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Invisible  作者: Persy
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episode04-少女の記憶

 目覚めたら、そこにいた。


 何でかは分からなかったけど、何をすべきかは分かった。


 私は勇者を選定し、邪神を倒して貰う力を授けるために、そのためだけにいるのだと。


 神殿の外には出られなかったけど、扉の外には雄大な自然とそこに住む生き物たちがいたから、ちっとも寂しくなかった。


 私は彼らのところに行けなかったけど、彼らは私の下に来てくれた。


 野ウサギとかリスとか、大きな子だとドラゴンとか!紫色のチョウチョが来てくれた時は、その美しさにはしゃぎ回った。


 ある日、初めて勇者を召喚した。魔法を使って現れたのは仲良くなったウサギさん。彼には私の作った草のネックレスを上げてたの。ちょっと型崩れしてたけど自信作。


 私はその子に勇者の力を与えて送り出した。まだ弱い力だけど、仕方ない。ガンバって!


 ウサギさんが負けちゃった。邪神に立ち向かって行ったけど、何もできずに負けたらしい。


 私は泣いた。もう彼に会えないのだと思って。


 邪神は彼を殺すと、暴れるだけ暴れて帰っちゃったんだって。ドラゴン達が教えてくれた。


 挫けちゃいけないわ。絶対に邪神を倒して見せるんだから!


 次に私が召喚したのは、お話して仲良くなったリザードマン。蜥蜴族って言うんだっけ?


 彼女にも、事情を話してお願いしたら分かってくれた。彼女はドラゴンみたいな鱗も持ってるし、きっと大丈夫!


 彼女もすぐに負けちゃった。二度目だけど、辛いものは辛い。私はまた泣いた。


 ちょっと気分転換に神殿の外を見てみると、神殿の足元の地面が露出していた。ちょっと先で草木が途切れてる。なんでだろう?


 動物達やドラゴン達が慰めに来てくれた。皆で遊んだりお話したり、とっても楽しかった。皆も邪神を倒して、安心して暮らせるのを望んでる。期待に応えるためにもガンバらなくちゃ!


 ドラゴン達は、私を応援するようにたくさんの宝石とか金貨とかキラキラした物を持ってきてくれた。

これで皆にもっと綺麗なプレゼントを作ってあげよう。


 私は次々と、私からの贈り物を持った勇者を召喚した。普通の動物達にドラゴン、猫人族、犬人族、エルフ、ドワーフ、獣人族とかいっぱいいっぱい!


 少しずつ勇者の力が強くなって来たみたい。もう少しで邪神に勝てるかも。ファイト!


 ちょっとしてから、ドラゴン達がもう少しだって教えてくれた。でも、前ほどお話してくれなかった。すぐに帰りたそうにしてたし、何か用事かな?


 召喚に一生懸命で、あんまり気にしてなかった外に目を向けると、結構離れた所まで岩肌が見えていた。動物達もドラゴン達も、草木まで近くにいない。あれ?こんな風だったっけ?


 ある時、異世界から人間を召喚した。なんでだろう?私のプレゼントをどうやって手に入れたんだろう?


 事情を話して、異世界から召喚したって教えたら凄く悲しい目をされた。結局は旅立って行ったけど、私にはその目が決して忘れられない。


 次に異世界人を召喚したら、すっごくその人に怒られた。恋人をどうすればいいのかって、涙を流しながら詰め寄られた。怖かったけど、私には謝ることしか出来なかった。


 その夜、その人が旅立ってから一人で泣いてたけど、誰も慰めに来てくれなかった。


 もう何回目の召喚になるかわからかったけど、やっと邪神を倒した。ドラゴンが教えてくれたんだけど、義理は果たしたって言葉と、その報告だけで帰って行った。


 ある日、昔ここに住んでいたおっきなドラゴンの子供って言うエンシェントドラゴンがやって来た。なんでも、邪神を倒した勇者と戦いたいんだって。


 ちょっと時季外れだったから、その子には召喚の時期を教える代わりに私の話し相手になってもらった。


 この子のお母さんがこの地から去って行った理由を聞いてみたけど、言いにくそうにして教えてくれなかった。そういえば、神殿の外が荒野になっちゃったのっていつからだろう?覚えてないや。


