせよ意見する側としてはありがたい話だった。


「大丈夫なんですか? 費用の高騰を理由にまた難癖を付けられる可能性も。最悪計画自体に大幅な遅延が発生するかもしれませんよ」

「ふん。レイヴォルフはそこまで愚かな王ではなかろうよ。必要であれば多少の苦汁は飲める男だあれは」


 エストランジュ王国現国王と個人的な付き合いのある第二中央工房の主は、そう言って特に心配はしていないようだった。

 確かに反対派の貴族達は邪魔で無視出来るようなものでもないが、私利私欲や勝手な猜疑心に駆られる者達の声を素直に聞いて頷くほど、今の王は無能ではない。ジストロンはそう信頼しているのだろう。

 揺らぎの無い老人の言葉にフォルスは口元を引き攣らせる。その理由はこの工房の長と国の王の間に築かれていることを窺わせる強い信頼関係について……では、もちろんない。

 フォルスはどこからともなくやって来た頭痛を堪えるように顔を顰めて、


「工房長……お願いですから、報告会の場で間違えても陛下を呼び捨てにしたりしないでくださいね」

「うむ……」


 嫌な小言を耳にしたかの様にジストロンは顔を顰めながらも一つ頷き、


「まあ、努力はするとしよう」

「いや、本当に止めてくださいよ!? 不敬罪で牢屋に叩き込まれますからね!?」



   ***



 既に日が沈んだ時間帯、工房にある一室をでセルジュとエナーシアは同じ机を囲んで意見を交わしていた。ジストロンのお墨付きを貰った後、セルジュは早速装備の考案に取りかかったのである。エナーシアはその助っ人だった。

 暗い室内を照らしているのは精霊鋼を基本に錬成して創られた照石と呼ばれる物だ。定着されたマナに反応して常に一定の光量を保つこの照石は、不安定かつ火災等の危険性もある蝋燭よりも遙かに信頼度が高い。精霊鋼が役立つのは何も戦場だけの話に限ったことではなく、こうして生活の一助にもなっているのである。


 照らされる机の上に積み重なっているものはフォルスに取り寄せて貰った資料の束だった。頼んだときには「僕の仕事じゃないんだけど……」と渋い顔をしていたのだが、何だかんだで迅速に用意してくれる辺り、やはりあの貴族の青年は優しくて有能だ。それと同時にそりゃ仕事を押しつけられるはずだと気の毒にも思ってしてしまうが。

 それらを見渡しながら、セルジュは改めて確認するように言う。


「必要なのは、生身で実戦を経験してきた現役の二等精霊司達が充分に実力を発揮出来る〈アルテナ〉の装備。その為には出来る限り精霊に類似したものを用意する必要がある」

「そうは言っても、装備を細分化するにしてもやっぱり限度はあるでしょ。数を絞らなきゃ切り無いわよ?」

「まあそこが問題なんだよな」


 エナーシアの尤もな言葉に、セルジュは困ったようにくしゃりと前髪を弄った。悩んだ時や迷った時に見せるその仕草がそれがこの青年の癖なのだと、エナーシアは最近になって気がついていた。


「出来るだけ多様化したいんだけどなあ……」


 精霊というものは基本的に個体差が激しく、同じ形態を取るものは無いと言われている。血縁などによって似通う傾向はあるが、差異は必ず存在するのだ。例えば剣の精霊と一口に言っても、刃渡りの長さや両刃なのか片刃なのか、直刀か曲刀かなどで種類は違ってくる。またセルジュのエゼルファルトのようにマナを活性化させて一時的に姿を変貌させるものも存在する。そういったパターン全てを網羅するのは現実的に考えて不可能なことだ。 

 一体どこまで汲み取り、どこで区分するのが正解なのか。

 現状の〈アルテナ〉の剣にしてもセルジュにとっては刃渡りが短いように思えるが、エナーシアにとっては不足無いという。その境界線をどこに合わせるべきなのかが焦点だった。


「剣はとりあえず両刃の長いのと短いの、二種類で様子見するしかないか。長槍と棒術は統合できそうだが……運用がまるで別物の円錐槍は別にすべきだろうな。問題は大鎌とかブーメランみたいな独自色がやたら強い連中だよな……」

「そういう精霊司達はそもそも〈アルテナ〉の操縦者に選抜しなければ良いと思うんだけど。〈アルテナ〉を精霊司に合わせるんじゃなくて、〈アルテナ〉に合った精霊司を見繕った方が良いんじゃないの?」

「あー……その手があったか」


 仮に〈アルテナ〉が正式に量産されたとしても全ての二等精霊司がその操縦者になるわけではない。

 一般人の兵士とは比べものにならない身体能力を持つ二等精霊司達は現在の戦場に於いて、遊撃戦力や斥候、或いは少数行動する精霊機の随伴として重宝されている。その殆どが平民出身で多少乱雑に扱っても文句が出ないということもあるのだろうが、部隊構成の一翼を担っているのは事実だ。それは〈アルテナ〉登場後も変わることはないだろう。


「そうだな。選ばれない連中には悪いけど、そうするしかないか……」

「……というか私、思ったんだけど。それなら、そもそも剣と盾を扱える精霊司達だけを〈アルテナ〉の搭乗者として王国内から選抜すれば良いんじゃないの? ……そうよっ、これならわざわざこんな装備合わせなんて面倒なことする必要もないじゃないの!」


 口に出してみてしっくりときたのか、さも名案を思いついたかのように表情を明るくするエナーシア。その子供ぽい姿に一つの魅力を見いだし、セルジュは小さく笑いを漏らしてから首を横に振った。


「それはちょっと怖いな。確かに剣の形を取る精霊は多いが、地方によって偏りがある。それにこんな早期から発展性を損なうのは勿体ない。〈アルテナ〉は良くも悪くも生まれたての赤ん坊みたいなものだからな」

「……育児計画はしっかりとってこと?」

「そういうことだ。子供の取れる未来は多くするのも親の仕事だろ?」


 面白い例えだと笑うセルジュの台詞に、照石の灯りに照らされたエナーシアの顔色がさっと赤みを増した。


「お、おお親って……そ、そ、そ、それはつまり、あれよね? 夫婦というか、は、母親と父親は、その、つまり……ね。わ、わたし、と、あんたが……」

「父親は当然爺さんだとして、まあ、エナが母親か? フォルスは面倒見の良い長男で、途中参加の俺は親戚か何かになるのかね」

「……」


 途端に上気していた頬色を素面に戻して、エナーシアはジト目で隣に座るセルジュを見やった。


「……わざと?」

「なんの話だ?」


 そう言うセルジュの表情には隠しても隠しきれない笑みが浮かんでいて、エナーシアは柳眉を逆立ててそっぽを向いた。


「……ふん、なんでもないわよ! ばーか!」


 そうやって苛立ち拗ねた顔でも見惚れそうになるのだから、美人というものは得な要素である。

 少し意地が悪いかもしれないが、セルジュは黄昏色の髪を持つ少女のこうした仕草や態度が気に入っていた。その為にからかっているともしフォルスが聞いたならば「君は子供か」と呆れていたことだろう。

 別段、セルジュは他人の気持ちに鈍感というわけでもない。理由は不明だが、この同僚の彼女が自分に好意に近いものを抱いているということにもある程度ではあるが気がついている。

 だがセルジュは今のところ、彼女とそういう関係になるつもりはなかった。

 彼女とのぬるま湯のような今の関係が、セルジュにとっては存外に心地良いものだからである。確かに彼女の端麗な容姿に惹かれるものはあったが、今ある温度を大切にしておきたいと感じている。少なくとも、向こうから踏み込んでこない限りは、セルジュが関係に歩みを進めるつもりはなかった。

 もしかしたら、戦場から外れたここの空気に自分は酔っているのかもしれないなと考えながら、セルジュは傍目にも分かりやすく大きな息を吐き出した。


「あーそれにしても……こうして色々と考えてみると装備が剣と盾って形に落ち着いたのも納得がいく気もしてきたぜ……。けど如何せん汎用性があっても馴染みがないからな……素人武芸で戦場に行くのは自殺行為だし」


 多少強引ではあったが、話題を戻すために口にしたその内容は嘘ではない。

 装備の分類分けにかかる手間暇とコスト増加のデミリットを考えれば、多数の局面に於いて応用の利きやすい今の装備に落ち着くのも分かる気がする。

 だが、かと言って現役の二等精霊司達が実戦で積んできた経験を白紙にし、最初から仕込み直すのはどうしてももったいないと感じてしまう。 

 その塩梅に悩むセルジュの横顔をエナーシアは若干不機嫌そうに隣の席で眺めながら、それでも気を取り直して小首を傾げながら尋ねた。


「……ねえ、私は正直あんまり実感が無いんだけど、やっぱり盾ってそんなに馴染みがないものなの?」


 そんな彼女をセルジュはちらりと見やって、


「……まあそうだな。女性精霊司だと扱いを習得してるのも多いだろうけど」


 精霊が生物として独立行動する女性精霊司はともかく、精霊が武器の形態を取る男性精霊司で盾を扱う者はそう多くない。精霊と通常の武具を組み合わせる者もいないわけではないが、大半は自身の精霊の扱いを習熟することを重視するものだ。