 それから何度も勇者を召喚した。この世界の勇者はいいんだけど、他の世界の勇者は事情を話すとやっぱり同じ目をする。ひどい時には、ふらふらになって、決闘を申し込むあの子に殺してくれって言ってた。私には心の中で謝ることしか出来なかった。口に出しても、私にはどうすることもできなかったから。


 ある時、変なことに気づいた。召喚をしている時に一気に萎れた神殿の壁に張り付いてるツルが、ちょっとずつ、ちょっとずつ緑に戻ってる。なんでだろう?今度、あの子に聞いてみよう。


 少し後にあの子がお話をしに来てくれたので、この話をしてみた。また前みたいに言い辛そうにするので、気になって問い詰めてみた。彼は言いたくなさそうだったけど、ポツリポツリと話し出した。


 え?


 私が?


 私のせいで?


 だから皆?


 わかんない。


 わかりたくない。


 いやだ。


 やだやだやだやだやだやだ!


 私は駄々をこねた。彼の話を理解したくないと思った。心の底からそう願ったけど、それは叶わなかった。


 彼によると、皆は私のせいで住処を失ったらしい。


 私が勇者を召喚する度に少しずつ草木が枯れ、動物が死に、荒れ地が増えて行ったんだって。


 初めはよく分かってなかったらしいけど、私が召喚をした時に神殿の近くを見てた子が見ちゃったんだって。


 この神殿にある祭壇が、私と周りの魔力を吸収して力を作り出しているみたい。


 彼らが私の周りからいなくなった理由が分かった。


 そりゃそうだ。近くにいたら、それだけで死んでしまうかもしれないのだから。


 何が勇者を呼ぶ神だ。何が美と継承の女神だ。これじゃ死神じゃないの!


 私はこの場所から逃げたかった。皆の下に行きたかった。こんなことをしたくなかった。


 でも逃げられなかった。私がこの役目を止めれば世界は邪神の脅威に怯えることになるだろうし、第一、この神殿から一歩たりとも出ることは出来なかった。


 神殿の扉の前に、私にだけ立ちふさがる壁。それはまるで、私が世界から拒絶されているようだった。


 私はがむしゃらになった。唯一、勇者召喚だけが、私が世界と繋がり、私を拒絶する世界のためになると思って。


 何度も怒鳴られ、何度も泣かれた。


 でも止めない。


 世界は私を嫌っても、私は世界が好きだから。


 せめて呼び出される勇者には元気に接しなくちゃね。


「う~ん……どうしようかなあ……」


 本当はどうもしたくない。


「まずいなあ~……もう時間ないよう……」


 でも止めることは出来ない。邪神が復活してしまうから。


「う~……ん?」

「そうだ!いないなら呼べばいいんじゃない!」


 思い付きたくなかった手段を思い付く。本当は呼びたくなんかない。


「……サーチクアリフィケイション」


 見つからないで欲しい。その人に不幸を与えてしまうから。


「やったー!やっぱり、私の思いつきに狂いはなかったわ。これでやっと解決するっ!」


 解決なんかしない。呼び出される人の人生を狂わす問題を起こしてしまうのだから。でも、選ばれる人自体に対しては、喜んであげないとね。その人の存在に対して、私が悲しそうにしているなんて最大の侮辱だ。今回も邪神を倒してくれるといいな。


「ふふふ……さあ、いらっしゃい!私の勇者」


 今日も元気に勇者召喚。空元気でも、笑顔を浮かべて。


「……サモンブレイバーっ!」


 誰か、私を助けてください。

 

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