 特にセルジュが率いていたような隊員全員が先天色赤という機動力を重視した集団の場合、その仕事は敵の精霊機の釣り出しなど独立性の高いものとなる。戦場狭しと駆け回るその性質上、盾のような嵩張るものは殊更嫌われていた。


「その代わりってわけじゃないが……こういう隠し武器の類いを使ってる人間は多かったぞ」


 そう言ってセルジュは袖の裏に忍ばせておいた手投げ短小剣をするりと取り出してみせる。瞬きする間に姿を現したその凶器に、エナーシアは目を丸くした。

 少女のその素直な感情表現にセルジュは何度目かの笑いを零して、くるくると手慣れた手つきで回した。


「まあ、こんな感じだ。特に俺の精霊なんかは遠間での攻撃手段が殆ど無いからな。必然的にこういうものに頼ることになる」


 そう言いながらセルジュが取り出した短小剣を懐に仕舞う動作にも淀みはなく、エナーシアにはそれがまるで手品のようにも映る。その流麗な仕草からそれが付け焼き刃の代物で無いことは明白だ。


「……というか、あんたは普段から工房でもそんなものを隠し持ってるわけ?」

「癖みたいもんだ。無いと妙に不安になるんだよ」

「まるで暗殺者か何かね……」


 呆れたように言葉を零す黄昏色の髪を持つ少女に、セルジュは肩を竦めて見せた。

 実際、赤の精霊司は機動力を尊び、相手の意識外から不意打ちを仕掛け制圧することも珍しくないのでそう見当違いの意見でもない。


「もしかしてセルジュは〈アルテナ〉にもそういうものがほしいと思ってるの?」

「どうだろうな。精霊機同士の戦闘は生身とは大分勝手が違うから……ただ、咄嗟に即応出来るようなものは必要だと思う。いざという時の備えにもなる」

「そういう時こそ盾を使うべきだと私なんかは思うんだけど」

「そりゃ使えればそうなんだが……」


 馴染みが薄いんだよな、と渋面を浮かべるセルジュにエナーシアが少し強めに言う。

 これまでのやりとりから分かっていたことだが、彼女は〈アルテナ〉の標準装備として盾は残すべきだと強く考えているようだった。


「精霊機同士の戦いだと盾は重要よ。至近距離では即応性の高い殴打武器になるし、マナを行使した敵の予想外の攻撃に対しても咄嗟に反応することが出来るもの。簡単に切り捨てるのはどうかと思うわ。最悪〈アルテナ〉の生存率にも関わってくるから」

「うーむ……」


 盾は防御にも攻撃にも使える汎用性の高い得物だということは、セルジュも十分に理解しているつもりだ。だがそもそも、付け焼き刃ではそれが出来ないからこそ現状の装備に不満を持っているわけで――……、


「そもそもな話、片手が盾で塞がってる時点で落ち着かないんだよなー」


 セルジュは愚痴を言うように呟くと、机の上に突っ伏した。広げていた資料が何枚かがはらりと揺れながら床の上に落ちていくが、セルジュは気にしない。

 セルジュの精霊エゼルファルトは灼熱色の片手剣である。基本的にもう片方は空き手としながら戦場に身を置いていたので、両手が埋まっている現状は体幹のバランス的にも違和感が濃い。かといって盾を捨てて片手を確保したところでそれを生かせるような〈アルテナ〉の装備も現状は無く……、


「武器の分類分けはまあ良いとして、せめて盾の扱いをなぁ……」


 盾の優秀さはセルジュも認めるところであるが、それをどうしたら二等精霊司達にも違和感を無くして使えるようになるのか。そもそも防具で片手を塞ぐという時点で男性の二等精霊司にはあまり馴染みの無い形になってしまうのだから……、


「………………………あ、そうか」


 そこでふと、思いついたようにセルジュが顔を上げた。

 隣でセルジュの横顔をこっそり眺めていた少女は、びくりと驚いたように肩を振るわせた。


「ど、どうしたのよ。なにか良い案でも浮かんだの?」

「……盾だからって手を塞ぐ必要は無いんだ。……そうか、そうだよな。精霊機なんだから、なんでこんな単純なことに気がつかなかったんだ、俺は! ……あー先入観って恐えー……」

「……ねえ、どういうこと? ちょっと、一人で納得してないで説明しなさいよ!」


 何事か思いついたと言うことは分かるが、内容の具体性が一切出てこない。

 じれたように催促してくるエナーシアに向かってセルジュはふふんと自信ありげに口の端を釣り上げて見せる。


「つまり、盾なんて持つ必要なかったんだよ!」 

「意味が分からないんだけど……」


 エナーシアは渋面を浮かべて呟いた。


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